【全起こし】『食べられる男』連日イベント③ ヒリヒリするほどの本音が飛び交う若手監督座談会

第12回シネアスト・オーガニゼーション大阪(略称:CO2)の助成企画として製作された『食べられる男』の連日トークショー3日目は、本作で劇場デビューとなった近藤啓介監督と、同世代の小林勇貴監督、竹内里紗監督、中村祐太郎監督の4人が登壇。若手監督たちそれぞれの思いがほとばしる本音トークが展開し、『若手監督』というドキュメンタリーを見させられているような、熱いトークショーとなった。その模様を全文でお届けします!(ネタバレ注意!!!)

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近藤:作品を観た感想はいかがでしたか?

小林:面白かったです。ただ長回しが多いなと。ああいう長回しをやるときは、何か仕掛けがひとつあると長回しがすごくいきてくるので。結構長いところが散見されて、そういうところはアイデア勝負だと思うんですよ。でも素敵な作品なので俺はちょっと欲が出てしまって、でも面白かったです。

近藤:ありがとうございます。勉強になります。竹内さんは。

竹内:私は、心が成長できなかった人っていうか、世間と対話できなかった人は体だけ成長したら食べられちゃうのかって思ったらすごく悲しくなりました。あと途中までは周りの人の方が宇宙人に見えるというか、なんか優しくしてくるじゃないですか。あれとかも宇宙人じゃんって思って見ていて、でも結局裏切るじゃないですか。裏切ったあと主人公の彼がもはやこの地球で宇宙人みたいになっていて、なんかそれが、可哀想だなーみたいな。なんかポップな話だと思っていたから、結構かわいそーって思って終わったのが驚きました。

近藤:そうですね。それが狙いで。ありがとうございます。

中村:あ、もしもし、中村祐太郎です。えっと、今日は座談会で、自由なトークショーってことですよね。

近藤:20代の映画を撮っている若手ということで。

中村:これ劇場デビューですか?

近藤:そうですね。

中村:個人的に言うと、僕はあんまり好みじゃないんです。すごく好みじゃない作品だなと思って、ただすごく企画が面白くて、“食べられる”ということじゃないですか。いろいろ本多さんが食べられるまでに至る心境の変化とか、応援してくれていた人たちが最後裏切ってとかすごくいい梃子が入っていて、面白いなって思うですけど、なんか僕の個人的な解釈だとドロドロの血液みたいな、なんか美しさがこの映画にもう少し光としてあったらよかったかなと思いつつ、僕もこれからの挑戦ですけど、どう届くかたちで面白く見せられるか、みたいな工夫がもう少しあったらよかったかなって思いました。ざっくばらんに話していくと。

小林:もうちょっとエンタメ性みたいなところで光る所があると。

近藤:あー楽しませるっていうね。

中村:だから、ひと:みちゃんが歌っていて、あれうまいとかエモいとかエンタメじゃなくてすごく味じゃないですか。シミみたいな。あれをどうカメラが捉えるかとかもカメラで見たかったんです。近藤監督含めカメラマンの千田さんとかも僕は知ってる人だから、欲が出る。もっとディープに撮れたらいいねみたいな。

小林:欲が出るね。

近藤:そうですね。時間の制限とかいろいろあるなかで自分のなかで挑戦した結果ですねこれが。なんですかね、もともとやりたかったことっていうのが、根本的なことを言うと、自分に辛いことがちょこちょこ起こって、しょうもないことなんですけど。それが、自分じゃどうしようもない不幸と言うか、絶対に防がれへんし、神様がそうしたとしか思われへんような不幸が起こった。生まれてから一生これを続けている人もたぶんおるんやろうなっていうのを想像して、そういう人を漠然とした何かに食べられているみたいなのが直結して、それをただ描くっていう。物語を見せるというよりは、この作品でそのテーマを83分というかたちとして見てもらおうと思ってつくったんですよね。そのなかでエンターテインメント性をあまり重視していなかったっていう。

小林:したほうがいいですね。素敵な話だったんですけど、そこはした方がいいと思います。しなきゃ誰が見るんだよって。ふざけんなっていう。

近藤:小林さんはつくるときは絶対それは考えますか? どうやって楽しませるかみたいな。

小林:はい。絶対。だから今の話はすごく素敵で、僕はこれを見ていて超怖かったのは、やっぱり小ちゃい頃から何かどうしもない枠にはめられているっていう。宇宙人に主人公は養殖されている、親から何から設定を決められてここで絶対本意ではない人と後尾をさせられて、子供も残させられているところも明らかに宇宙人の意志を感じていて、でも明らかに知性のない人が出てくるから最後、混乱はするんだけど(笑)。だけど養殖されていた感は感じて、それは自分にも感じるから、すごく怖くて。そこがやっぱりあとひとつラストぐらいの突き抜きたエンタメ性みたいなのが、要所要所にあればすごくかっこいいって思って。それを重視しないのはちょっと問題です!

中村:あと個人的になんですけど、ポスプロもうちょっと頑張ればいいなってちょっと思った。

小林:俺も思いました!

中村:音とか色も含め、もう少し上塗りをするだけでも全然見え方が変わってくるのになっていうのはすごくあったんですよね。もうちょっと色を調整するとか、もう少し劇伴を増やしてとか、今、近藤監督がおっしゃった純粋な話はすごく受け取れたし、監督の人柄みたいなのもすごく伝わってくるんだけど、もう少しやっぱり欲として、見せ方を上塗りしてほしかったなっていうのがありますね。

中村:だから時間の制限があったでしょ。そしたら何か退屈になってんなって思う所だけを選んでそこだけ段々色が変わってくるとか、段々音が入ってくるとかをやっていけば。

(客席から:近藤君負けないで!!)

近藤:ちょっともう1回編集し直そうかな。いやまぁ満足でしたけど。

竹内:いろいろ楽しませようとする欲望はたぶんあると思って、それは例えば最後のイメージみたいな空に浮かんでいるUFOだったりとか、いろいろ欲望はあると思うんですよ。それが映画的なテクニックっていうか音とか色とか、それじゃない部分に注意が向いているんじゃないかなって、楽しいなって思ってるんじゃないかなと私は思ったから、そういう指摘も正しいと思うけど、イメージみたいなものをやりたいなと思うところがもっと前面に出てくると、もっとポップになって面白いのかもって思いました。でも今回のもどうやってつくってるんだろうって思うところもあって、そこにはすごい興味が。

近藤:そもそも、最後にちゃちい宇宙人出てきたらおもろいやろってところから始まってるんです。楽しませようっていう気はもともとあるんですけど、それをもっとやっていったら変わったっていうことですよね。これからそういうふうにしていこうかなって思います。

中村:それは超かっこいいですよ。

近藤:こういう意見をどんどん取り入れて。

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竹内:質問してもいいですか。キャラクターの話になるんですけど、良い人と悪い人がいて、良い人に見えてた人は悪い人だったみたいな感じになるじゃないですか。それは辛いなと思った時とかにそういうふうに周りのことを感じてたんですか? 普通じゃないというか、気持ちはグラデーションであると思うんですが、結構パッキリあって。

近藤:そうですね。主人公以外は全員嫌な奴っていうふうにして。本多さんてもともと周りに人がいて輝くタイプだと思ったんで、周りを白黒はっきりさせて本多さんだけを白という状態でやりたかったんですよね。そうしたほうが僕のテーマが見えてくるんじゃないかなと思って。

竹内:それは本多さんを脚本の時点で。

近藤:いやある程度はイメージしていたんですけど、脚本の段階ではそこまで白黒はっきりさせていなくて、本多さんをオーディションを拝見して、もっと本多さんをいじめたくなったんですよね。で、脚本を書いていったていう。

竹内:最初に出てきた時点で、その人でしかないですからね。なんか歩いている姿とか確認してるのとかも、この人はこの人でしかないという感じが。だからたぶん会ったときにそう思ったんだろうなって、私たちは見て思いました。

近藤:例えばこの『食べられる男』をこの企画で撮るんだったらどんな感じになりますか。

小林:どんな感じになるっていうよりかはやっぱり何か、今言った所は直すし、もっとディテールっていうか、俺は何かな、出てくる備品とかも、もうちょっと考えるかなって。例えば、最初に送られてくる手紙みたいなのあるじゃん。あれ、あの紙だったら完全に偽造可能で、もっとお札みたいな紙でつくると思うんですよ。

近藤:あーなるほど、なるほど。

小林:複製可能!あれだったら。そうするとたぶん被食者詐欺っていうのが流行るはずで、詐欺が気になる。被食者詐欺の話をやるそしたら。

近藤:あー。なるほど。

小林:だったらもっとしっかりした紙にして、これはコピー不可能で一点物なんだっていう感じを出したりとか、そういうのを出さなきゃ怖くなっていかないって思って。そこから出てくる悲惨さっていうのがもっとあるから、今言った被食者詐欺とか。もっと高待遇でもいいわけだけど、あの待遇でも通る社会になってるわけじゃん。食われるのに。この待遇でも何の違和感ないってところも見せてどんどん怖くしていきたい。

近藤:あーなるほど。

小林:この状況に何の違和感もないっていう暴力をどんどん見せてほしい。

近藤:ほんまやったら逃げ出すじゃないですか絶対、嫌やし。

小林:でも、そうならないように教育されているわけでしょ。

近藤:そうですね。

小林:そこをもっと。

近藤:見せるっていうことですよね。中村君やったらどんな感じに。

中村:これ? これは梃子入れるとしたら?

近藤:梃子入れるとしたら。

中村:梃子入れるとしたら、アクションが起きたら絶対もう2つ、3つアクションが起こるから、その広がりが楽しいかなって思う。自分がつくるとどうしても群像劇っぽくなっちゃうの。それはやっぱりアクションを起こすと誰かがまた違うアクションが起きて、その広がりで結局また戻ってくるってことだと思うから。例えば、それこそ被食者に選ばれて学校で皆黙って聞いてたじゃん。皆黙って聞いていて最後の女子高生がすごくお父さんに文句言ったじゃん。俺がぐっと来たのは、あ、学校の話、ちょっと飛んじゃうんですけど、娘がもっとちゃんと見てよ!みたいな今じゃなくてもっと大事な時間があったじゃないみたいなことを最後言うと、このフィクションのなかにリアルがひとつポッと見えたなって思ったけど、最後そこまで熱くならずにじゃ帰ろうみたいに帰っちゃったから。それは本多さんの心持ちというか心情が見えて、すごい好きだったの。だからフィクションのなかでもう少し戦っているやつがいるとか、学校でも子供たちがそうなのかーって聞いてたけど、そこでなんか野次を飛ばす奴がいるとか、なんかその戦っている奴の姿をもう少し点在させて、例えば僕だったら本多さんがじゃあどう立ち向かうかみたいな心境になっていく姿でもそれを抑えられてしまうもっと大きな力みたいな、その関係とかを見たかったなっていうのは。結構やっぱりすごくフラットなテンポで最後までいってしまったのが、ちょっと残念だったなって思って。

近藤:なんかその、変化をあからさまに見せるっていうことに違和感を感じていたというか、もっと変化していないように見せて。ラストシーンを見てから、あとあと考えたらあそこで変わってたんかなっていう余韻をつくりたくて。

中村:俺思ったんだけど、路上で1回目ひと:みちゃんの歌が流れて、2回目でちゃんと本人が映って歌うでしょ。で、すんごい崩すわけじゃないですか。これだなって思ったの。『食べられる男』が。このひと:みちゃんのあのフェイクみたいな感じで歌ってる感じをそのままOKテイクで使うのがこの映画なんだなって思ったの。悪い意味じゃなくて、持ち味っていうか、こういう映画なんだゼ!っていう。俺がさっき言ったような梃子とか入れなくて、このひと:みちゃんの歌の味がこの映画の味なんだなみたいな。リンクしたの。俺だったら「ちょっとひと:みちゃんダメだな、ひと:みちゃんちょっと違う」って言って、ギターを弾いてる人ももうちょっとなんか違う人を起用したりして、客とかもつけてやるのかなーとか。雨、ザー降らすのかなみたいな。でもあのディテールこそが、たぶん近藤監督のディテールなんだって思ったから。

近藤:そうそうそう。ひと:みちゃんはほんまやったらあんな人おらんし、あんなとこで歌ってる人もおらんし、あんなライブハウスでしてるとかも意味分からないですけど、そういう現実ではあり得へんことみたいなのを、天使みたいな感じで登場させて、物語のなかで一人だけ天使みたいなのがおったら、そのシーンだけ見て爆発するっていうか。

中村:そうじゃない。そんなことは言ってないんだけど、それは要素としての近藤監督の企みみたいなのは、そうなんだろうなっていうのは分かるんだけど、ひと:みちゃんの歌のクオリティの感じを良しとする、これ悪い意味じゃなくてね。それがOKな映画なんだって思ったの。それが例えばすごく備品めっちゃこだわっていて、めっちゃ奇麗なヒロインとかがいて、この映画の世界感だったら、ズテン!みたいな。すごい中途半端じゃねーかって思うけど、本多さんも含めてこの空気っていうのがこの映画なんだろうな。っていうのは良い意味でね思ったんです。ひと:みちゃんの歌が近藤監督の『食べられる男』なんじゃないかなと思ったから。

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近藤:ありがとうございます。じゃ小林さんにしめてもらって。

小林:は?

近藤:僕がしめます(笑)。こうやって若手監督でトークしたんですけども、僕がやっと劇場公開デビューで、皆さん若いながらも一応劇場公開デビューしてるってことで仲間に入れてもらったっていう感じで、今日は本当にありがとうございました。何か告知とかあれば。

中村:シネマート新宿という劇場で6月3日から『女流闘牌伝 aki -アキ-』ってう女流麻雀士で二階堂亜樹さんっていう方がいらっしゃいまして、その方の漫画を岡本夏美ちゃんっていう子が主演で演じて、増田有華さんとか岩松了さんとか、言ってみれば僕の商業デビューになるので、もし麻雀に興味がある方とか、こんなこと言っているあいつの映画はどんなもんだって見たい方がいらっしゃいましたらぜひ足を運んでくださいましたら幸いです。よろしくお願いします。

竹内:私は劇場公開した『みちていく』という作品がDVDになっているので、TSUTAYAとかでレンタルして見てください。近藤君ありがとうございました。

近藤:小林さんは特に。

小林:はい。

(ここでひと:みちゃんによる物販の告知タイム。そして主演の本多力、共演の石川ともみ、脚本の小村昌士も登場)

本多:本日はどうもご来場ありがとうございました。村田よしおを演じました本多力です。ロビーにいますんで感想とか聞かせていただけたらありがたいです。今日はどうも皆さんありがとうございました。

石川:元嫁・さなえ役を演じました石川ともみと申します。本日は誠にありがとうございました。

小村:脚本を書きました小村昌士と申します。大勢の方に来ていただいてありがとうございました。ゲストの方もありがとうござます。あ、P星人の母の役でも出てました。

本多:あと支配人でもね。

小村:感想も聞かせていただければ幸いです。ありがとうございました。

本多:撮影を担当しました千田君も今います。

近藤:じゃ最後しめますんで。

ひと:みちゃん:いやしめる前にこれだけ大入りいただいたんで、こういうやつやろうって。千田君またこういうやつ(客席をバックに写真撮影)

近藤:はい、もうしめます。

ひと:みちゃん:えー、撮っておきたい。こんだけたくさん入っていただいてありがとうございます。

近藤:ありがとうございます。本日はお越しいただきありがとうございました。

2017年5月1日 K’s cinema

『食べられる男』
2017年4月29日~5月5日 新宿 K’s cinemaにて 連日21時 1週間限定レイトショー
監督:近藤啓介 出演:本多力 時光陸 吉本想一朗 ひと:みちゃん 中野陽日 石川ともみ 川口新五 杉山まひろ 申芳夫

※今後、東京ほか各地で上映予定! 決まり次第『食べられる男』サイトでご報告いたします
公式HP:http://www.europe-kikaku.com/taberareruotoko/
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