不慮の火事で自宅が全焼した映画監督・原將人のゼロからの再起を綴る再生ドキュメンタリー『焼け跡クロニクル』のクラウドファンディングが、本日9月5日よりMOTION GALLERYにて開始されることが発表された。併せて、映画監督の山田洋次、瀬々敬久らより本作を応援するコメントが寄せられた。
2018年7月、京都・西陣の原將人監督宅より出火、自宅が全焼した。出火原因は不明。原は火傷を負って入院、残された家族は公民館へ避難。明日着る服も、帰る家もなく、映画監督の命である作品は燃え、生活するのに必要なものを何もかも失った。本作は、火災当日の模様とゼロからの再起を、当事者自らが記録したドキュメンタリー。
原は1968年、麻布学園高校在学中に『おかしさに彩られた悲しみのバラード』で第1回フィルムアートフェスティバル東京においてグランプリとATG賞をダブル受賞。10代で松本俊夫監督作『薔薇の葬列』の助監督、大島渚監督作『東京战争戦後秘話』の脚本と予告編の演出を手掛け、天才映画少年と称された。1973年に発表した『初国知所之天皇』は独自のスタイルで新しい映画の地平を開き、インディーズ映画の傑作として語り継がれる。1997年、広末涼子映画デビュー作『20世紀ノスタルジア』で日本映画監督協会新人賞受賞。2002年、デジタルプロジェクター1台と8mm映写機2台による3面マルチ投影のライブ作品『MI・TA・RI!』は、第1回フランクフルト国際映画祭観客賞受賞した。
クラウドファンディングの目標金額は300万円。「防災週間」にあたる9月5日よりスタートし、11月30日まで募集が行われる。集まった資金は映画の完成費用、全国での劇場公開に向けた配給・上映費用として使用される。主なリターンとして、「全国共通特別鑑賞券」、「焼け残った原將人作品の8mmフィルムの現物」、「原將人、真織監督からの年賀状」、「2022年カレンダー付きマスコミ用プレスシート」、「エンドクレジットにお名前掲載」、「オンラインイベント参加券」、「オンライン打ち上げ参加券」などが用意されている。
▼著名人 応援コメント
■山田洋次(映画監督)
原將人は転んでもただでは起きない。自分の住居が火事になるということはそう誰もが経験することではない。原君はその不幸に遭遇したが、燃えさかる家に飛び込んで火をものともせずに、撮りためた大切な八ミリのフィルムを夢中で運び出した。そして顔や腕が火傷だらけの痛々しい姿で傷ついたフィルムを編集し始める。その結果、なまなましく焼け焦げたフィルムを通して彼と愛する家族の歴史が鮮烈に浮かび上がることになる。ドキュメンタリー作家の業が生み出したとも云うべきこのユニークな作品が劇場で上映されることを、彼の昔からのファンの一人として切実に願ってやまない。
■瀬々敬久(映画監督)
僕は原さん、原將人さんを応援しないわけにはいきません。原さんの作品を初めて見たのはテレビでした。『おかしさに彩られた悲しみのバラード』僕がまったく見たことがないような映画でした。とてつもなく自由で、めちゃくちゃだけどチャーミングで、それでいて感情のある表現。うわ!こんな映画がこの世に存在するんだ!それ以来、自分で映画を作ることが出来ないかと思い立ち、僕自身も行動に走りました。そして、伝説の『初国知所之天皇』。これが見たくて見たくて自ら原將人全作品上映会を企画して自主上映を行いました。そのとき見たのは80年代初期の16ミリ映写機二台を使った二面マルチヴァージョン、とにかくこれもショックで、ああー、もう!なんだよ、なんだよ!なんでこんなことが出来るんだよ!という感じでした。そして今回、そんな原さんの71歳にしての新作。とにかく、原さんの新作を見届けたい。いま、なんだか無性に危機感を抱きながら、そう思っております。そんなわけで、原さんの新作を応援したい、応援します、応援しましょう、なのです。
■谷川建司(映画ジャーナリスト/早稲田大学政治経済学術院客員教授)
この映画には、互いが互いを思いやり、困難を克服しようとする一つの家族の強い意志が映像のどの瞬間にも満ち溢れている。突然の被災、周囲の励ましや助力を得ての困難の克服、そして再生へと至る姿が克明に記録されているのみならず、様々な自然災害で被災した数多くの人々にとっても希望の光を見出すヒントとなるに違いない。映画の完成へ向けて支援することは、誰かを励ますというだけでなく、逆に自分自身が励まされるチャンスを得ることでもあるはずだ。
■四方田犬彦(映画史・比較文学研究)
2018年、原將人は自宅の火災により、これまで撮ってきた多くのフィルムを喪失した。彼は燃え盛る火の中、編集中の作品とデータの入ったパソコンとハードディスクを取り出すのが精一杯で、このときはさすがに撮影することはできなかった。しかし燃え崩れた家のなかから残骸と化したフィルム缶を発掘し、作業のいっさいを撮影した。われわれがここに観るのは、編集された映像の記録である。映像が滅び、その灰燼のなかから新しい映像が誕生する。死と再生の劇がここにはある。
『焼け跡クロニクル』
監督:原將人
共同監督:原真織