モトーラ世理奈「ラストシーンの10分間、セリフは全部自分で考えた。“風の電話”に訪れるまで言葉は決めなかった」

岩手県大槌町にある天国につながるといわれる“風の電話”をモチーフに、諏訪敦彦監督がモトーラ世理奈主演で贈る『風の電話』が、2020年1月24日より公開される。このほど、12月18日に岩手・大槌町文化交流センター「おしゃっち」にて初の本編上映と舞台挨拶が行われ、モトーラ世理奈、諏訪敦彦監督、そして“風の電話”の設置者であるガーデンデザイナー・佐々木格が登壇した。

主演のモトーラ世理奈と諏訪監督が大槌町に訪れるのは、今年5月の撮影以来、約半年ぶり。初めの挨拶で、佐々木は「“風の電話”を設置して8年目になるが、まだ訪れていない方も、この映画をきっかけに、悲しみを分かち合うこと、支え合うという気持ちについて考えてもらえたら嬉しい」、諏訪監督は「大槌の方々に観てもらえて、やっとこの映画が完成したなと思えます。僕たち監督、役者の仕事は半分で、観客の皆さんに観てもらってはじめて映画は完成する」と嬉しそうにコメント。また、震災によって家族を失うという難しい役どころを演じたモトーラも「ハルのおかげでまた大槌町に戻ってこれた」と感謝を述べた。

本作の感想を問われた佐々木は、「この映画は観るだけの映画ではなく、心で感じる映画。感性や想像力を刺激し、本質を見抜く力のある映画になっている。画面越しで理解したつもりになる現代への問題提起、挑戦的な意欲作」と作品を賞賛。また、宮沢賢治や石川啄木を生んだ岩手県の土地柄、隣人への優しさが描かれているとも語った。

次に、諏訪監督は「2時間半ハルと旅することで、自分は決して一人だと思わせない映画にしたかった。ハルが出会う公平(三浦友和)や森尾(西島秀俊)ら周囲の大人はみな優しく、彼女に何も聞かずに『食え』とだけ言う。生きているんだから食べなさい。そういった人間の優しさに溢れている映画になったと思う。いま、岩手だけでなく日本中が傷ついているけど、日本人はこの傷ついた少女を見守ってくれるし、寄り添ってくれるというテーマをずっと持っていた」と製作の裏話を明かし、実際の“風の電話”という場所に対しては、「Googleマップを使っても、簡単にたどり着けない場所だからこそ、旅を通してハルの再生を描きたかった。熊野古道のように昔から旅には再生という意味も含まれる。実際の“風の電話”は、孤独ではないと感じることができる場所。だから順番に撮影し、最後にここを訪れた」とも語った。

続いて佐々木は「映画化の声は今まで何度かあったけど、こうして実現したのは監督をはじめ製作陣が“風の電話”をよく理解してくれたから。この電話の意味や役割をしっかり描いてくれたことがとても嬉しい」と話し、これまで提案のあった企画の中にはドイツの映画監督ヴェルナー・ヘルツォークがいたことなどを明かした。

実際に“風の電話”に訪れ、演技のことを聞かれたモトーラは、「(ラストシーンの)10分間ノーカット、セリフは全部自分で考えた。旅の順番通り撮影していく中でずっと考えていたし、ホテルで一人考えてもみたけどやっぱりわからないから、そこに訪れるまで言葉は決めなかった」と話し、電話で話しかけるシーンでは「ほんとうは電話を切りたくなかった」と撮影を振り返った。それに対し、諏訪監督は「モトーラさん自身があの場所に言葉を託したのが素晴らしかった。ハルは8年経ってようやく言葉にすることができたし、あらかじめ決められたセリフではないからこそ、あの瞬間に本当の意味で“風の電話”に訪れたんだと思えました」とモトーラの演技を絶賛した。

最後に、観客から「物語に、“被災地だから”といった配慮や気遣いのような(余計な)遠慮がなくてよかった。すばらしい映画でした」といった声や、「震災があって地元大槌町を離れたけど、この映画をきっかけにこうして帰ってくることができました。そして映画を見ていて主人公ハルのように自分も一人ぼっちじゃないんだと思うことができました」といった感想の声があがった。

『風の電話』
2020年1月24日(金)全国ロードショー
監督・脚本:諏訪敦彦
脚本:狗飼恭子
音楽:世武裕子
出演:モトーラ世理奈 西島秀俊 西田敏行 三浦友和 渡辺真起子 山本未來 占部房子 池津祥子 石橋けい 篠原篤 別府康子
配給:ブロードメディア・スタジオ

【ストーリー】 17歳の高校生ハル(モトーラ世理奈)は、東日本大震災で家族を失い、広島に住む伯母、広子(渡辺真起子)の家に身を寄せている。心に深い傷を抱えながらも、常に寄り添ってくれる広子のおかげで、日常を過ごすことができたハルだったが、ある日、学校から帰ると広子が部屋で倒れていた。自分の周りの人が全ていなくなる不安に駆られたハルは、あの日以来、一度も帰っていない故郷の大槌町へ向かう。広島から岩手までの長い旅の途中、彼女の目にはどんな景色が映っていくのだろうか。憔悴して道端に倒れていたところを助けてくれた公平(三浦友和)、今も福島に暮らし被災した時の話を聞かせてくれた今田(西田敏行)。様々な人と出会い、食事をふるまわれ、抱きしめられ、「生きろ」と励まされるハル。道中で出会った福島の元原発作業員の森尾(西島秀俊)と共に旅は続いていき…。そして、ハルは導かれるように、故郷にある“風の電話”へと歩みを進める。家族と「もう一度、話したい」その想いを胸に…。

©2020 映画「風の電話」製作委員会