「生き方を見失っている者が多い」福間健二監督の長篇劇映画第7作『きのう生まれたわけじゃない』11月公開

詩人であり映画監督、福間健二の長篇劇映画第7作『きのう生まれたわけじゃない』が11月11日より公開されることが決定。併せて、場面写真3点がお披露目となり、福間監督が制作段階で残していた本作の企画意図、加えてプロデューサーであり福間監督の妻、福間惠子さんのコメントが寄せられた。

少女と老人。これから生きる時間とこれまで生きてきた時間。二つの人生が交差するとき、止まった時間がもう一度、動きはじめる。福間監督は、本作を完成させてから脳梗塞で倒れ、療養中に肺炎を起こして本年4月26日に74歳で亡くなった。

詩と映画の二つの分野で冒険をしてきた福間健二。長篇第一作『急にたどりついてしまう』を95年に発表。以降、『岡山の娘』(08)、『わたしたちの夏』(11)、『あるいは佐々木ユキ』(13)、『秋の理由』(16)、『パラダイス・ロスト』(20)と継続して映画作品を発表してきた。常に既成概念にとらわれない自由で豊かな映画表現を探求してきた福間監督。最新作『きのう生まれたわけじゃない』は、学校に行かない中学2年生の七海(ななみ)と、妻を亡くした元船乗りの77歳の老人、寺田との心の交流を描いている。

七海を演じるのは、今回が映画初出演となるくるみ。幼い笑顔をみせる反面、世界と対峙するかのようなまっすぐで強い表情は観るものを惹きつける。そして、老人寺田役は、なんと福間健二監督自身が演じている。人の心がわかる七海が心を許せる女性、岬役の正木佐和は、亡くなった寺田の妻綾子の亡霊として、一人二役で出演。七海と寺田が出会っていくまわりの人々を、守屋文雄、安部智凛、蕪木虎太郎、住本尚子、谷川俊之、今泉浩一、小原早織らが、それぞれの個性豊かに演じている。心の通わない母との二人暮らしで希望を持てない14歳。人生の終わりが近づいて過去にとらわれている77歳。ふとしたことで心が通いあったふたりが、いつしか大切な友人であり家族のような日々を過ごすなかで、新しい人生の歯車がゆっくりと動いていく。本作が遺作となった福間健二が、若いスタッフとともに新境地に挑み、映画のなかで生きている。

■福間健二(監督)映画企画時のコメント
いま、人々は、とりわけ弱い立場にある老人と少年少女は、生き方を見失っている者が多い。これから何をすればいいのか、展望が見いだせない。けれども、人は人に出会い、なにかを受け取り、与えあうことで、小さな希望をつかむことはできる。東京郊外を舞台にした、近過去でも近未来でもあるような物語を通して、そういう主題を訴えるとともに、いままでの殻を破るような映画表現を追求し、そのなかに人々を招くような「対話」を実現したい。

■福間惠子(本作プロデューサー)コメント
福間健二は、この地上にたしかな感触をもって生きることを底辺におきながら、詩と映画への冒険的な表現に果敢に挑戦してきた。本作では、探していた七海役のくるみに出会えた瞬間に、みずからが老人の寺田役を引き受けることを決めたのだと思う。20歳で若松孝二監督『通り魔の告白現代性犯罪暗黒篇』の脚本を書き主演してから53年後の、大きな挑戦だった。「主演作が遺作になるなんてカッコよすぎるよ、監督」とスタッフのひとりが言ったが、果たしてそうなのである。

『きのう生まれたわけじゃない』
2023年11月11日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国順次公開
原案・脚本・監督:福間健二
出演:くるみ 福間健二 正木佐和 安部智凛 守屋文雄 蕪木虎太郎 住本尚子 谷川俊之 黒田武士 高平よしあき 常本琢招 保志実都貴 西山慧 柴山葉平 村上僚 今泉浩一 小原早織 町屋良平 伊藤洋三郎 
配給:ブライトホース・フィルム

©2023 tough mama