門脇麦「映画作りはこうあってほしい」、井浦新「最大の愛情を持って笑わせたかった」映画『止められるか、俺たちを』完成披露舞台挨拶レポート

2012年に交通事故で死去した映画監督、若松孝二が設立した若松プロダクション再始動第1作目となる映画『止められるか、俺たちを』が10月13日に公開される。このほど、本作の完成披露舞台挨拶が9月20日にテアトル新宿で行われ、キャストの門脇麦、井浦新、白石和彌監督が登壇した。

本作は21歳で”若松プロダクション”の門を叩いた女性の目を通して、若松孝二と共になにもかもが危うくきらめいていた一瞬の時を描く青春群像劇。若松プロに飛び込んだおかっぱ頭の女の子、吉積めぐみ役を演じた門脇は「若松監督と映画への愛が詰まった作品。なかなか巡り会えない幸せな現場でした」と撮影を振り返った。

若松組の常連で、若松孝二役を務めた井浦は「若松監督は僕の恩師。映画の世界では父親のような存在でもありました。その人を演じさせてもらうのは、…やっかいな作業でした(笑)」と苦笑いしつつも、「なんとかなってしましました(笑)。撮影している時は夢のような時間を過ごさせてもらった」と、撮影時に感じた喜びを思い返した。

若松監督を師とする白石にとって、本作は「禁断の企画だった」というが、「吉積めぐみさんという、僕にとっては遥か彼方の大先輩の存在に気がついた時、居ても立ってもいられず」企画が走り出したそうで、「僕にとってこれほどの衝動を覚えて撮った映画はない」とまで言い切った。

後に日本赤軍に合流した映画監督・足立正生、「日本昔ばなし」の脚本を手掛けた脚本家など、本作には登壇者たちがレジェンドと呼ぶ人物が実名で登場する。クランクインの前に、そのレジェンドたちを集めて開いた“ご意見会”で、「変なもの撮ったら承知しないぞ」「お前に若ちゃんがやれるわけねーだろ!」とボロクソに言われたという井浦。「皆さんが満足するかは分かりませんが、モノマネなんか絶対しません!」と言い返したそうだが、「実際は100%モノマネした(笑)」と明かして、会場は大爆笑。「それは、僕なりの大先輩方への最大のギャグ。最大の愛情を持って、レジェンドたちを笑わせたかった」と熱弁した。

一方、門脇は「若松さんとゆかりのある人の思いには到底勝てない」と思っていたそうだが、「じゃあ自分がめぐみさん役で真ん中に立った時に何ができるのか?」と思い直し、「めぐみさんも、何も知らないで若松プロに飛び込んできた女性。だったら私も知らないで飛び込んでも成立する」と割り切ったそう。吉積めぐみの資料は数枚の写真しかなかったそうで「モデルとなる像がなかったので、新さんのように苦しんでいる先輩たちを見ながら、自分はある意味距離をとって、フラットでいられた」と笑顔で撮影を振り返りつつ、若松プロを疑似体験して「幸せでした。映画作りはこうあってほしいと思った」と目を輝かせていた。

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『止められるか、俺たちを』
10月13日(土)全国ロードショー
監督:白石和彌
脚本:井上淳一
音楽:曽我部恵一 主題歌:「なんだっけ?」
製作:若松プロダクション スコーレ ハイクロスシネマトグラフィ
出演:門脇麦 井浦新 満島真之介 渋川清彦 音尾琢真 高岡蒼佑 高良健吾 寺島しのぶ 奥田瑛二
配給:スコーレ

【ストーリー】 吉積めぐみ、21歳。1969年春、新宿のフーテン仲間のオバケに誘われて、”若松プロダクション”の扉をたたいた。当時、若者を熱狂させる映画を作りだしていた”若松プロダクション”。 そこはピンク映画の旗手・若松孝二を中心とした新進気鋭の若者たちの巣窟であった。小難しい理屈を並べ立てる映画監督の足立正生、冗談ばかり言いつつも全てをこなす助監督のガイラ、飄々とした助監督で脚本家の沖島勲、カメラマン志望の高間賢治、インテリ評論家気取りの助監督・荒井晴彦など、映画に魅せられた何者かの卵たちが次々と集まってきた。撮影がある時もない時も事務所に集い、タバコを吸い、酒を飲み、ネタを探し、レコードを万引きし、街で女優をスカウトする。撮影がはじまれば、助監督はなんでもやる。現場で走り、怒鳴られ、時には役者もやる。「映画を観るのと撮るのは、180度違う…」めぐみは、若松孝二という存在、なによりも映画作りに魅了されていく。しかし万引きの天才で、めぐみに助監督の全てを教えてくれたオバケも「エネルギーの貯金を使い果たした」と、若松プロを去っていった。めぐみ自身も何を表現したいのか、何者になりたいのか、何も見つけられない自分への焦りと、全てから取り残されてしまうような言いようのない不安に駆られていく。1971年5月カンヌ国際映画祭に招待された若松と足立は、そのままレバノンへ渡ると日本赤軍の重信房子らに合流し、撮影を敢行。帰国後、映画『PFLP世界戦争宣言』の上映運動の為、若松プロには政治活動に熱心な若者たちが多く出入りするようになる。いままでの雰囲気とは違う、入り込めない空気を感じるめぐみ。ひとり映画館で若松孝二の映画を観ているめぐみ。気付かない内に頬を伝う涙に戸惑う。「やがては、監督……若松孝二にヤイバを突き付けないと…」

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