【全起こし】パク・チャヌク監督来日(第一夜)真木よう子「辛そうだけど“お嬢さん”役はやってみたい!」

パク・チャヌク監督が、1933年、日本統治下の朝鮮半島を舞台に撮ったミステリー『お嬢さん』のジャパンプレミアが2夜連続で行なわれ、その第1回に、監督と、本作をひと足早く見た真木よう子が登壇。これから見る観客を前にトークショーを行なった。3部構成で各パートごとに二転三転する物語や、韓国人俳優を日本人役にキャスティングした理由、また日本人役の名前の由来が明かされた。以下、イベントの模様の全文。
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MC:皆さんようこそお越し下さいました。映画『お嬢さん』は3月3日から日本公開されますけれども、本日は来日ジャパンプレミアということで、本編の上映を前にゲストの方のお話を楽しんでいただきたいと思っています。さっそく監督をお呼びしたいと思います。皆さま盛大な拍手でお迎えください。パク・チャヌク監督です。ではまずひと言ご挨拶をいただけますでしょうか。

監督:東京は暖かいと聞いていたんですけれども、来てみたらそうでもないですね。風もありますしちょっと寒いんですけれど、そんななか来てくださいまして、どうもありがとうございます。皆さんにお会いできて嬉しいです。私はこの作品を持っていろいろな国に行っていろんな宣伝活動をしてきたんですけれども、その最後の旅の場所が日本になります。この映画は日本の皆さんにとっては外国映画ではないかもしれないですね。皆さんは外国の観客という感じがまったくしません。映画の中には日本人も出てきますし、日本語もたくさん出てくるからです。

そしてこの映画は1930年代が背景になっていますので、その当時の日本はどうだったのかという問題、そして西洋と日本と韓国の関係がどうだったのかという問題をのぞくことができる映画です。私が自分なりに考えた、そして私が自分なりに解釈した日本文化をこの映画の中で表現してみました。そして韓国の俳優たちが、何カ月もかけて死ぬ気で一生懸命長い(日本語の)セリフを覚えました。でも皆さんが見たらかなり中途半端に思えるかもしれないです。いくらぎこちないところがあったとしても、外国の俳優が努力して頑張ったんだなと、どうか大目に温かい気持ちで見ていただけたらと思います。

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MC:ありがとうございます。今作は女優2人が非常に素晴らしい演技を見せている作品なんですが、本日はゲストとして、日本を代表する女優さんにお越しいただいております。早速お呼びしたいと思います。女優の真木よう子さんが応援に駆け付けて下さいました。皆さん拍手でお迎えください。
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MC:真木さんは『お嬢さん』をいち早くご覧いただいたということですが、いかがでしたか。

真木:前情報として、韓国の役者さんが日本人の役で日本の言葉をしゃべるということに対して、やっぱり私も少し危惧していた部分があるんですけど、先ほどちょっと監督のお話も聞こえたんですけど、まったく私は問題なかったです。もちろんすごく練習されてイントネーションが素晴らしいところもあったんですけど、パーフェクトではない部分もあるけれど、それを全然問題なくさせる、もう作品が圧倒的に超えているので、全然気にならなかったですね。それとやっぱり2人のというか俳優さんの力量がすごく必要になってくる映画だと思うので、すべての俳優さんたちが素晴らしいので、言葉とか関係なくて。官能的なこういう映画って例えば日本で作ったら、日本人だともっと官能的な部分をすごく掘り下げていってしまって、ちょっと女性が見るのに引いてしまうくらい掘り下げてしまうところを、パク・チャヌク監督が撮ったということで絶妙なバランスが生まれて、すごく見やすいというか女性でも抵抗なく見られる、すごく驚きと、何だろう、衝撃の連続でもう圧倒的でしたね。圧巻でした。

MC:監督、真木さんの感想をお聞きになっていかがですか。

監督:日本の方でしかも本当に素晴らしい女優さんである真木さんに、このようにおっしゃっていただけて本当に嬉しいです。世界各国で良かったですよとお褒めの言葉をいただいたこともあるんですけど、今まで聞いた中でいちばん感動的なお話でした。やっと気持ちが落ち着いた感じなんですね。日本の皆さんがどんなふうに見てくださるのかやっぱりいちばん心配だったので。

MC:真木さんに伺いたいんですが、今、役者さんの力量が素晴らしかったということでしたが、特に“お嬢さん”を演じたキム・ミニさん、それに仕える女中役のキム・テリさんは今回オーディションで選ばれたということで、2人の女優さんに関してはどのように感じられましたか。

真木:やっぱりあの2人の女優さんが素晴らしかったですね。まずはじめにやっぱり、私も女優をやっているので、オーディションで選ばれたキム・テリさんは役にぴったりで、あの純粋な澄んだ目と顔と表情もすごかったし、主演をやれた彼女ももうあの役はきっとすごく大変な役だったと思うんですけど、もう本当に大好きな女優さんになりました。すごく素晴らしい演技でした。

MC:監督に伺いたいのですが、キム・テリさんはオーディションで選ばれているわけですが、女優さんをキャスティングする際に特にポイントにしている点はどんなところでしょうか。

監督:もちろんどんな映画なのか、どんな役なのかを考えて、それに合う女優さんをキャスティングするというのは、どの監督も目標だと思います。そうは言っても個人の好みというのは、キャスティングするときにどうしても入ってくると思うんですね。私は、頭のいい女性、賢明な女性がとても魅力的だと思います。とてもしっかりとしていて自分の主張をはっきり持っていて、そして自分の意見をはっきりとためらわずに表現できる女性というのが、とてもセクシーだと思います。

MC:ということは、真木さんそんな監督のイメージ通りということですよね。

真木:違うって絶対言えじゃないですか(笑)。

監督:本当に私の好みにぴったり合ったそんなタイプの女優さんだと思います。私はただ従順で静かで大人しい女性というのはあまり好きではないんですね。

真木:じゃあもう、ぴったりです(笑)。

MC:真木さんが先ほどおっしゃっていた官能描写とかそういった部分ですけれども、これ日本ではR18、韓国でも成人指定されている作品なんですよね。でも女性でも見られる、むしろ女性の方が楽しめる作品かなと思うんですけど。

真木:そうですね。

MC:それはやっぱり女性の細やかな感情が描かれているからですかね。

真木:やっぱり第2部で女性の友情というか女性同士の絆というのが描かれている、やっぱりあそこがいちばんすごく女性として、何て言うんだろう、女性が強くありたい世界ってなんか、、ハリウッドとかって結構、強い女性とかたくさんいるけど、日本とかってまだ静かで少し後ろ歩いてみたいなのがまだちょっとあって、もっとアジアの女性も自分の意見を主張していいと思うし、自分の意見を持って強くいられる女性がたくさん出てきたらいいってそういうふうになってきたらいいって思えるんで、ああいう女性同士の絆っていうのは見ていて嬉しいというか感動しましたね。

MC:今回の主要な女性キャラクター2人に関して、監督がこのように描きたかったなど思いはありましたか。

監督:キム・ミニさんが演じている秀子という人物は、まず貴族なんですね。そして離れ小島で1人で生きてきたかのように非常に寂しい人生を歩んできて周りの人たちは彼女に仕えているわけですね。なので非常に豊かではあるんですけれど、それと同時にとても孤独で、年齢はある程度いっているんですが世間知らずなところがあるか弱い女性として最初は登場するんですが、実はずーっとそのままではないんですね。やがてちょっとしたどんでん返しがあります。そしてキム・テリさんが演じたスッキというキャラクターは、召使いではあるんですけど、もう本当に街の中で育ったので、そこで培われた知恵を持っています。とても荒削りでワイルドなところがあって、そして犯罪集団にいた経歴もあるので年齢は若いんですけれども、世の中をたくさん知っているという自分なりの自信を持っていて、自信満々な野性美にあふれた女性です。

MC:せっかくのこういった場なので、真木さんもし監督にお聞きになりたいことがあれば質問していただければと思いますが。

真木:そうですね。ちょっと聞きたかったのは、日本人を起用しようと思わなかったのはどうしてですか?
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監督:このあと皆さんには映画をご覧いただいてそうすればお分かりかと思うんですが、主要人物たちは日本語と韓国語を両方駆使しなければいけないんですね。その両方の言語を自由自在に操って、あるときには1つの文章の中に両方の言葉が入っているという、またそれも1つのセリフの重要な楽しみになってくるんですけど、そうなってくると両方の言語が必要なんですね。逆に日本の方をキャスティングした場合には日本の俳優さんに韓国語を勉強していただくことになるので、どちらにしたらいいのかなかなか一概には言えないんですけれども、全体を通してみると韓国語の方の分量が多いので今回はこのような決定になりました。

MC:真木さんはご覧になって自分もこういう作品に出てみたいとかって思われるものですか。

真木:思いますね、やっぱり。主人公の役はやってみたいですね。だいぶ辛いでしょうけど。役者としてはとてもやりがいのある役だと思います。

監督:私は韓国だけで映画を撮るというふうには考えていませんし、必ずしもいつも韓国の俳優さんたちとお仕事をするということに限ってはいないので、いつでもいいストーリーがあれば、そしていいキャラクターがあれば、日本で映画を撮ることもあり得ると思いますし、日本の俳優さんをキャスティングするということもあり得ると思います。アジアの映画人は共有できるものがたくさんありますので、できるだけ映画を一緒に撮れるような機会を作ろうと思っていてそのために努力をすることが必要だと思います。

MC:パク監督は、真木さんが出演されている是枝裕和監督の『そして父になる』をご覧になったとお聞きしましたけど、そのときの真木さんの印象はいかがでしたでしょうか。

監督:強靭さと優しさを兼ね備えていてその両方を表現できる女優さんだと思いました。深みのある美しさと生活感もにじみ出すことが出来る、その両方をうまく見事に見せてくれる女優さんだと思います。普通その相反するものを両立させるというのは難しいんですけれど、それが本当に見事に演じられる素晴らしい女優さんだと思いました。

真木:カムサハムニダ

MC:こうやって韓国語もお話しできるので、近いうちに期待しております。まだまだお話を伺いたかったんですがお時間になってしまいました。最後にお二方からひと言ずついただきたいと思います。まず真木さんからお願いします。

真木:割と2時間半って長いと私は思ったんですけど、見始めるとあっと言う間です。ムダなシーンは1つもないんで、私はお手洗いも行かずに2時間半、最後まであっと言う間に見てしまいました。それぐらい騙し合いとか。誰が誰を愛しているのかとか謎が謎を呼んで、すごく楽しめると思います。本当に何回も言うようですけど、日本語のところは日本人が聞いても、私だけなのかな? たぶん映画を見る目がある人は、絶対に問題がないと思うと思います。はいっ。
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MC:ありがとうございます。続きましてパク監督お願いします。

監督:私が世界の映画の中でいちばん好きな女性のキャラクターが、成瀬巳喜男監督の映画に出演されている高峰秀子さんなんですね。そういうことがありまして、今回の劇中のヒロインの名前が秀子なんです。その映画の中で高峰秀子さんが見せてくれた、常に時代の先を行く女性の姿、そして主体性があって自立している女性像、それから常に気品を持って非常に優雅な女性像、そういったものを念頭に置きながら今回の映画を撮りました。ですので日本でこの映画を上映していただけるのは、私にとってとても大きな意味のあることです。女性の観客の皆さんには、この映画を見て自分の楽しみを求めること、そして自分の快楽を追い求めることをためらわずにためらわずに心から楽しんでもらえればばと思います。そして男性の観客の皆さんは、女性に対してもっと優しくしなければいけない、尽くさなければいけないと思っていただければ嬉しいです。ありがとうございます。

MC:パク・チャヌク監督、真木よう子さんでした。ありがとうございました。

2017年2月8日 アキバシアター

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『お嬢さん』
2017年3月3日(土)公開
監督:パク・チャヌク 出演:キム・テリ キム・ミニ ハ・ジョンウ チョ・ジヌン