本年度アカデミー賞で国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞の2部門にノミネートされたルーマニア映画『コレクティブ 国家の嘘』が、10月2日より公開される。このほど、本作の日本版予告編がお披露目となった。
東欧ルーマニア・ブカレストのクラブ“コレクティブ”で2015年10月30日に実際に起こった火災を発端に、明らかになっていく製薬会社や病院、そして政府や権力へと繋がっていく衝撃的な癒着の連鎖。本作は、命よりも利益や効率が優先された果てに起こった国家を揺るがす巨大医療汚職事件の闇と、それと対峙する市民やジャーナリスト達を追った、フィクションよりもスリリングな現実を捉えたドキュメンタリー映画。
“コレクティブ”火災当時の死者は27名だったが、一命を取り留めたはずの入院患者が病院で次々に死亡、最終的には火災から3か月で死者数が64名にまで膨れ上がってしまう。いち早く取材を始めた地元のスポーツ紙「ガゼタ・スポルトゥリロル」に寄せられた関係者の内部告発により、死因が火災時のやけどではなく感染症であることが明らかになる決定的瞬間や、記者が諜報部から“家族もいるだろ、気をつけろ”と脅迫めいた言葉を投げかけられたことを告げる場面など、カメラはスリリングな場面を次々と捉えていく。公文書の偽造疑惑に対してまともに答えようとしない大臣に対し、懸命に食い下がる記者達の姿も印象的だ。映画の後半から登場するのが、新たに誕生した正義感あふれる保健省大臣。カメラは、事件に関わる政策を管轄する大臣として、腐敗の中枢でもある政府の中から事件に立ち向かう現職大臣にも密着していく。予告編は、異なる立場から事件に関わる者たちの戦いの姿をつぶさに映し出し、ドキュメンタリー映画としての想像をはるかに超える“深度”で事件に迫っていく本作の魅力が伝わる映像となっている。この事件のその先に待ち受けるものとは?本映像には、日本のジャーナリズムを体現してきた二人の記者による熱い絶賛コメントも収められる。
撮影も担当したアレクサンダー・ナナウ監督は、本作におけるほぼ全てのシーンの撮影を一人で行った。取材活動の妨害とも取れる言葉を投げかけられた記者とは違い、監督自身が身の危険を感じることはなかったものの、撮影中は自身も諜報機関により電話を盗聴されていたことを把握していたという。このため、本作製作中はフッテージ素材を厳重に管理しながらいくつもコピーをしたり、時には素材をルーマニア国外に運び出すなど、素材とプロジェクトを守る態勢で臨んでいたことを明かしている。
■アレクサンダー・ナナウ(監督) コメント
観客の皆さんが、これは誰かが撮影していることを感じさせないほどに、キャラクターと直接的な繋がりを持てるようにと考えています。映画でも小説でも素晴らしいストーリーテリングというのは、映画でも小説でも、ストーリーの中にいることを忘れてしまうものです。そういう風にすることが私の仕事であると思っています。
『コレクティブ 国家の嘘』
10月2日(土)シアター・イメージフォーラム、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
監督・撮影:アレクサンダー・ナナウ
出演:カタリン・トロンタン カメリア・ロイウ テディ・ウルスレァヌ ブラッド・ボイクレスク
配給:トランスフォーマー
【ストーリー】 2015年10月、ルーマニア・ブカレストのクラブ“コレクティブ”でライブ中に火災が発生。27名の死者と180名の負傷者を出す大惨事となったが、一命を取り留めたはずの入院患者が複数の病院で次々に死亡、最終的には死者数が64名まで膨れ上がってしまう。カメラは事件を不審に思い調査を始めたスポーツ紙「ガゼタ・スポルトゥリロル」の編集長を追い始めるが、彼は内部告発者からの情報提供により衝撃の事実に行き着く。その事件の背景には、莫大な利益を手にする製薬会社と、彼らと黒いつながりを持った病院経営者、そして政府関係者との巨大な癒着が隠されていた。真実に近づくたび、増していく命の危険。それでも記者たちは真相を暴こうと進み続ける。一方、報道を目にした市民たちの怒りは頂点に達し、内閣はついに辞職へと追いやられ、正義感あふれる大臣が誕生する。彼は、腐敗にまみれたシステムを変えようと奮闘するが…。
©Alexander Nanau Production, HBO Europe, Samsa Film 2019