シドニー・シビリア監督 × 荻上チキ『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』スペシャルトーク付き試写会レポート

ゴールデンウィークに毎年恒例となった「イタリア映画祭」で昨年上映され、大好評を博した『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』が、5月26日より公開されるのに先だち、4月26日に日比谷コンベンションホールにてスペシャルトーク付き試写会が行われ、シドニー・シビリア監督と評論家の荻上チキが登壇した。

観客の前に大きな拍手で迎えられると、「ありがとう!こんなにたくさんの方にお集まりいただいてとても嬉しいです。」とシドニー・シビリア監督、そして「一緒に監督の話、映画を堪能できればと思います」と荻上チキの挨拶でトークが開始。まず荻上からの、「本作は、全3作品のシリーズの中の第2作目となるのですが、欧州危機の影響で研究者としての職にありつけなかった天才学者たちが社会に増え続ける麻薬の撲滅チームを作るという、ある意味彼らの知識が無駄遣いされているとても痛快なコメディとなっています。普段どのように映画の着想を得ているのか、また、ポスドク問題(=研究者が博士号を取得したのに、正規の職に就けない事態)に着目したのはどんなタイミングだったのでしょうか?」という問いに対し、シビリア監督は「映画の企画を構成していた当時、ローマ大学のそばに住んでいて、大学の研究費の多くが削減されることがマスコミに大きく報道されたんです。それを受けて研究員たちがデモを繰り広げていました。今でもそれは実を結んでいないのですが、最高の頭脳が収入としては最底辺にあるというパラドックスが、ある種のコメディを語るのに最適な素材なのではないかなと考えたのがそもそもの出発でした。」と作品を作る経緯を語った。

以下は2人のクロストークを。

荻上:日本でも大ヒットした『ハングオーバー!』シリーズもそうですが、大きなことをやらかしてしまうギャップ、しかしそこから謎を解いていくというスリリングさ、その両方がこの作品に詰められていると思います。しかしとってもシリアスな問題とコメディを結びつける手法、その二つの要因は監督の中でどのように接点を持ったのでしょうか?

シビリア監督:コメディは出発点が悲惨であればあるほど面白いんですよね。これはイタ
リアの映画界伝統の手法でもあって、イタリアの良質なコメディは第2次世界大戦後に次々と生まれています。その時の世の中がどうだったかというと、圧倒的な貧困があった。そこにコメディが生まれたというのがイタリア映画の強みでもあります。その系譜に連なるような映画なのかなと思います。過酷な状況や悲惨な現状を笑いに変える、それがイタリアのコメディの本質だと思います。

荻上:第1作目『いつだってやめられる 7人の危ない教授たち』がイタリアをはじめ世界中でスマッシュヒットしたわけですが、その感想と本作をつくるプレッシャーはいかがでしたでしょうか?

シビリア監督:実は1作目が出る前までは、僕は監督として全くの無名で広告のフィルムや短編を作っていました。予算を含め、規模の小さい映画がここまで大きな反響を得ることは全く予想していませんでした。しかもイタリアだけでなく、海外でも反響を得たことで色々なプロデューサーから次回作のオファーを受けるわけです。そこで続編を作ってくれないかと言われたのですが、イタリア人の監督にとっては手を出したくないところがあるんです。というのも、コメディでも作家性や、芸術性の高い映画が主流なんです。でも続編ができるメジャーな映画は小さいアイディアを膨らませてできる映画というようなイメージがあったので、続編ではなくあえて3部作にしたいとプロデューサーに言いました。絶対こんなの受けてくれないだろうなと思っていたら、GOサインがでたのでやむを得ず撮ることになりました!(笑) 1作目の続きを見せるのではなくて、“1作目で語られていたのはある視点でしかない”というような、一歩引いてみるとまた別の視点で同じものが見えてくるという手法が面白いと思っていました。

荻上:ある意味アベンジャーズだなと思いました。1作目、2作目で別のヒーローが加わってきて、それぞれの才能を生かして悪と立ち向かっていくという王道な物語があるけれど、インテリジェンスと貧困というある種のギャップが悲哀なユーモアに変えていますね。映画の中に様々な社会現象が出てきますが、映画を作るにあたって情報収集はどのようにしていましたか?

シビリア監督:専門的なテーマを選んだということでリサーチは欠かせなかったのですが、研究者に合って話を聞いても彼らの話がちんぷんかんぷんでした。一番大変だったのがラテン語でした。今は使われていないラテン語を母国語のように俳優に話させる必要があり、俳優を“3週間通えばラテン語が話せるようになる!”と宣伝文句が掲げられていたローマ郊外のラテン語学校に送り込みました(笑)

イベントの最後にシビリア監督から「メッセージは映画の中に込めました。映画こそが僕からのメッセージです!」とこれから観る日本の観客に向けてコメントがあり、トークイベントは終了した。

『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』
5月26日(土)、Bunkamura ル・シネマ他全国ロードショー
監督・原案・脚本:シドニー・シビリア
出演:エドアルド・レオ ルイジ・ロ・カーショ ステファノ・フレージ グレタ・スカラノ ヴァレリア・ソラリーノ
配給:シンカ

【ストーリー】 大学を追われた神経生物学者のピエトロ・ズィンニ(エドアルド・レオ)は、仲間と合法ドラッグ製造でひと儲けを企むも逮捕され服役していた。世間では新しいドラッグが蔓延し、摘発に手を焼いていたパオラ・コレッティ警部(グレタ・スカラノ)は犯罪履歴の帳消しと引き換えに彼に捜査の協力を持ちかける。かくしてピエトロは国内外ばらばらになった研究者仲間を再び結集し、事件解決のため奔走するがー。

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