窪塚洋介『沈黙-サイレンス-』トークイベントで「役者を辞めてもいい」

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マーティン・スコセッシ監督がかねてより念願の企画と語っていた『沈黙-サイレンス-』が2017年1月21日(土)に公開を迎えるにあたり、原作者・遠藤周作のゆかりの地・仁川にある関西学院大学を会場にスペシャルトークイベントが実施された。遠藤周作研究者である関西学院大学教授の細川正義氏と、遠藤周作学会会員であるノートルダム清心女子大学教授の山根道公氏をゲストに、遠藤周作と「沈黙」について対談した後、スペシャルゲストとして颯爽と登場したのは、本作『沈黙-サイレンス-』にてキチジロー役を熱演し、本作でハリウッドデビューを果たした窪塚洋介だ。そのトークイベントの一部をお届けする。

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質問者:まずは試写にて完成した本作をご覧になられてどの様に感じられましたか?

窪塚:原作にもある要素なんですけどすごく“懐の深い作品”になっていました。「答えはこれなんですよ」と押し付ける事ではなく、答えに自ら到達するための事実を積み重ねてくれている。本当にマーティン・スコセッシ監督という人が日本に敬意を持っていてくれているなと。撮影現場で1カット終わるたびに出てきてくれて「よかったよ!」といったサインをくれる。京都から行った太秦の職人さんたちの末端にまで敬意を払ってくれていたし、時代考証やセリフも含めてすごく丁寧に繊細に作ってくれていたので嬉しかった。すごく寒い時期の撮影だったけれど喜びの中だったのでしんどいのも喜びのうちで、それすらへでもないほどで。参加出来て嬉しかったし、改めて観てみて、思わず手を合わせてしまう様な有難い気持ちになりました。素晴らしい作品です!

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質問者:この映画の中でこれを一番みなさんに伝えたい!という想いはありますか?

窪塚:この時代に、この『沈黙』という映画、自分の中から答えを見つけてくれ、と神が沈黙するという事には意味があって。マーティン・スコセッシ監督はキリスト教賛否両論もないし、本当に目線がフラットなんです。僕らに委ねてくれる感覚が重要で、僕が思う一番の醍醐味で一人一人の中に答えがある、それでいいよ、と背中を押してくれる作品だと伝えたいです。何故、当時日本がキリスト教を禁制にしていたかについても描かれている訳なんです。そこすらマーティンは距離を取って描いてくれている。浅野さんが演じた通辞とアンドリューが演じたロドリゴ神父の問答がまさにキリスト教対仏教の問答なのでとても面白い。どっちにも肩入れすることなく描いているのでその点でも偉大な監督だと感じました。

質問者:演じられたキチジローという役について、演じられていていかがでしたか?

窪塚:キチジローは醜くて、弱くて、ズルくて……負の権化の様に言われるのですけど、踏み絵を踏んでしまう弱さという言い方と、踏み絵を踏む事が出来る強さという言い方があると思うんですよね。誰も絶対に踏めないという空気の中でそれを踏んでしまうという事を考えたらもはや強いのか弱いのかわからない。原作の中で独白のないキャラクターなので、セリフと誰かからの目線のキチジローというものを拾ってきて役作りをするんですけど、余白がすごく多いんです。自分とキチジローとの余白を何で埋めたら自分はキチジローを生きられ繋げてくれるかと思った時に出てきたのが“イノセント”さというキーワードでした。イノセントだから弱い・強い・裏切ってしまう……子供の頃の善悪の分からないまま成長したという役の捉え方をしました。マーティンが、「28年間やりたいと思って描き続けてきた「沈黙」の自分のイメージしてきたキチジローではなく、本当のキチジローがそこにいた」と言ってくれてとても嬉しかった。監督とは一切キチジローの人となりの話をしていなくて、最初の時点で委ねていてくれていたんです。信頼してくれていたんだなと思います。キチジローは、“踏み絵マスター”みたいなところがあるのに、晩年までキチジローがロドリゴに添い遂げコンフェッション(告悔)させてくれと頼んで疎まれたりとかして。信仰と宗教は違うのかなという事も思いました。信仰はもっともっと感情に近いところにあるんじゃないかと。キチジローはどちらも選択していたのかなと……ブレブレだったかもしれないですけど、そのブレの幅すらイノセントさの中に納まっていたのではないかなという気持ちになりますね。

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質問者:俳優同士で役の在り方についてお話されたことはありますか?

窪塚:ロドリゴ役のアンドリューはメソッド俳優という……寝ても覚めてもその役でいるという俳優さんなんです。それによって、もう撮影の後半は追い詰められたロドリゴそのもので挨拶も出来ないし……。ただ完成した映画を観てそのすごさが画に出ていて、感極まりました!役に入り込み過ぎて傍若無人な振る舞いが目立つ事もありましたけど、それも映画を観て許せました(笑)。その凄さは作品を見てもらえたら解ると思います!

質問者:監督から、日本人としてのキチジローといった点について、“日本人”的な事で要求はありましたか?

窪塚:スコセッシ監督は僕らの中に元からある日本人らしさというものを感じ取ってくれていたなと思います。それが画面に映るようにという事だったのかなと。塚本さんの映画も観られていましたし、お寺のシーンでの鐘が鳴るタイミングであっても、その情緒感が、日本人に近いなと感じられる点も多いので、そういった事でも楽しめると思いますね。僕も卑屈に見える様に!と役を演じる事もありますけど……(原作者の)遠藤さんも仰るように、マーティンさんもキチジローにものすごく共感している部分があったと思いますし、みんながキチジローの中に自分をみてしまうのではないかなと思っています。

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途中、山根教授からの「どこまでロドリゴとキチジローとの関係を描いているのか?踏み絵を踏むところで大きなクライマックスですが、そのあとの本当の関係が深まっていくところはどこまで描かれているのですか?」との質問に対して、窪塚は「いわゆるネタバレですね!(笑)」と返し会場を沸かせる場面も。

最後に窪塚は参加者に向かい「日本の役者さんたちも力強くて格好良くて泣きました……素直に素晴らしくて、正直辞めてもいいかなという気持ちになってます。是非劇場で観て“沈黙”してください!嘘です(笑)」という言葉を残して去って行ったが、降壇時には拍手が鳴りやまず、本作への期待の高まりが見て取れ、実に濃厚で遠藤周作と『沈黙-サイレンス-』についての多くを知る事が出来るスペシャルなトークイベントとなった。

『沈黙-サイレンス-』は、2017年1月21日(土)に全国公開。