小田香監督「勝手口から見える風景に胸掴まれる」、三宅唱監督「もうたまらない」著名人絶賛!小森はるか監督作『空に聞く』11月公開!

『息の跡』の小森はるか監督最新作で、あいちトリエンナーレなどの映画祭で立て続けに上映されたドキュメンタリー『空に聞く』の公開日が11月21日に決定した。併せて、各界著名人より本作を絶賛するコメントが寄せられた。

本作は、岩手県陸前高田市にて、東日本大震災後、臨時災害放送局「陸前高田災害FM」のラジオ・パーソナリティを務めた阿部裕美さんを追ったドキュメンタリー。津波の被害によって町が流された土地に、新しい町が再建されていく陸前高田の風景と、ラジオを通して届けられる、そこで暮らし歩み続ける人びとの言葉が映し出される。

監督は、震災後のボランティアをきっかけに東北に移り住み、刻一刻と変化する町の風景と出会った人びとの営みを記録してきた映像作家の小森はるか。『息の跡』と並行して撮影が行われた本作は、映像表現の新たな可能性を切り拓くことを目的としたプロジェクト「愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品」として完成。あいちトリエンナーレ2019、山形国際ドキュメンタリー映画祭2019、第12回恵比寿映像祭にて上映され、先鋭的なプログラムの中でもひときわ大きな反響を呼んだ。

▼著名人 絶賛コメント

■小田香(映画作家/『セノーテ』『鉱 ARAGANE』)
天と地はひと繋がりで、その層の中にわたしたちは生きている。阿部さんの優しい声で人々の記憶がたぐられ、凛と柔らかな凧のごとく風に乗り、上空に響く。勝手口から見える風景にこんなにも胸掴まれるのは、そこにあったものを、これからできるものを、それらを日常の中で見続けるであろう阿部さんの姿を、想像するからだろうか。

■小野和子(民話採訪者)
声高に、多くは語らないけれど、被災のつらさと涙がとても静かに伝わってきました。そして、それは押してくる現実の暮らしの中で、まるで何事もなかったかのように、その人の心に積み重なっているのでしょうね。こんなことをこんなふうに物語る人がいるのだと、私は湧いてくる感動を覚えました。

■小林エリカ(作家、マンガ家)
陸前高田のあるひとときの風景、そこに生きるひとりひとりの声。津波にさらわれてもなおその地に花を咲かせる水仙やホタルブクロのように、阿部さんのラジオや小森さんのこの映画はそれを伝えてくれる。どこまでも繋がる空を見あげ胸がいっぱいになる。

■佐々木敦
ラジオを録音することを、どうしてエアチェックというのか、その言葉を知った頃は不思議だった。もちろん今ではわかる。音声は波であり、波は振動であり、それは空気中を、エアーを伝わってゆく。エアーは、空気とは、空のこと。私たちの真上にひろがる、いつだって見上げればそこにある、空。Listening to the Air.小森はるかは、まさにそのようにして、この映画を撮ったのだと思う。そこではカメラも「彼女」の声に、じっと耳を澄ませている。

■澁谷浩次(yumbo)
「現実逃避」という言葉があるぐらいだから、僕達は常日頃、現実の問題と直面して疲弊したり、怯えたり、見て見ぬフリをしたりする。現実は平板で退屈で、時に容赦なしの災厄をも齎す。場合によっては、僕達の生の前に立ちはだかる巨大な壁のように思える事さえある。そんな現実の脅威に突き通された場所から生真面目に電波を発信する阿部裕美さんの手つきに、その現実を捉えようとする小森監督の手つきが静かに重ねられる情景に、臆病者の僕などは心底参ってしまう。現実から逃げ出す代わりに、現実を慎重に重ね合わせることの美しさが見事に定着された、その時間にしか存在し得なかった稀有な映画だ。

■蓮實重彦(映画評論家)
津波後の陸前高田の思いがけない6年9ヶ月が、一人の女性の表情と声とで点描されており、心に浸みる。この文句なしの傑作と出会うべく劇場にかけつけ、笑い、そして涙せよ。

■秀島史香(ラジオパーソナリティー)
ラジオの持つ「誰かがそこにいて、その人の言葉で話している」生身の気配。それぞれの場所でそれぞれの思いを持ちながら、声をかけ合い、つながっていく人々の姿。これまでも、これからも、声は希望。

■広瀬奈々子(映画監督)
この映画には、失われたものと今を行き来する余白がある。安易な共感ではない、でも共に感じる時間を絶やすまいとする、ラジオとカメラのそのささやかな祈りに、思わず耳を澄ませた。

■三浦哲哉(映画研究者)
震災後の街を見守り、再生のために身を投じる女性。その姿から途方もなく大きな何かが触知される。前作『息の跡』と本作は、おそらくビクトル・エリセ『ミツバチのささやき』『エル・スール』、いや、カール・ドライヤー『奇跡』と『ゲアトルード』のように巨大な2部作だ。

■三宅唱(映画監督)
もうたまらない。ありとあらゆるものがこんなにも豊かに溢れてみえるのはなぜだろう。手を動かすこと、ひとの話をきくこと。みなさんと小森さんがしつこくかつ軽やかにそれを繰り返すから、こんな時代のなかでもまったく新しい日々が生まれ、映るのだろうか。同時代にこの映画が作られたことがたまらなく嬉しい。

『空に聞く』
11月21日(土)よりポレポレ東中野、12月12日(土)より大阪シネ・ヌーヴォにて公開、以後全国順次公開
監督・撮影・編集:小森はるか
出演:阿部裕美
配給:東風

【作品概要】 東日本大震災の後、約3年半にわたり「陸前高田災害FM」のパーソナリティを務めた阿部裕美さん。地域の人びとの記憶や思いに寄り添い、いくつもの声をラジオを通じて届ける日々を、キャメラは親密な距離で記録した。津波で流された町の再建は着々と進み、嵩上げされた台地に新しい町が造成されていく光景が幾重にも折り重なっていく。失われていく何かと、これから出会う何か。時間が流れ、阿部さんは言う…忘れたとかじゃなくて、ちょっと前を見るようになった。

©︎KOMORI HARUKA