同性愛者の存在すら認められなかった時代、恋に落ちた詩人と青年の物語『蟻の王』11月公開

イタリアの名匠ジャンニ・アメリオ監督の最新作にして、第79回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に出品され独立賞5部門を受賞した『Il signore delle formiche(原題)』が、邦題を『蟻の王』として11月10日より公開されることが決定。併せて、ポスタービジュアルがお披露目となった。

カンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞した『小さな旅人』(92)、ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞受賞の『いつか来た道』(98)、2004年の『家の鍵』はヴェネチア国際映画祭で3部門受賞、米アカデミー賞外国語映画賞のイタリア代表作品に選出されるなど、ヨーロッパを代表する名匠ジャン二・アメリオ。人と人の繋がりを、時に冷徹に、時に繊細に描き続けてきたアメリオ監督が選んだ題材は、同性愛者の存在すら認められなかった時代に恋に落ちた、実在した詩人で劇作家のアルド・ブライバンティとその教え子を巡る史実、“ブライバンティ事件”にインスパイアされた、“人間の尊厳”を問い直す、魂を揺さぶる物語。5月のイタリア映画祭でプレミア上映され、正式公開が待ち望まれていた作品だ。

1960年代、イタリア・ポー川南部の街ピアチェンツァに住む詩人で劇作家、蟻の生態研究者でもあるアルド(ルイジ・ロ・カーショ)は、教え子の若者エットレ(レオナルド・マルテーゼ)と惹かれ合い、ローマに出て共に暮らし始める。しかしエットレの家族は二人を引き離し、アルドは逮捕、エットレは同性愛の“治療”で電気ショックを受けさせられるため矯正施設に送られてしまう。世間の好奇の目に晒されながら裁判が始まった。新聞記者エンニオ(エリオ・ジェルマーノ)は熱心に取材を重ね、不寛容な社会に声を上げるのだが…。

ファシスト政権下のイタリアでは同性愛者は存在すら認められず、それを禁ずる法もなかったものの、その一方で“教唆罪”という犯罪が成立、1968年にアルド・ブライバンティは、若者をそそのかした「教唆」の罪に初めて問われて逮捕され、裁判になった。これに、小説家のアルベルト・モラヴィアやウンベルト・エーコ、映画監督のピエル・パオロ・パゾリーニ、マルコ・ベロッキオら芸術家たちが強く反対の意を表明、世に激しい議論を巻き起こし、のちに“ブライバンティ事件”と呼ばれた。アメリオは製作の動機を「今も存在する“異なる人”に対する憎悪に立ち向かう勇気を与えたい」と語っている。主演アルドを演じたのは、『輝ける青春』『夜よ、こんにちは』『いつだってやめられる』シリーズ等で知られるイタリアが誇る名優ルイジ・ロ・カーショ。本作での演技を「ブライバンティの複雑さと弱さを驚くほど繊細に表現している、卓越した演技」(londonmumsmagazine)と絶賛されている。アルドとの愛を貫き通そうとするエットレ役には、『若者のすべて』のアラン・ドロンを彷彿とさせる、新星レオナルド・マルテーゼを抜擢。その全身全霊の演技を、アメリオは「映画の奇跡」と称した。また、裁判のゆくえを見守る新聞記者エンニオ役には、カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞歴を持つエリオ・ジェルマーノが扮し、映画により一層の深みを与えている。解禁されたポスタービジュアルは、アルドの切なげな表情とエットレの美しくも儚げな横顔が目を引く写真に、キャッチコピーの「愛と誇りだけは、誰にも奪えない。」が象徴的に映えるものになった。

『蟻の王』
2023年11月10日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
監督・脚本:ジャンニ・アメリオ
脚本:エドアルド・ペティ フェデリコ・ファバ
出演:ルイジ・ロ・カーショ エリオ・ジェルマーノ レオナルド・マルテーゼ サラ・セラヨッコ
配給:ザジフィルムズ

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