「魚屋さんの涙に滲む言葉」「終わらせないための記録」ありのままの記録と記憶『浦安魚市場のこと』12月公開

映像作家・歌川達人が、消えゆく“まち”のシンボルと、そこに生きる人々を追った初の長編ドキュメンタリー『浦安魚市場のこと』が12月中旬より公開されることが決定した。併せてポスタービジュアルと場面写真がお披露目となり、映画監督の纐纈あや、映像作家の小森はるかより推薦コメントが寄せられた。

魚屋の活きのよい掛け声。貝を剥き続ける年老いた女性。年末のお客たちとお店の賑わい。古くから漁師町だった浦安には魚市場があった。工場汚染水の影響で漁業権を放棄し埋立地となった浦安にとって、魚市場が漁村だった町のシンボルでもある。そんな魚市場には、昼は町の魚屋、夜はロックバンド「漁港」のボーカルとして活動する森田釣竿がいた。時代の流れと共に変わっていく魚の流通と消費の形。脈々とつながってきた暮らしを謳歌する浦安の人々。しかし、その瞬間は、緩やかに、そして突然訪れる…。

監督は、映像作家の歌川達人。これまで主にカンボジアで短編中編のドキュメンタリー(『時と場の彫刻』『カンボジアの染織物』)を制作し、本作が初の長編となる。撮影期間中、歌川は浦安魚市場近くへ移り住み、緻密な撮影を重ねた。本プロジェクトでは、映画製作に限らず、写真集作成や魚市場内での映像インスタレーション展示など、多角的なアウトプットを行ってきた。カメラを持った1人のアーティストとして、滅びゆく場や営みに対し何ができるのかを見つめた軌跡である。

歌川は「日本の浦安という、ローカルな場で記録された時が、映画として、遠くへ旅立ち、誰かに届く。そこで、顔も知らない誰かと共鳴する、あるいは議論される。コロナ禍で、場のあり様や働くことを再考せざるを得ない時期に、そういった営みがどこかで生まれることを願う」と映画に込めた想いを語っている。

■纐纈あや(映画監督)コメント
氷の上に陳列されたピッチピチの魚たち。一本一本炙られて甘ダレに浸されるハマグリの串。威勢のいいかけ声。その光景ひとつひとつに心が踊る。魚屋さんは魚を売っているだけじゃない。この魚、おいしいよ!という気合いと手業が込められる。物を介して、思いや会話、いたわりや笑顔が行き交う場所。その市場をまた失ってしまった。僕たちもがんばっているから、お客さんもがんばってほしい、ある魚屋さんの涙に滲む言葉を確かに受け取った。

■小森はるか(映像作家)コメント
いつもと同じように始まり、いつもとは違う終わりを迎える、最後の日。それぞれの目に込み上げた涙や送られる拍手を、誇張せず、省略もせずに見せてくれた。この一日の長さをどう見せるかに、作り手の思いを受け取る。最後だけが特別なわけじゃない。だからこそ最後を丁寧に描く大切さを教わった。それが終わらせないための記録になると。

『浦安魚市場のこと』
2022年12月中旬より、渋谷シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開
監督・撮影・録音・編集・製作:歌川達人
配給:Song River Production