黒沢清監督「普通の人々の凄まじい苦悩と危機を、この映画は淡々と暴き立てる」新鋭・野原位監督作『三度目の、正直』予告編&ポスタービジュアル

第34回東京国際映画祭コンペティション部門で上映された野原位監督作で、川村りらが主演を務める『三度目の、正直』が、2022年1月22日に公開されることが決定し、予告編とポスタービジュアルがお披露目となった。併せて、黒沢清監督より本作へのコメントが寄せられた。

本作は、黒沢清監督作『スパイの妻』、濱口竜介監督作『ハッピーアワー』の共同脚本、野原位が監督を務めた劇場デビュー作。月島春は、パートナーの連れ子・蘭がカナダに留学し、言い知れぬ寂しさを抱えていた。そんな時、公園で記憶を失くした青年と出会う。過去に流産も経験している春は、その青年を神からの贈り物と信じ、今度こそ彼を自らの傍で育てたいと願う。一方、春の弟・毅は音楽活動を続けている。その妻・美香子は精神の不安を抱えながら、4歳の子を育て、毅の創作を献身的に支えていた。それぞれの秘めた思いが、神戸の街を舞台に交錯する。

公開されたポスタービジュアルでは、中央にトレンチコートを来た川村りら演じる春が、街の雑踏の中で立ち尽くす印象的なカットが採用されている。上部には、記憶を失くした青年、生人。そして下部には、美香子と、その夫である毅が車中にいるシーンが採用されており、「今度こそ、自分を生きる。」というキャッチコピーが配置されている。

予告編では、冒頭で青年が公園で倒れているところに、春が近寄り声をかけるシーンから幕をあける。記憶を失った様子のその青年を、春は家に連れていく。記憶を失くし、自分の名前も分からないその青年を、春は「生人」(なると)と名付け、自分の傍に置こうとする。続くシーンでは、春の弟、毅と妻の美香子、2人の子供との生活が描かれる。毅は「体調大丈夫か?」と妻の様子を気にかけてはいるものの、心療内科では無理して、家族、毅を支えようとする献身的な姿を医者にたしなめる姿も同時に描かれる。そしてシーン春に戻り、生人に向かって、7年間一緒に暮らした連れ子の蘭がカナダに留学して、その寂しさが拭えないのだ、と語るが、その話を遮るように、生人が「気持ち悪い」と春に告げる…。錯綜するそれぞれの関係は、果たしてどのように結末を迎えるのか。

濱口竜介監督は、東京国際映画祭で本作を鑑賞し、映画祭のデイリーペーパー(10/31付け)で「主演の川村りらさんの感情に心を鷲掴みにされてしまい、日本でここまでジョン・カサヴェテスに近い作品を完成させたことに嫉妬を禁じ得ませんでした」と賛辞を贈った。また野原監督が共同脚本を務めた『スパイの妻』の監督、黒沢清は、「普通の人々がただ普通に生きようとして直面する凄まじい苦悩と危機を、この映画は淡々と暴き立てる」とコメントを寄せた。

■黒沢清(映画監督) コメント
地域コミュニティがとうにマボロシと化した地方都市で、普通の人々がただ普通に生きようとして直面する凄まじい苦悩と危機を、この映画は淡々と暴き立てる。何かが確実に崩壊している。しかし同時に、希望もそこにある。

『三度目の、正直』
2022年1月22日 シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督・脚本・編集:野原位
脚本・出演:川村りら
出演:小林勝行 出村弘美 川村知 田辺泰信 謝花喜天 福永祥子 影吉紗都 三浦博之
配給:ブライトホース・フィルム

【ストーリー】 月島春(川村りら)は、パートナーである宗一朗の連れ子・蘭がカナダに留学し、言い知れぬ寂しさを抱えていた。そんな時、公園で記憶を失くした青年(川村知)と出会う。過去に流産も経験している春は、その青年を神からの贈り物と信じ、今度こそ彼を自らの傍で育てたいと願う。一方、春の弟・毅(小林勝行)は音楽活動を続けている。その妻・美香子(出村弘美)は精神の不調を抱え、心療内科医である宗一朗の診察を受けながら、4歳の子を育て、毅の創作を献身的に支えていた。すれ違う優しさとわだかまる不安…。それぞれに「家族」のかたちを求めて生きる彼らだったが、正常と狂気の境目がいつしか緩やかに崩れ始める。

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