先日行われたベネチア国際映画祭コンペティション部門への出品に続き、北米最大の国際映画祭、第43回トロント国際映画祭(現地時間9月11日)で、塚本晋也監督最新作で初の時代劇となる、池松壮亮&蒼井優主演の『斬、』(ざん)のプレミア上映&質疑応答が行われ、塚本監督が登壇した。
9月6~16日(現地時間)に開催されているトロント国際映画祭。89年『鉄男』以来、『鉄男Ⅱ BODY HAMMER』(92)、『東京フィスト』(95)、『バレット・バレエ』(98)、『双生児』(99)、『六月の蛇』(02)、『ヴィタール』(04)、『KOTOKO』(11)、『野火』(14)と数多くの作品を、トロント国際映画祭に出品してきた塚本監督。世界的に影響力のあるアート系映画の巨匠たちが集うマスターズ部門への日本から唯一の出品となり、この上映が『斬、』の北米プレミア上映となった。
■上映前に満席の客席に向かって塚本監督から一言
塚本:『野火』を作ったのは戦後70年という年でしたが、戦争にまた近づいているという恐怖から急いで作りました。多くの観客の皆さんに届いたという手応えがあり、少し安心できるかと思ったのですが、それから3年経っても安心感を得られませんでした。その不安な“叫び”のような気持ちをこの作品にしました。『斬、』にとって北米プレミアです。どのようにお客様に受け入れられるか見守りたいと思います。
■上映後の質疑応答
Q:キャスティングについての質問です。池松壮亮さんをはじめ俳優陣の演技が本当に素晴らしかったです。また監督自身もご出演されています。どのようにキャスティングされているのか教えてください。
塚本:この時代劇をあるときから池松壮亮さんにお願いしたいと思っていました。今の若い人の感覚、今の時代の感覚を非常にリアルに表現することができるのが池松さんだったので、その彼が江戸の時代に行ったら、その時代の感覚をリアルに表現してくれるだろうという期待があり、まず池松さんを想定していました。そうしたら偶然にも池松さんの方から自分の映画に興味があると連絡をくださって、これはやらねばということになった次第です。蒼井優さんは日本では本当に有名な女優さんなのですが、プロットを書いたときに自然と蒼井さんの顔が出てきて、とても有名な俳優さんなので自分の小さな規模の映画に出てくれるか不安だったのですが、割りと早くにお返事をいただけました。この二人の出演が決まったときに、この映画の骨格が決まったと思いました。僕の役は、いつも僕の映画には僕が出ているので出たという感じです。
Q:塚本監督の演技がとても素晴らしかったです!(会場から大きな拍手が沸き起こる)
塚本:殺陣をうまくやりたかったのですが、練習の途中にぎっくり腰になってしまい、あんまりうまくできなかった。でも編集も僕がやってるので、編集でうまく見えるようにカバーしました(笑)
Q:石川忠さんの音楽がパワフルでとても素晴らしかった。石川忠さんとのお仕事について教えてください。
塚本:石川忠さんとは『鉄男』から30年くらい一緒に作品を作っていたのですが、去年の暮れに石川さんが亡くなってしまいました。『斬、』の音楽も石川さんに依頼していたのですが、頼んだ後に亡くなってしまい…。どうしても受け入れられなくて、石川さんがこれまで作った曲、僕の映画用につくった曲だけではなく、お部屋に残されていた映画でまだ使われてない曲も全部聴いて編集に貼っていきました。天国の石川さんと話しながら決めていった感じです。エンドロールに石川忠さんのお名前がしっかり出てきます。
『斬、』
11月24日(土)よりユーロスペースほか全国公開
監督・脚本・撮影・編集・製作:塚本晋也
出演:池松壮亮 蒼井優 中村達也 前田隆成 塚本晋也
製作:海獣シアター
配給:新日本映画社
【作品概要】 世界中に多くのファンを持つ塚本晋也が、戦争の恐怖をあぶり出した『野火』を経て、さらに時代を遡り初の時代劇に挑んだ。監督、出演、脚本、撮影、編集、製作を務めた完全オリジナル作品。物語の舞台は、250年にわたり平和が続いてきた国内が、開国するか否かで大きく揺れ動いていた江戸時代末期。江戸近郊の農村を舞台に、時代の波に翻弄されるひとりの浪人と彼に関わる人々を通して、生と死の問題に迫る衝撃作。
塚本の熱い想いに応えるべく、文武両道で才気あふれる浪人を、渾身の力で演じたのは池松壮亮。昨年に主演した『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』は高い評価を受け、今年も『万引き家族』、『君が君で君だ』、『散り椿』など話題作への出演が続いている。浪人の隣人である農家の娘を演じるのは『彼女がその名を知らない鳥たち』や山田洋次作品で活躍し、日本アカデミー賞に4度輝いた演技派女優の蒼井優。不穏な時代に精一杯生きる農家の娘を凛とした美しさで体現している。共に本作で初めて塚本作品への参加を果たした池松と蒼井のぶつかり合うような演技合戦も圧巻だ。
(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER