ダウナー気分で夏に備えろ! ジメッときてムレッとする映画3選

梅雨明けももう間近。すでに30度超えの猛暑日の連発で、すっかりバテちゃってませんか? そんなお疲れモードのアナタに心優しいムビッチからお届けするお中元が、スキッ!と爽やか!……じゃないジメッ!ときてムレッ!とする映画たち。ほら、暑い夏だからこそ、逆療法的にチンチンに熱い鍋を食べなさいって言うじゃない? エアコンのきいた快適な室内で、ジメ~ッとしてムレムレ~とする凹む~ぅ映画を見て逆にドッと疲れちゃおうぜ!

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『殺人の追憶』

ジメジメ系サスペンス映画の量産国といえば韓国。映画を見終えた後に、何ともやり切れない気分にさせられること数多し。『オールド・ボーイ』『母なる証明』『チェイサー』などが代表的ですが、ここでは巨匠ポン・ジュノによる『殺人の追憶』(2003年)をご紹介します。1986年、ソウル近郊の農村地帯で、若い女性を標的にした連続強姦殺人事件が勃発。荒い手段で強引に捜査を進める田舎者の刑事パクと、ソウル市警から派遣されたエリート刑事ソは、互いに反発しながらも捜査に奔走します。被害者たちに共通する赤い服、ラジオから流れる曲、そして雨……。手がかりとなる情報が続々ともたらされ、パクたちはついに容疑者逮捕までこぎつけますが、唯一の目撃者を自分たちの不手際で死なせてしまい、決定的な物的証拠も得られずに容疑者が釈放。そして再び強姦殺人が起きてしまいます。韓国で実際に起きた、未解決の連続殺人事件をテーマにしている本作は、住人全員が顔見知りのような小さな農村地帯なのに、犯人が誰か分からないというイヤ~な不気味さが通底しています。次々と容疑者を見つけ出しては、拷問で自白を強要するパクたち地元警察のえげつない暴力にもグッタリ。そして冷静沈着な理論派だったソが、難事件に神経をすり減らし、追い詰められていく様も痛々しい。犯行当日は必ず雨が降っており、遺体に雨のしずくが落ちる陰鬱な描写はひたすら気が滅入ります……。ジメジメの極みここにアリ。

『羅生門』

『殺人の追憶』と同じく“犯人が分からない”、“雨”という共通項を持っているのが、「世界のクロサワ」こと黒澤明の傑作『羅生門』(1950年)。平安の乱世に起きたある武士殺しを巡り、加害者・被害者の三者三様に食い違う証言を描きます。夏のある日、盗賊・多襄丸が森の中で武士とその妻を襲い、武士を殺害。捕らわれた多襄丸は、検非違使庁で「妻を手籠めにした後、武士を殺した。その間に妻は逃げた」と証言します。しかし当の妻の証言は、「男に手籠めにされた後、夫に侮蔑され気を失った。その間に夫は死んでいた」というもの。その後、巫女に憑依した亡き夫までもが登場し、「妻が男に寝返った。その裏切りに傷つき自害した」と、またしても食い違う証言をします。さらには新たな目撃者が現れ、真相は藪の中へ……。芥川龍之介の短編小説『藪の中』を映画化した本作は、材木売りと僧侶の2人を語り部に、彼らが検非違使庁で見聞きした話を、下人相手に話し始めるというスタイル。朽ち果てた羅生門で雨宿りをしつつ僧侶たちが事の顛末を語るシーンと、ギラギラと照りつける太陽の下、武士殺しが3パターン展開されるシーンとのコントラストが秀逸。人間の不可解さを目の当たりにして青ざめる僧侶たちとは対照的に、むせ返るような欲望をさらけ出す多襄丸たちのダラダラ零れ落ちる汗に、観ているこちらまでもがムンムンムレムレしてきます。原寸大で作られた羅生門のオープンセットに、墨汁を混ぜた大量の水を消防車に放水させて土砂降りの臨場感を出したり、当時、危険視されていたにもかかわらず、直接カメラを太陽に向けさせたりと、リアリズムを追求した黒澤ならではの無茶ぶり演出が冴え渡っています。なかなか寝つけない熱帯夜にこそ、おススメの逸品です。

『キャリー』

ホラー小説の大家スティーブン・キングの初映画化作品であり、鬼才ブライアン・デ・パルマの悪趣味要素とエロイズムがバズりまくる傑作青春ホラー『キャリー』(1976年)。イジメられっ娘の女子高生の逆襲劇を、青春の甘酸っぱさと阿鼻叫喚の地獄絵図と共に描きます。初潮を迎えたのを機に、超能力を授かった気弱な女子高生キャリー。女の性を忌み嫌う狂信的な母親から「生理だなんて汚らわしい!」と折檻され、学園内でも「美人だけど性格ドブス」グループに凄惨なイジメを受け続けます。しかしイジメを反省した女友達スーとの交流や、スーのボーイフレンドとの疑似恋愛もあり、キャリーにかすかな希望の光が差し込みます。全女子憧れのプロム・ナイトでイケメンとダンスを踊り、アハハ!ウフフ!なラブラブモードに酔いしれるキャリーでしたが、それも束の間、全部まとめてドンガラガッシャーン!とちゃぶ台をひっくり返す悪魔的惨劇が待ち受けます。このキャリー、言っちゃなんですがとにかく不気味。毒親の束縛のせいで同世代の女子より幼く、浮世離れしていて可哀想なのですが、それを差し引いてもすんげー気持ち悪い。スクールカーストの底辺で、ヌメヌメとした沼オーラを醸し出しています。まさに当時25歳で17歳のキャリーを演じた、シシー・スペイセクの怪演の賜物です。クライマックスでは屈辱的なイジメによって、ついに堪忍袋の緒がブチ切れたキャリーが、サイキックとして大覚醒。全身血まみれになりながら目をクワッ!と見開き、ピッキーン!と身体をこわばらせる立ち姿に戦慄が走ります。気持ち悪くて、不気味で、恐ろしくて、悲しい。ひとりの少女の血塗られた反シンデレラ・ストーリーに、思いっきり凹んでください(ピストン藤井)。