【全文掲載】田中圭「母が亡くなって、初めて誰かを想いながら花を作った」今泉監督が書いた脚本との不思議な巡り合わせ

MC:(笑)。今泉監督、今回オリジナルストーリーということですが、どういった着想からこの作品が生まれたのか伺ってもよろしいでしょうか?

今泉:もともとは『パンとバスと2度目のハツコイ』という、志田さんが出ていた映画と同じチーム、製作会社からまた話をいただいて、もう自由だったんですよ。「こういうテーマで」とかもなく「オリジナルでまたご一緒しましょう」と言われて。最初全く書けなくて、何かとっかかりがあったほうが書きやすいみたいな、なかなか書けなかったんですけど、花を監修してくださった香内さんという方が、実際にそういうお店を、劇中のモデルになっているような、値札とかがないようなおしゃれな、特殊な花を置いているような花屋をやっていて、デパートでショーウインドウをやったり、土日は結婚式のブライダルの花をやったりという方で、そういうモデルが頭にありました。おしゃれな花屋というのと、もう一方で屋台のラーメン屋さんとかでラーメンを食べた時に聞いた話から、老舗のラーメン屋の、そっちは逆に女性をおいて、その二つを考えて、その周りに集ういろんな人たちの恋愛模様を書いていったという。でも、着想のスタートはどこかとか、いつどう思いついたというのは、いろんな場所のいろんな情報からで具体的には覚えてないですけど、ただ、書くのはめちゃくちゃ苦労して。人生で初めてプロデューサーに、「今日までに書いてください」という締切を2、3回飛ばしたんですよ。そしたら「ホテル取りますか?」って言われて、このご時世にホテルに缶詰めにされたという経験をして(笑)。ただ、ホテルに缶詰めにされてもネットも繋がるしテレビもあるのであまり意味がなくて、結局近所の喫茶店でずっと作業をして、その期間で書き上げたというのが裏話です。

MC:そんななかで出来上がった脚本を読まれて、田中さんはどう思われました?

田中:すごく面白かったんですよ、初めて読んだ時。なんでこの話を映画にしようと思ったんだ?という発想というか、僕ら全員が経験したことがあるような話なんだけど、みんなが見過ごすような、ちっちゃい気持ちだったりをすごくすごく大事に、言葉は悪いかもしれないけど、寄せ集めているというか…。だから、今泉監督ってどういう人なんだろうなぁとか、そういう興味になって、実際お会いしたらこんな人でしたっていう感じがあって。今回、本(脚本)にある気持ちが丁寧だし、なるべく僕は現場では監督の言うことを忠実にやろうとやってた思い出があるんですけど…。

MC:そうでしたか?監督。

今泉:ほぼほぼ忠実に…忠実にというか、逆に俺が、いろんな監督がいると思うんですけど、頭の中にあることをそのままやってもらうという側じゃなくて、やっぱり役者さんのアイデアを取り込みたいので、事細かに指示をして「ここはこうしてください」「ここはこういう気持ちで、こういう場面なので」というよりは、一回やってもらったりして、それでやっぱり思っている以上に田中さんが広めてくれてたり、他のキャストが「あぁ、そういう芝居になるんだ」みたいな、その外側が作られていくと、映画って大勢で作っているので豊かになっていくと思っていて。俺のほうが田中さん演じる夏目をいい人、真っ当にしようとしていたところを、田中さんがイライラしたシーンのところはちょっとイラついた感じを引きずってくれてやっていたりとか、俺のほうが勝手に理想化してたなというシーンがあったり、そういう部分はどんどん人間っぽくなっていったりということはありました。

MC:田中さん、今回はおしゃれなお花屋の店主という役どころでした。これから皆さんがご覧になってきゅんとなるかもしれませんが、お花を扱っているシーンが多く、お花のラッピングをされるシーンもあるんですね。どうでしたか?今までそういうことをやった経験はありましたか?

田中:お花のラッピングはしたことなかったです。なかったんですけど、今回、お花屋さんじゃない?これ(バックボード)を作っていただいた香内さんにいろいろ、直前とかに教えてもらったりするんですけど、花をハサミで切るじゃないですか。あれ一つでも難しいんです!香内さん、簡単に「こうやって、こうやって、こうやって…」ってやるからあれなんですけど、本当にあれ一つ難しくて!あと、花束も本当に作る人のセンスだし、完全に(花を)取る順番も香内さんに全部指示をもらって、その通り、その通りに、なるべく「俺はおしゃれな花屋さんだ」と思ってやってんたんですけど(笑)。最後のあの、最後って言っちゃった…。

今泉:大丈夫、大丈夫(笑)。

田中:ラッピングのとこも、あんな使われ方するって全く知らないでやっていたので、完成した映画を観た時、びっくりしましたよ!すっごい恥ずかしかったですよ!

今泉:観たらわかるシーンだと思うんですけど、脚本にあることよりも膨らんでいて、撮れた素材でよりよくしたり、みたいなことはあったのかもしれないですね。恥ずかしかったんですか?

田中:監督が長回しをされるんですよね。長く回してて、なかなかカットかからないなぁと思いながらも、どこかいいところを使うだろうなとそれは思うじゃないですか。だってそんなに長いシーンじゃないから。そしたら、そしたらですよ!これは本当の本当の最後なので、観た時「あ、恥ずかし!」って(笑)。

MC:ぜひ皆さん、楽しみにしていてください。田中さんはお花を贈られたりとかはありますか?

田中:贈られる?僕が?贈る?

MC:誰かにお花をとか、そういうお花との関わりはありますか?

田中:家に飾るお花ぐらいですかねぇ…。母の仏壇にとか、それぐらいですね。あまり花をあげる機会はないんですけど。

今泉:さっきちょっと言ってたよね。つい先ほど初めて聞いたんですけど、撮影の時も聞いてなかったし、このお話が田中さんにいって台本を読んだ時に、ちょうどその前の年にお母さまが亡くなられたと。

田中:ちょうどその時、去年です。

今泉:その話をさっきして。

田中:今までお花に、あまり興味がないって言ったら変なんですけど、撮影が(クランク)アップする度にお花をいただくじゃないですか。どうしようかなぁと思って、欲しい人にあげあたりとか、行きつけのお店に「はい」ってあげたり、あとは事務所に渡してたりしてたんですけど、母が亡くなってから、今度は母にお花を、何て言うんですか?生けるではなくて添える?何て言うんですか?ちょっと言葉がわからないですけど、母にお花を置く時に、初めて花束をお花屋さんに行って自分で一本一本選んだりとか、誰かを想いながら花を作るという体験をして、今までもらっていたお花も、僕のアップとか、それぞれの人のアップにきっとプロデューサーたちが一生懸命考えていたんだろうなと思うと、ちょっとごめんなさいと思いつつ…でも、お花と向き合ったり、お花に興味を持ち始めてすぐだったので、「お…」という感覚はありました。

MC:お花に関する特別な繋がりがあったのかもしれませんね。

田中:あったのか…な?じゃあ、そういうことにします…!

MC:続いて岡崎さん、今回はラーメン屋さんの女店主ということで大変だったと思うんですけれども、意識したところ、監督にアドバイスをもらったり、撮影の現場のことを伺いたのですが、どうでしたか?

岡崎:ラーメン屋さんの店主というのは初めてだったので、着る衣装も新鮮でしたし、まず思ったことは、見た目よりも全然難しくて。ラーメンの麺を茹でるところとか、それをざるに入れるところとか、簡単そうに見えて本当に難しくて、ざるも持ってみると意外と重いとか、工程とかもいろいろあって覚えることもありましたし、それをラーメン屋さんの店主の方に教えていただいたんですけど、やっぱりやってみると全然違うというか、学ぶことも多かったですね。(今泉監督を見つめながら)あとは監督に……。

今泉:何も別にしてないみたいになってますけど(笑)。

岡崎:あはは!(笑)。でも、日常感というのをすごく大事にしてということをおっしゃっていただいたので、それは一番気をつけていて。台詞を一つ言うのにも日常感というか、普通にいつも通り喋る感じでということを言われて、喋る時に「えーっと」とか「うーんと」とか、言葉の前にそういう言葉があったりするのも普通に入れていいということだったので、そういうのは気をつけてやらないと意外とできなかったりするので、そういうことは気をつけました。