筒井真理子が佐津川愛美の下着を切り刻む!髪をつかんで引きずり倒す!『蜜月』母娘の愛憎シーンを収めた特別映像

『捨てがたき人々』など、これまで社会の片隅で生きる男たちを描き定評のある榊英雄監督が、港岳彦によるオリジナル脚本を佐津川愛美主演で映画化した問題作『蜜月』が、3月25日より公開される。このほど、佐津川愛美演じる娘・美月と、筒井真理子演じる母・五十鈴の愛憎シーンを捉えた特別映像と、ポスタービジュアル、新場面写真がお披露目となり、併せて、家族社会学者の永田夏来よりコメントが寄せられた。

本作は、母親との抑圧された暮しの中で歪められた少女の幼く危うい性を描き、生ぬるい家族愛映画とは完全に一線を画したオリジナル作品。PTSD(心的外傷後ストレス障害)、ヤングケアラーなどこれまで家族の問題として隠されてきた問題を、社会問題としてとらえ、家族の絆、つながりの大切さを真摯に描き出す。

母・五十鈴(筒井真理子)は、娘・美月(佐津川愛美)の少し派手な下着をハサミで切り刻む。美月は五十鈴が用意した地味な下着を火にくべる。その美月を追いかけ、五十鈴は髪をつかんで引きずり倒す。夫・靖男(板尾創路)は慌てて止めに入り、義弟・伊織(濱田龍臣)はそれを見つめる。気まずい食卓。ふと五十鈴は泣きながら美月を抱きしめる。美月も泣いて五十鈴に縋る。桜並木の下、美月は杖を突いた五十鈴を伴って歩く。だが、五十鈴は厳しい顔で美月の腕を振りはらう。特別映像では、娘と母の怖くて切ない愛憎シーンが映し出される。

ポスタービジュアルでは、美月(17歳)の“秘密の情事”を、現在の美月(32歳)が意志的な射るような眼差しで見つめている。金色の蜜の色彩が、甘く危険な香りを際立たせる。「母にはできないことをしました」と15年間隠してきたことを告白するコピーが添えられ、観る者の心を鷲掴みするミステリアスなビジュアルに仕上がった。胸にささる本コピーは、港岳彦の脚本から名セリフをとったものである。

新場面写真には、後ろめたそうな顔つきで道を歩く靖男、その後ろを他人のふりをして歩く美月、病室でそっと目を開けた美月の手を握る夫・哲郎(永瀬正敏)の姿や、立ち上がろうとした美月に近づこうとした義弟・伊織が、恋人・香澄(森田想)に止められるシーン、鏡台の前で美月が五十鈴の髪を梳くが、美月の靖男との“秘密”の冗談からひんやりとした雰囲気になるカット、バドミントン後、家族みんな笑顔で記念写真を撮る、平和で幸福な昼下がりなどが収められる。さらに、庭で美月が白い下着を燃やすのを見て驚く靖男、伊織、五十鈴や、リビングで靖男に気安くしなだれかかる美月、編み物しながら二人を不安げに見つめる五十鈴、それを気にしながら漫画を読む伊織の姿なども切り取られる。

■永田夏来(家族社会学者) コメント
厚生労働省によれば、2020年に児童相談所等で新規受理・途中発覚した18歳未満の家庭内性被害事例は全国で704件だったという。被害者の大半は女児である。加害者で最も多いのが実父の250件であり、ついで多いのは実父以外の「父」は161件であった。「父親」から「娘」への加害が最も多いという調査結果からは、「年長の男性が上」で「年下の女性が下」であるという典型的な権力構造が見えてくる。『蜜月』で興味深いのは、この典型に収まらない人間関係を丁寧に描写した点だと私は考える。主人公の美月は実父を軽蔑し、義父を屈服させ、実母をネグレクトし、義弟とは共依存である。若い娘が家庭を支配する過程は異様であるが、それ故に彼女は孤立し、大きな代償を払うことになるのだ。一筋縄ではない人間関係と孤独を正面から演じ、魅力的な主人公を体現した佐津川愛美は本作見どころの一つだと感じた。家族に関する美談は世間に溢れているが、実父から性的に加害される女児は実際に存在する。美月のように、我が身を差し出してでも家族に復讐したいと願う者もいるはずだ。実際の家族のあり方はさらに複雑で、ものごとを単純化しすぎているきらいもなくはない。美月をめぐる家族関係をどう解釈するのかによって、本作の評価は分かれるだろう。

『蜜月』
2022年3月25日(金)より、テアトル新宿ほか全国公開
監督:榊英雄
脚本:港岳彦
出演:佐津川愛美 筒井真理子 板尾創路 濱田龍臣 森田想 永瀬正敏
配給:アークエンタテインメント

【ストーリー】 山奥の古民家。優しい陶芸家の夫と穏やかに暮らす美月(佐津川愛美)。弟が15年ぶりに現れ、母の死を告げる。封印していた家族の過去があふれ出す。愛する夫との暮らしを守るために美月は過去の黒歴史と対決する…。母親は、ある“事件”がきっかけで離婚し心にトラウマを抱える。美月は子どもながらに不安定な母を支え、母子で必死に生きてきた。母が新たな伴侶を得て、4人家族となったとき、美月は、やっと温かな居場所ができることを期待した、美しい17歳に成長していた。だが、その「女という性」に対し、母はかつての事件のトラウマから、嫌悪・嫉妬し、激しく抑圧する。美月は母への反抗心から、義父に接近する。ささやかな反抗心だったが、次第に深みにはまっていく。再び“事件”が起こり、家族が崩壊していく…。15年ぶりに故郷の実家へ戻る美月。義弟から15年間にわたる過酷な義母の介護も知らされ、その代償の重さに押しつぶされそうになる。目を背けてはいけない。夫に封印した「秘密」を告白する。その切なすぎる真実に涙する…。

©2022「蜜月」製作委員会