『羊と鋼の森』で2016年の本屋大賞1位を受賞した作家・宮下奈都の小説デビュー作を、『四月の永い夢』、『わたしは光をにぎっている』の中川龍太郎監督が仲野太賀と乃木坂46を卒業した衛藤美彩のダブル主演で映画化した『静かな雨』。本作の東京フィルメックス コンペティション部門 舞台挨拶が11月24日に有楽町朝日ホールにて開催され、仲野太賀、衛藤美彩、音楽を担当する高木正勝、中川龍太郎監督が登壇した。併せて、本作の公開日が2020年2月7日に決定したことが発表された。
満員の観客の温かい拍手に迎えられた仲野は、「フィルメックスの熱量を感じて、びっくりしています。この作品を上映できることを誇りに思います」と笑顔で挨拶。中川監督とは『走れ、絶望に追いつかれない速さで』に続くタッグとなったが、「中川監督とはほぼ同世代で、一緒に歩みを揃えて映画を作れる数少ない同世代の仲間です。今回は中川くんにとっては初の原作もので、自分にできることがあればと参加しました。前作から4~5年が経って、まだまだお互いに成長していかないといけないし、今回もタッグを組んで、またより一層、高め合いたいと思ったし、刺激し合って作品を作れる監督だなと改めて思いました」と振り返った。
主人公の行助を演じるにあたっては、「どちらかというとハッキリと構築された世界観で進んでいく物語なので、見てくださる方に共感できる人間であることが重要かなと思った」と語り、「(行助は)足をひきずっていたり、特殊な設定ではあるんですが、そこで行助の感情に普遍的なものが宿っていれば共感してもらえるのかなと思って演じました」と明かした。
一方、行助が出会う、たいやき屋の女性で、交通事故の影響で新たな記憶を刻むことができなくなってしまうヒロイン・こよみを演じた衛藤は、本作で映画初出演にして初主演を飾った。「3月に乃木坂46を卒業したんですが、この作品の撮影中はまだ在籍していて、グループでの活動をしながらの主演でプレッシャーもありました」と口にした。また、こよみという役柄については、「緊張した日々の中で、あまり深く役作りとか『こういうふうにしよう』という感じでイメージを作らずにすんなり入れたのは、自分と近いものがあったからなのかなと思います」と語った。
さらに、中川監督の印象を問われた衛藤は「言いにくい…」と苦笑しつつ、「本番前のリハーサルにたくさん時間をとってくださって、『衛藤さんらしさが出てほしい』と何度もおっしゃっていただき助かりました。何回も打ち合わせをし、練習したので自然と入り込めました」と感謝を口にした。
音楽を担当した高木は、映画について「『音楽のいらない映画だな』というのが最初の印象でした」と語り、実際、監督にも「これ、音楽いらないんですけどどうしましょう…?」と尋ねたという。最初に映像を見ながら、即興的にピアノを弾いて曲をつけてみたというが、「最終的にそれが(本編にも)残りました」と最初に感じたインスピレーションがそのまま音楽として活かされていることを明かした。
最後に、中川監督は日本の観客の前での初めての上映が東京フィルメックスという場になったことに、「学生時代から行ってた映画祭でこうやって上映していただけて、ありがたいと思っています」と感慨深げにコメント。そして、これまでオリジナル脚本で映画を作ってきたが、今回、初めて原作の実写化への挑戦となり「原作の持っているおとぎ話のような世界観が、若い世代にとっての寓話になるようにというコンセプトで臨みました。原作があるからこそ、今まで出せなかったものを出し切ろうと、アイドル出身の衛藤さんとコラボさせてもらい、憧れの音楽家である高木さんにお参加していただき、“同志”の太賀くんに作品の背骨を作ってもらいました。そうやって、周りの仲間をどう集めるか?というところで、この原作を一種の寓話にできていたらいいなと思って作りました」と共に映画を作り上げた周囲への思いを語った。
『静かな雨』
2020年2月7日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー
監督:中川龍太郎
脚本:梅原英司 中川龍太郎
出演:仲野太賀 衛藤美彩 三浦透子 坂東龍汰 古舘寛治 川瀬陽太 河瀨直美 萩原聖人 村上淳 でんでん
配給:キグー
【ストーリー】 大学で生物考古学研究助手をしている行助(仲野太賀)は、パチンコ屋の駐車場でおいしそうなたいやき屋を見つける。そこは、こよみ(衛藤美彩)という、まっすぐな目をした可愛い女の子が一人で経営するたいやき屋だった。そこに通ううちにこよみと少しずつ親しくなり、言葉を交わすようになる。だがある朝、こよみは交通事故で意識不明になってしまう。毎日病院に通う行助。そしてある日、奇跡的に意識を取り戻したこよみだが、事故の後遺症で記憶に障害があることがわかる。事故以前の記憶は残っているが、目覚めてからの記憶は一日経つと消えてしまうのだ。行助は記憶が刻まれなくなったこよみと、変わらずに接していこうとするが…。外は静かな雨が降っていた。
©2019「静かな雨」製作委員会 / 宮下奈都・文藝春秋