【全起こし】パク・チャヌク監督来日(第二夜)男女と女性同士の官能シーンの違いとは?

ハリウッドでも活躍する韓国の鬼才パク・チャヌク監督が、7年ぶりに韓国で撮ったミステリー『お嬢さん』。来日中のパク・チャヌク監督が、昨夜の真木よう子に続き、今回は、多くの女性を描き、官能的な作品も手掛ける女性作家、島本理生とトークイベントを行なった。このイベントの前に雑誌でも監督と対談をしたという島本は、まだまだ聞きたいことがあったようで、これから見る観客を前に、ネタバレにならない程度に踏み込んだ質問で切り込んだ。以下はその全文。

MC:本日はパク・チャヌク監督来日ジャパンプレミアにお越しいただき誠にありがとうございます。公開は3月3日からですが、今日はパク・チャヌク監督が来日し、この会場にお越しいただいております。それでは早速お呼びいたしましょう。パク・チャヌク監督です。ようこそ日本にお越しくださいました。まずはひと言ご挨拶をお願いいたします。
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監督:今日は天気が悪いにもかかわらず来て下さるかどうか心配していただんですけれども、来てくださいまして本当にありがとうございます。皆さんにとっていい時間になれば嬉しいです。

MC:本作『お嬢さん』は韓国では成人指定ながらなんと動員400万人以上という大ヒット、世界各国の映画祭でも非常に高い評価を受けています。監督はこの作品の人気や反響をどう受け止めていますか?

監督:青少年観覧不可というレーティングにしては、とてもいい成績が残せたと思います。何よりも俳優さんたちが頑張った力が大きかったと思います。そして、哀れで惨めな扱いをされる役柄を快く演じてくれた2人の俳優にもこの場を借りてお礼を言いたいです。

MC:原作はサラ・ウォーターズのミステリー小説「荊の城」原題は「Fingersmith」ですが、これは19世紀ヴィクトリア朝のロンドンが舞台になっていますが、映画では日本統治下の朝鮮半島が舞台になっております。というわけで日本語もたくさん出てきますし、三重県を中心に日本で撮影された作品でもあります。いよいよ日本で公開される期待についても監督にお伺いしたいなと思います。

監督:日本人が登場するということ、そして日帝時代に時代背景を置き換えたことを、今、少し後悔しています(笑)。なぜかと言いますと、そういう時代背景ですので当然のことながら日本語のセリフが出てくるしかないような状況になってしまったからです。俳優たちは渾身の力を込めて一生懸命、日本語を勉強して臨んでくれたんですけれども、やはり外国人ということで限界があるのは仕方がないと思います。皆さんがお聞きになったときに少し未熟だなと思える点が多々あるかと思います。実はこの『お嬢さん』のプロモーションのためにいろんな国に行ったんですけれども、日本の公開にあたりましては日本に来るのは避けようと決心していたんですね。というのは日本で上映したら、皆さんから避難されるのではないかと思ってそれが怖かったんですね。どうかご覧になって皆頑張ったんだな、努力をしたんだなということを認めていただけたら嬉しいと思っています。そしてもう一つ、韓国から見た日本のイメージがこんな感じなんだなということも感じていただきながら、ちょっと未熟な点を温かい目で見守っていただければと思います。

MC:僕は大変面白く拝見しました。傑作だと思っております。

監督:ありがとうござます。

MC:連日でプレミア試写会を行なっておりまして、昨日のスペシャルゲストの女優の真木よう子さんに続きまして、本日は「この恋愛小説がすごい! 2006年版」で第1位を獲得した「ナラタージュ」が今年の秋に映画化が予定されていて、皆さんもよくご存知だと思いますけど、作家の島本理生さんにお越しいただいております。それでは島本さんどうぞ。

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MC:それでは島本理生さんからひと言いただきたいと思います。

島本:映画についてですか?

MC:あ、もういきなりいっちゃいますか。ではトークセッションにいきたいなと思います。実は昨日お2人、ある雑誌の企画で対談されたばかりということで、島本さんは監督と対談されていかがでしたか。

島本:私は監督の『オールド・ボーイ』という映画を以前初めて見てすごく衝撃を受けて今回の『お嬢さん』も公開を楽しみにしていたんですね。試写会で拝見してもう最高でしたと感想を言ったら対談に呼んでいただけたんですけど、ただ、実際お会いするに当たってもう少し作風のイメージから激しい方だと思っていたんですね(笑)。お会いしたらすごく穏やかで優しい方だったので、監督はよく会う方から作品とギャップがあるって言われませんか?

監督:実はよく言われます(笑)。特に『オールド・ボーイ』のときに世界のいろんな国に行ったんですが、どこに行っても私のファンだと名乗ってくださる方は、革ジャンを着ていたり、チェーンを付けていたり、体にタトゥーが入っているようなそんな方が多かったんですが、最近は女性のファンの方も増えてきているようでとても嬉しいです。

MC:島本さん、では今回の作品の全体的な感想から伺ってよろしいですか。

島本:実は予告編を見たときにはもっと悲劇的なちょっとドロドロした官能映画だと思っていたんですね。なので実際に拝見してこんなにスリリングで、しかもある種の解放感のある映画だというふうに思っていなかったのですごく感動しました。特に女性2人の描き方が素晴らしくて女性の強さだったりとか愛情深さだったりとか、ものすごく2人の表情から表現されているんですけど、スッキ役の女優さん新人の方なんですよね。

監督:そうですね、彼女は演劇を長くやっていて短編映画1本くらいしか出演経験のない、そういった経歴の女優さんです。

島本:実際撮影の合間にこの子変わってきたなって感じられましたか? 私は少なくとも映画を見てそういうふうに感じたんですが。

監督:最初は彼女なりに自信を持っていたんですね。新人にしてはすごく自信にあふれていてだからこそ私はこの役に抜擢したわけなんですが、実際に撮影に入ってみると数百人に近いスタッフに囲まれて、そのスタッフが全員自分を見ている中で撮影しなければいけないので、ちょっとドギマギされているところもあったんですけれども、しだいに段々自分の思うままに演じるようになってくれたんですね。だから緊張ではなくて緊張が緩んだ状態で伸び伸びと演技をする姿をどんどん見せてくれて、そうなるまでがすごく早かったですね。

島本:緊張しますよね。すごいハードな場面多いですよだって(笑)。

監督:確かに、官能的なシーンが出てくるものですからそういうシーンを撮るときにはやっぱり大変そうでしたね。そういったシーンというのは、新人でなくてもどんな女優さんでもきっと苦労するシーンだと思うんですけど、なので私は最大限できるだけ計画通りに撮影を進められるように、そして早く撮影が終えられるように努力しました。

島本:女性同士の官能シーンについてなんですけど、私その場面、素晴らしいと思ったんですね。昨日の対談でもちょっと触れたんですけど、男女だとどうしてもやっぱり力関係だったりとか上下関係だったりというものが、どんなに愛し合う2人でも出てしまうものだと思うんですけど、女性同士だとそれがなくてすごく2人が対等な関係に見えるシーンだったんですね。監督自身は撮影をされていて、男女のベッドシーンと女性同士のベッドシーンってここが決定的に違うなというふうに、実際撮られていて感じたことってありますか?

監督:まず私が最初に脚本の段階から決めていたことがあるんですが、それは映画の歴史の中でいちばんセリフが多いベッドシーンを撮ろうということでした。

島本:えぇーっ。

監督:なので、ただ喘ぎ声だけが聞こえるような、あるいは運動しているみたいに、ただ体を激しく動かすだけのベッドシーンではなくて、2人が会話を交わしながら心と感情を共有するようなそんなシーンにしたいと思ったんですね。そしてそこに自然と体がついていくというようなそんなベッドシーンを目指して作りました。ある時にはお互い行為中に感動を味わう瞬間があったり、相手がちょっと面白いことを言って笑うようなシーンがあったり、あくまでもセリフのやり取りのなかでそういうシーンを作りました。

劇中の設定は“お嬢さん”の方は貴族なわけで、もう1人はその貴族に仕える召使いというそういう身分の差があるんですが、それプラス、1人は植民地を有する側の人物で、もう1人の方は植民地化された側の被植民地の側の人物なわけですね。その格差もあります。その二重の格差をなくすためにそのシーンを見てほしいと思ったんですね。2人が対等な関係になっていく過程をそこで見せようと思いました。視覚的にも2人の体の形ですとかカメラのアングルなどを工夫しまして2人が対等になっていく過程をベッドシーンで描写したいと思いました。もしそれが男女のベッドシーンでしたら話は変わってきますし、また撮るのも難しかったと思います。

島本:難しいというと、どういうあたりがでしょうか。

監督:男女だったらこれほど親密な会話を交わしながらベッドシーンを撮るということはかなり難しかったと思うんですね。今回は本当にその最中の会話が多いですし、とっても長いんですが、男女間ですとそういった会話も私自身がなかなか想像できませんでしたね。そして体位も女性同士だから可能な体位もありました。そしてこういったベッドシーンを描くときにそこに男性が入ると、やはり射精をするという目的がありますので、射精の瞬間に向かって走っていくわけですよね。その描写が中心になると思うんですけど、そうなってくると男女のベッドシーンはその瞬間で終わったも同然なんですね。射精が終わるとそのシーン自体が終わるということになるんですが、私は今作の中ではその過程を重要視しましたので、その過程を見せたいと思いました。だから何かの目標点に到達することが目的ではなくて、あくまでもその過程を描いてその目標点に到達する前で終わるんですね。

普通ですと大勢の皆さんを前にしてこういうようなお話をするとちょっと恥ずかしかったり妙な気分になるものなんですけれども、この映画に関しては、自分の性欲に率直であることを認めている人物が出てきて、むしろ性欲に率直であることを称えるような映画になっていますのでまったく妙な気分にはなりませんね。

島本:ベッドシーンの会話もそうなんですけど、ちょっと見ていて思ったのが、日本人ってあんまり際どい場面とかシリアスな場面で笑っていいのかなってちょっと思うところがあるんですね。私自信も見ていてここ笑いたいけどもしかして笑っていい場面か、もしかしてすごいヒドイ場面なんじゃないかなって思ってですね、結構迷った場面がたくさんあるんですが、それは感情に従って素直に笑っていいんでしょうか(笑)。
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監督:まさに大事な問題を指摘してくださったんですけど、日本の方に限らずほかの国の方が見ても、え、笑っていいのかな、笑うのは自分だけなのかなと、ためらう方が結構いらっしゃったんですね。でもそれは私が意図しているところですので大いに笑っていただきたいですし、笑えば笑うほど楽しめると思います。できることなら前説ですとか、“サクラ”の人たちを客席に忍び込ませて笑いを誘導していただきたいくらいの気持ちです。

島本:分かりました(笑)。笑って大丈夫だそうです。

MC:島本さん、もう思い残すことはないですか、大丈夫ですか。

島本:すみません、最後に1つだけ伺っても大丈夫でしょうか。私、普段、恋愛小説を主に書いているですね。それでお聞きしたかったのが、監督が例えばすごく素敵だと思う女性に出会いました。その彼女が「私あまり映画に詳しくないの。何か薦めてくれいない」というふうにもし言ったとしたら監督は今まで見た映画の中で、何か1つ薦めるとしたら何を彼女にお薦めしますか。

監督:私が大好きな作品がいくつかあるんですけれども、初めて会った方にお薦めしていいのか、合うのかどうかわからないのですが、ルキノ・ヴィスコンティ監督の韓国語のタイトルだと『豹』というタイトルなんですが、、

MC:『山猫』ですかね。

監督:そうかもしれないです。それから私が今回日本に来て頻繁にお話をしています成瀬巳喜男監督の『乱れる』という作品。あと韓国のキム・ギヨン監督の『下女』です。それからイギリスの映画でこれはホラー映画なんですが、原題が『Don’t Look now』(『赤い影』)という作品もあります。最後にもう1本思い出しました、ヒッチコック監督の『めまい』もですね。

島本:あぁ、『めまい』もですか! ありがとうございます。

MC:ちなみに“秀子お嬢様”というのは成瀬巳喜男つながりですか?

監督:そうなんです。私がいちばん好きな女優さんで、日本に限らず世界の映画の歴史を全部合わせたなかでもいちばん好きな女優さんが高峰秀子さんなので、そのお名前を尊敬の気持ちを込めてお借りしました。

MC:大変面白い話が展開しておりますが、ちょっとお時間ということで、最後に島本さん、監督の順番でひと言ずつお願いします。

島本:すみません、今日は監督を質問攻めにしてしまったんですけど、本当にそれぐらい終わった後に興奮していろんな人と話を共有したくなる作品だと思うので皆さんも楽しんでください。

監督:私はまさにこの瞬間の舞台挨拶が今回の日本でのプロモーションの最後の日程となります。仕事がすべて終わったということで気持ちが軽くなってはいるんですが、でも観客の皆さんがどういうふうに見て下さるのかちょっと怖いですし、楽しみでもあります。世界のなかでもこの映画を上映するときに、やはりこの日本で上映されることがいちばん気になっていたところだったんですが、どうか皆さん広い心で温かい目で見ていただけたら嬉しいです。どうもありがとうございます。

MC:というわけでパク・チャヌク監督と島本理生さんでした。どうもありがとうございました!

2017年2月9日(木)スペースFS汐留

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ちなみに同じく来日中の『キングコング:髑髏島の巨神』の監督ジョーダン・ボート=ロバーツ(超絶にひげが長い)の姿が会場内に! チャヌク監督のファンだったというロバーツ監督はどこで聞きつけたのか、日本語も韓国語もわからないのに見たい!と来場したのだとか。


『お嬢さん』
2017年3月3日(土)公開
監督:パク・チャヌク 出演:キム・テリ キム・ミニ ハ・ジョンウ チョ・ジヌン