芸術は爆発だ! 初期衝動がほとばしる映画5選

眉間にしわ寄せながら絵画を愛で、高尚な文学に触れ、クラシック音楽に酔う……。そんな竹を割ったような「ザ・芸術の秋」を堪能できる方はともかく。美術館に行っても抽象画を見るフリしながら、「昼に食ったラーメン餃子定食うまかったな、ゲプッ」と邪念を抱きまくっているそこのアナタ! そんなアナタにこそ、心が奮い立つような「芸術は爆発だ!」的作品をお届け。「これって芸術? 単なるホラー映画じゃね?」「単なるエンタメじゃね?」なんて愚問はドブに捨て、音楽や文学、アート、映画が好き過ぎて、メーターが振り切れちゃった人を描いた作品に胸アツになること必至です。

『スクール・オブ・ロック』

「動けるデブ」ことジャック・ブラックがニセ教師に扮し、エリート小学生たちとバンド・バトルに挑む青春コメディ。まんまと学園に忍び込んだ小汚いメタボ中年男が、上流階級のご子息・令嬢たちに、レッド・ツェッペリン、ブラック・サバス、ディープ・パープル、ザ・フー、AC/DCといったロックバンドの魅力を伝授。「お前たちの自由を阻む大人たちに立ち向かえ!」とカウンターカルチャーの真髄を叩き込む。センスと創造力を開花させた子供たちと、愚直なロック馬鹿によるバンド演奏は心を揺さぶられること必至。将来の役に立つとか立たないとかどーでもよし! がむしゃらになって何かを生み出す喜びに震えろ!

『蒲田行進曲』

原作/脚本・つかこうへい、監督・深作欣二、製作・角川春樹という演劇・映画・出版界の猛者が集結し、「総合芸術」としての映画の底力を見せつけた痛快作。女にだらしない映画スターの銀四郎、万年大部屋役者のヤス、売れない女優・小夏との三角関係を軸に、映画に人生を賭けた活動屋たちの情熱を描く。最大の見せ場は、ヤスが体当たりで“死に様”を演じる「池田屋階段落ち」。39段の大階段を転げ落ちて瀕死のヤスを、「上がってこいヤス!」と涙ながらに叱咤する銀四郎、「銀ちゃん…カッコイイ…」とつぶやき卒倒するヤス。バカでマヌケで、狂おしいほどに映画を愛する活動屋たちの奔走は、涙なくしては見られない!

『アイム・ノット・ゼア』

現代音楽史に多大な影響を与えるシンガー・ソングライター、ボブ・ディラン。反骨精神に溢れ、社会の闇を斬る詩的な歌詞でノーベル文学賞を受賞した彼の半生を、6つの側面から描いた音楽映画。音楽少年、革命家、詩人、ロックスター、俳優、無法者としてのディランを、ヒース・レジャー、クリスチャン・ベイル、リチャード・ギアといった大物を含む6人の俳優が演じる。なかでもフォーク歌手からロックンローラーに突然変異し、物議を醸した頃のディランを演じたケイト・ブランシェットは、美人女優としての面影を完全排除。タバコを片手に、面倒臭そうにインタビューを受ける姿は、想像以上にディランそのものです!

『キューティー&ボクサー』

NY在住の前衛芸術家・篠原有司男(通称ギュウちゃん)と妻・乃り子の、破天荒な日常に密着したドキュメンタリー。「日本初のモヒカン男」であり、御年80歳ながら半裸でキャンバスに絵の具を殴りつけるギュウちゃんは、「余生を静かに過ごそう」なんて気は1ミリもない。何も知らないガキのように創作意欲は溢れ、漫画「ワンピース」に熱狂し、家賃の支払いに焦り、妻に怒られ、元気いっぱいに社会のレールをはみ出し続ける。ジジイらしからぬ規格外の旦那に苦労させられつつも、彼を愛し、刺激を与え、刺激を受けて自分の表現を模索する乃り子。初期衝動に駆られ、アート人生をひた走る二人のパワフルでユーモラスな日常は必見!

『ミザリー』

ゼロから作品を生み出すアーティストにとって、鋭い審美眼を持った鑑賞者は必要不可欠な存在。作り手だけでなく受け手側にもセンスが問われるが、本作はその受け手のセンスが、フルスイングで振り切れた場合の恐怖を描いた傑作スリラー。事故で負傷した小説家が、自身の熱狂的ファンであるおばさんに“介抱”という名の監禁をされ、「物語の結末が気に入らねえ!」とハンマーでフルボッコにされちゃいます。冴えに冴えまくるデンジャラスおばさんに扮するキャシー・ベイツが、マリア様と殺人鬼の間を猛スピードで反復横跳びするかのような怪演を披露。唐突に「フゴ!フゴッ!」と豚っ鼻の真似をする場面は最高に怖いです!(ピストン藤井