『捨てがたき人々』など、これまで社会の片隅で生きる男たちを描き定評のある榊英雄監督が、港岳彦によるオリジナル脚本を佐津川愛美主演で映画化した問題作『蜜月』が、2022年春に公開される。このほど、追加キャストとして、筒井真理子、板尾創路、永瀬正敏らが出演することが発表され、併せて、場面写真がお披露目となった。
本作は、母親との抑圧された暮しの中で歪められた少女の幼く危うい性を描き、生ぬるい家族愛映画とは完全に一線を画したオリジナル作品。PTSD(心的外傷後ストレス障害)、ヤングケアラーなどこれまで家族の問題として隠されてきた問題を、社会問題としてとらえ、家族の絆、つながりの大切さを真摯に描き出す。
新たなキャストとして、美月(佐津川愛美)の母・五十鈴役に、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞受賞作『淵に立つ』で第71回毎日映画コンクール女優主演賞など多数の賞を受賞した演技派女優・筒井真理子。壊れた心を抱え、そのトラウマで狂おしいほど娘の性を憎み、ときには母の愛で慈しむ。相反する心に苦悩する母を見事に演じる。美月の義父・靖男役には独特な存在感が光る俳優・板尾創路。新たな家族を幸せにしたいと“父親らしく”振舞うが心奥の情動を扱いあぐねる。美月の義弟・伊織役に、大河ドラマ「龍馬伝」で坂本龍馬(福山雅治)の子供時代を愛嬌たっぷりに演じお茶の間の人気者となった濱田龍臣。中学生から青年に至る15年間、義姉をひたむきに慕い続ける。初の大人のラブシーンにも挑戦する。伊織の恋人・香澄役には、ネクストクリエーターから引手数多な森田想。伊織の心を守るため、沈みゆく加納家を救おうと全力で立ち向かう力強い現代女性を好演。そして、陶芸家で美月の夫・哲郎役に、ジム・ジャームッシュ監督作『パターソン』などで日本人俳優として初めて出演作が3年連続でカンヌ国際映画祭出品となった国際派俳優・永瀬正敏。秘密を持つ妻を見守り、寡黙で静かな夫を存在感たっぷりに演じる。
場面写真には、娘・美月への嫉妬が狂気に変わった母・五十鈴と、五十鈴を慌てて止めに入る夫・靖男、そして闇の火に心を奪われる美月と、彼女を気遣う哲郎の姿が収められる。
▼キャスト コメント
■筒井真理子(加納五十鈴役)
映画『蜜月』の撮影は佐津川愛美さんとの濃密で忘れがたい、まさに蜜月なとても愛おしい時間でした。内面をさらけ出すような屈折した役に対して、真っ直ぐ向き合っている彼女の姿がとても印象に残っています。ストイックに挑んだ俳優佐津川さんの移り変わってゆく繊細な表情の変化は、ぜひ映画館の大きなスクリーンで目の当たりにしてほしいです。この映画には言葉にできない複雑な想いが溢れています。その感情は、心の奥にある柔らかな部分にそっと触れるものです。不器用でぎこちなく、でも決して特別ではない一つの家族に会いに来てほしいと思います。港岳彦さんが作り出した厳しくも優しい世界が美しい映像に昇華しています。榊監督の作品への熱量と愛を正面から受け止めて下さい。
■板尾創路(加納靖男役)
家族や親子について考えさせられる映画です。とにかく女優さん達の演技が素晴らしいです。主演の佐津川さんの作品との向き合い方と表現力は胸を打つものがあります。
■濱田龍臣(加納伊織役)
今回の『蜜月』では、今までした事が無い事に挑戦させて頂いた作品でした。複雑な家庭環境の中で育っていった伊織が抱えている様々な感情をしっかりと受け止めて全てのシーンを撮影させて頂きました。伊織が抱えている物や、伊織の成長が少しでもスクリーン越しに見る皆様に伝われば幸いです。
■森田想(香澄役)
二度目の榊監督のもと、撮影前どんな画になるのかと読み込んだ港さんの脚本によって息が詰まるほど濃密な物語がこうして完成し、香澄として関われたことを光栄に思います。何よりも大好きな佐津川さんとの再演が嬉しく、その妖美な佇まいと目の前で役として生きる姿に改めて惚れ惚れしました。他にも敬愛する俳優さん方の映画に対する愛を近くで学べ、とても豊かな撮影の期間を過ごせました。私も楽しみです。是非ご期待ください。
■永瀬正敏(高橋哲郎役)
役者同士として現場で共に時を刻んだ榊英雄氏に今回は監督として呼んでいただきました。心の歪みや暗部…積み重ねられたそれは、まるで月が流れくる雲に覆われ、身体から伸びる微かな影も見えなくなってしまった様な主人公…生と性、愛情と憎悪、濃い血の繋がりと繋がらない、家族・親子・姉弟・夫婦を描いた港岳彦氏渾身の脚本。その世界感と美月に、そっと寄り添いながら、あの日々を生きていました。覆っていた雲はいずれまた、風に流され美しい姿を見せるのでしょう…溢れ落ちた涙と共にスクリーンから離れ、その先へ向かって。
『蜜月』
2022年春 テアトル新宿ほか全国公開
監督:榊英雄
脚本:港岳彦
出演:佐津川愛美 筒井真理子 板尾創路 濱田龍臣 森田想 永瀬正敏
配給:アークエンタテインメント
【ストーリー】 山奥の古民家。優しい陶芸家の夫と穏やかに暮らす美月(佐津川愛美)。弟が15年ぶりに現れ、母の死を告げる。封印していた家族の過去があふれ出す。愛する夫との暮らしを守るために美月は過去の黒歴史と対決する…。母親は、ある“事件”がきっかけで離婚し心にトラウマを抱える。美月は子どもながらに不安定な母を支え、母子で必死に生きてきた。母が新たな伴侶を得て、4人家族となったとき、美月は、やっと温かな居場所ができることを期待した、美しい17歳に成長していた。だが、その「女という性」に対し、母はかつての事件のトラウマから、嫌悪・嫉妬し、激しく抑圧する。美月は母への反抗心から、義父に接近する。ささやかな反抗心だったが、次第に深みにはまっていく。再び“事件”が起こり、家族が崩壊していく…。15年ぶりに故郷の実家へ戻る美月。義弟から15年間にわたる過酷な義母の介護も知らされ、その代償の重さに押しつぶされそうになる。目を背けてはいけない。夫に封印した「秘密」を告白する。その切なすぎる真実に涙する…。
©2022「蜜月」製作委員会