木村紅美による芥川賞候補となった小説を、主演に吉行和子、共演に菜葉菜、寛一郎を迎えて映画化した『雪子さんの足音』が、5月18日より公開されることが決定し、併せて、ポスタービジュアルがお披露目となった。
洋館“月光荘”の2階を下宿人に貸す大家の川島雪子は、放蕩息子の死をきっかけに居間をサロンとして下宿人に解放する。その常連の小野田香織は、肉親や職場の人間関係に屈折した感情を抱いていた。2年前から間借りしていた男子大学生の湯佐薫もサロンに招かれるが、その日から、夕食会や部屋に食事を届ける出前、ポチ袋に入ったお小遣いなど、過剰な善意と物質的な援助が続く。薫はついに逃げ出してしまうが、20年経って雪子が孤独死したことを知り、再び月光荘を訪れようとする。
主人公・雪子を演じるのは、ベテラン女優の吉行和子。本作との出会いを「私が最も演ってみたかった役ではないか。胸がざわつくような年寄を演りたい、と密かに思っていた」と語る。本作では、ご馳走してくれる親切で優しい大家さんと思われながら、真偽の明らかでない身の上話を語る雪子の、下宿人の心の中に入り込んでいく不気味さや可笑しさ、笑顔の背後にある深い孤独を表現する。
月光荘に暮らすもう一人の闇を抱えた女性・小野田を演じるのは、『赤い雪 Red Snow』の卓越した演技で注目を集める菜葉菜。コンプレックスの塊のような小野田の哀しさや複雑さを見事に演じている。そして、二人の女性に侵食されそうになりながら懸命に塞ぎ止めようとする薫には、近作では『チワワちゃん』などに出演し、2018年キネマ旬報新人男優賞を受賞した寛一郎。ストーリーは彼を軸に展開し、女性二人の攻勢に戸惑いながら、自分の良心を不器用に守ろうとする薫を繊細に演じきった。
メガホンをとったのは、1971年に監督デビューして以来、400本を越すピンク映画を手掛けてきた浜野佐知。1998年以降は自主制作に注力し、『第七官界彷徨−尾崎翠を探して』、『百合祭』、『こほろぎ嬢』、『百合子、ダスヴィダーニヤ』などを発表して海外でも高い評価を受けた。本作では、女性の心の孤独を軸に、これまでステレオタイプで描かれてきた“老女”の深い欲望と、得体の知れない謎を、鮮烈に、時にユーモラスに描き出した。
『雪子さんの足音』
5月18日(土)より渋谷・ユーロスペースにて公開
6月15日(土)より横浜シネマ・ジャック&ベティにて公開ほか全国順次ロードショー
監督:浜野佐知
原作:木村紅美「雪子さんの足音」(講談社刊)
脚本:山﨑邦紀
音楽:吉岡しげ美
出演:吉行和子 菜葉菜 寛一郎 大方斐紗子 野村万蔵 宝井誠明 佐藤浩市
配給:旦々舎
【ストーリー】 月光荘の大家、雪子さん(吉行和子)は、教養もあり文化的な香りを漂わせる。テレフォンオペレーターの小野田さん(菜葉菜)と雪子さんがサロンと呼ぶ部屋に、大学生の薫くん(寛一郎)も招かれた。それをきっかけに真綿で首を絞めるようなご馳走ぜめとぽち袋のお小遣い。二人の女性の欲望とエネルギーに触れ、底知れない恐怖を覚えた薫くんは月光荘を逃げ出した。それから20年の月日が流れ、月光荘の呪縛から逃れられない薫くんに、雪子さんの足音が聞こえてくる。孤独死した雪子さんと、月光荘を再訪した薫くんが、心の底で望んでいたものは?
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