朝日新聞「男のひといき」欄から話題になり、今年3月に単行本化された河崎啓一による同名エッセイ本を、尾藤イサオと中尾ミエのダブル主演で映画化する『感謝離 ずっと一緒に』が、11月6日より公開されることが決定した。
2019年5月、朝日新聞「男のひといき」欄に一つのエッセイが投稿された。エッセイのタイトルは「感謝離(かんしゃり) ずっと夫婦」。同年3月に62年連れ添った愛妻を亡くした河崎啓一(当時89歳)が悲しみに打ちひしがれる中、妻への思いを綴ったエッセイは読者の心に深く染み渡り、大きな反響を呼んだ。ラジオやテレビでも取り上げられ、このエッセイを読み「涙した」と呟いた女性のツイッターは10万件以上リツイートされている。投稿のタイトルにある“感謝離”という言葉は、“愛する人が遺していったものに感謝の思いを込めながら整理していくこと”を意味しており、河崎自身から自然に出てきた表現だ。このような思いに至るまでの河崎自身を書いた同作が、今年3月に単行本化された。妻に先立たれ、遺品を前に立ち止まっていた著者の河崎だったが、そのひとつひとつを手に取り、妻との愛おしい日々を思い出し、その出会いや奇跡に感謝をしながら、「さようなら。ありがとう」と手放していくことで、愛する人との別れを乗り越え、前へ進もうと思えるようになる。「長年寄り添ったパートナー“だった”、と考えたのは誤りだった。二人の間に終止符は存在しない、これからもずっと一緒だ」そう言って、晴れやかな気持ちで前を向く姿、愛妻への想いが溢れる感動の実話が、実写映画となってスクリーンに活写される。
夫・謙三役を演じるのは、1962年に歌手としてデビューした尾藤イサオ。1966年、ビートルズ日本公演の前座として内田裕也やブルージーンズ、ジャッキー吉川とブルーコメッツ等と出演、合同演奏を行い、1970年には「あしたのジョー」の主題歌を歌い一世を風靡した。歌手活動に留まらず、テレビドラマや映画、舞台と、俳優としても約50年にわたり活躍し、中でも映画では市川崑、森田芳光、山田洋次など日本を代表する監督らの作品に出演する。近年は、テレビドラマ「ノーサイドゲーム」、映画『天地明察』、『の・ようなもの のようなもの』などに出演。本作は、尾藤にとって、21年ぶりの映画主演作となる。
そして妻・和子役は、歌手、女優、近年ではコメンテーターとしても活躍する中尾ミエが熱演。1962年「可愛いベイビー」が大ヒットし、以降数多くの楽曲を世に送る出す一方、女優として「若い季節」や「ふりむくな鶴吉」といった NHKドラマ、「必殺シリーズ」では他を圧倒する存在感を放つ。近年ではテレビドラマ「金魚姫」、映画『人生、いろどり』、『繕い裁つ人』などに出演した。
尾藤と中尾は、中尾が主演・企画・プロデュースを務めるオリジナルミュージカル「ザ・デイサービス・ショウ〜It’s Only Rock’n Roll〜2019」以来となり、映画は今回が初共演となる。昭和、平成、令和、3つの時代で様々なエンターテインメントを発表し続ける大ベテランの二人が62年連れ添ったおしどり夫婦を体現する。
▼スタッフ&キャスト コメント
■尾藤イサオ(笠井謙三役)
ミエちゃんとは60年以上のおつきあいで、そのミエちゃんとこの歳になって夫婦の役を演じる事ができるなんて、今年の公開の時には喜寿を迎える僕にとっては、神様からのプレゼントのようです。初めにこのお話を頂いた時、主役が僕って…マネージャーに聞き返しましたよ(笑)。本当に感謝しかないです。この作品の撮影が終わり離れるのは寂しく思いますが、皆様の心の中にずっと一緒に生き続けてもらえれば嬉しく思います。僕も本当に感謝して離れる。これこそ本当の感謝離ですね。
■中尾ミエ(笠井和子役)
私たちもそろそろ終末期を迎え、身の回りの整理をしなければいけない時期になりました…と思いつつもなかなか整理ができないのが現状です。そんな時、“感謝離”という素晴らしい言葉に出逢いました。全てのものに感謝して“ご栄転”させてあげると思えば、気持ちよく送り出すことができます。初めて台本を読んだ時、涙が止まりませんでしたが最後にはなんだか清々しい気持ちになりました。皆さまもこの映画をご覧になって、1日も早くその気になって下さい。
■小沼雄一(監督)
この世界に“絶対”ってあるだろうかとフト考えるわけです。が、意外と少ないものです。悩み事は努力で解決できたり、楽しいことはやがて飽きてしまったり、数学という学問に言わせると1+1=2も絶対というわけではないそうです。ところが、この数少ない絶対が私たちのすぐそばに存在します。死です。特に身近な人の死です。死んだものは絶対に生き返らないことを、私は父を癌で亡くしたときに学びました。この映画の原作となった随想「感謝離 ずっと一緒に」は新聞に投稿された短い文章が元になっています。夫婦が長い年月を経て育んだ時間。やがて訪れる伴侶の死。遺品を整理しなければならなくなったとき、主人公はその一つ一つに「ありがとう」という感謝の言葉を添えることでようやく前を向くことができると気づきます。はじめて原作を読んだとき、身近の人の死を懸命に受け止めようとするその姿に私は心打たれました。夫婦を演じるのは尾藤イサオさんと中尾ミエさん。いうまでもなく歌手として長く活躍された方々です。言葉を表現する強い力を持っています。「感謝(ありがとう)」そして「離(さようなら)」、この二つのシンプルな言葉だけで夫婦の歴史と愛を豊かに表現してくれました。原作が持つ深い慈しみを、映画を通じて感じていただけることを願ってやみません。
■河崎啓一(原作)
今年11月4日、僕と和子は64回目の結婚記念日を迎える。その2日後に、僕らの物語が、なんと映画になって公開されるなんて、嬉しいやら恥ずかしいやら…90年の人生でも最大級の驚愕である。「うふふ。私のおかげね」丸っこい鼻を可愛らしく膨らませた写真の中の和子は、ほんのちょっぴり得意げだ。妻が天国に旅立って以来、少しずつ彼女の遺品を手放してきた。時には悲しみに立ちすくんでしまうこともあったけれど、その都度、彼女の笑顔を思い出し、感謝とともにお別れしてきた。その経験を、こんな素敵な映画にしていただけるとは。なんて素晴らしい結婚記念日なんだろう。どうかこの作品が、僕のように大切な人を亡くして一歩も前に進めなくなっている方々の背中を、優しく押すものとなりますように。
『感謝離 ずっと一緒に』
11月6日(金)より、イオンシネマほか全国ロードショー
監督:小沼雄一
原作:河崎啓一「感謝離 ずっと一緒に」
脚本:鈴木史子
音楽:岡出莉菜
出演:尾藤イサオ 中尾ミエ
配給:イオンエンターテイメント
【ストーリー】 「銀行マンは転勤が仕事みたいなもんだから」定年まで銀行員として勤め上げた笠井謙三(尾藤イサオ)。「ようやく慣れたと思ったらまた引っ越し、その繰り返しよ」と言いながらも、いつも前向きに明るく夫を支えてきた妻の笠井和子(中尾ミエ)。新婚早々、妻が欲しがるピアノを“惚れた弱みだ”と気前よく購入したあの日、それからずっと転勤続きで長い間仮住まい生活だった二人は今、ようやく手にした“夫婦だけのおうち”で、仲良く暮らしている。そんなある日、妻の和子が脳梗塞で倒れ、入院。リハビリを続けるも、退院後も車いす生活が続くからと、そのまま老人ホームで暮らすことに。「いつかもういちど私たち夫婦だけのおうちに戻りたい」と願う妻に、来る日も来る日も優しく寄り添う夫。しかし数年後、その思いを叶えられぬまま、妻は他界。数か月後、妻の居なくなったおうちで、謙三はひとり、身の回りの整理を始める。30年選手のホーロー鍋、何冊もの家計簿、タンスの中の洋服たち。妻との想い出がつまった品々を手に取るたびに、つらい気持ちがこみ上げる。そんな中、妻の言葉を思い出す。壊れたりやぶれたり古くなったものは、いつか出世させてあげなきゃ。「お世話になりました、ありがとう。ご栄転です!」そう言って明るく処分してくれていたことを。そうして謙三は、ひとつひとつに感謝の言葉を吹き込みながら、一歩ずつ前を向いていく。そして、二人の大切な曲「アニー・ローリー」が鳴る目覚まし時計を携えて、新しい一歩を踏み出す。
©2020「感謝離 ずっと一緒に」製作委員会 ©河崎啓一/双葉社