年末年始にスリル体験!謎と恐怖がたっぷり味わえるNetflix傑作スリリング映画4選!

ご存じの通り、多彩なジャンルのオリジナル作品を矢継ぎ早にリリースしているNetflixは、ミステリー、スリラー、ホラーといったジャンル映画も多数揃えている。しかし、その圧倒的な“量”の中から、どれが面白いのか“質”を見極めるのは至難の業だ。くしくも今年の秋以降に配信が開始された新作&準新作には、これらのジャンルにおいて必見レベルの快作、異色作、衝撃作がずらり。年末年始にハラハラ&ドキドキの映画体験をご所望のジャンル映画ファンに、そこから厳選した4作品を紹介したい。(文/高橋諭治)

■『悪魔はいつもそこに』

まずアメリカ映画『悪魔はいつもそこに』は、ドナルド・レイ・ポロックの小説「The Devil All the Time」を原作とするクライム群像劇。第二次世界大戦後、オハイオ州の田舎町を舞台に、戦場で心に傷を負った帰還兵とその息子、シリアルキラーの夫婦、邪悪な牧師、保安官らの人生が、思いがけない形で交錯していく様を映し出す。

題名から想像されるようなオカルト映画ではない。この世に渦巻く理不尽な欲望と暴力の連鎖に囚われ、破滅への道を転がり落ちていく人間の狂気や愚かさを、超然とした神のごとき俯瞰した視点であぶり出したダークな人間ドラマである。複数の時制と場所を行き来しながら、複雑なパズルのごときプロットのピースを埋め、十字架で始まり十字架で終わる円環構造に仕立てた脚本は重層的なミステリー劇のよう。アントニオ・カンポス監督の冷徹な語り口も見事で、とことん血生臭い内容であるにもかかわらず、最後には厳かな余韻が残される。マーベル・シネマティック・ユニバースのスパイダーマン/ピーター・パーカー役でおなじみのトム・ホランド、『IT/イット~』のペニーワイズ役で脚光を浴びたビル・スカルスガルド、『TENET テネット』ロバート・パティンソンほか、豪華キャストが演じる登場人物たちが次々と呆気なく死亡していく展開にも驚嘆せずにいられない。

『悪魔はいつもそこに』 Netflixにて独占配信中
監督:アントニオ・カンポス 出演:トム・ホランド ビル・スカルスガルド ライリー・キーオ ロバート・パティンソン ミア・ワシコウスカ

■『獣の棲む家』

新人のレミ・ウィークス監督が撮り上げたイギリス映画『獣の棲む家』は、物語の設定からして興味をそそられるホラー映画だ。主人公のボルとリアールは、紛争の国スーダンからイギリスへ命からがら逃げ延びてきた若い夫婦。亡命申請が受け入れられるまでの間、彼らは当局から与えられた古めかしい住居で暮らすことになるが、そこで不可解な現象に見舞われて……。

新型コロナウイルスのパンデミック以前、ヨーロッパにおける最大の政治的かつ人道的な課題は“難民”だった。いわば本作は、これまでも多くの映画で扱われてきたこの深刻なテーマをフィーチャーした“難民ホラー”。当局の指示に従い、異国の土地柄や習慣になじんで新たな人生を踏み出そうと努めるアフリカ人夫婦が、荒廃した住居に潜む何者かの気配に怯え、ついにはおぞましい魔物と対峙していく姿を描く。変種の幽霊屋敷映画としてもムード満点の一作だが、過酷な旅のさなかに愛する我が子を亡くした夫婦のトラウマ、母国で陰惨な内戦を経験した記憶が明らかになっていくストーリー展開は、現実と悪夢、恐怖と悲しみが渾然一体となり、単なるコケオドシのホラーとは一線を画す出来ばえだ。


『獣の棲む家』 Netflixにて独占配信中
監督:レミ・ウィークス 出演:ショペ・ディリス ウンミ・モサク マット・スミス マラーイカー・ワコリ=アビガバ

■『ザ・コール』

ミステリー&スリラーの量産国である韓国で本来は劇場公開される予定だった『ザ・コール』は、新型コロナ禍の影響でNetflixでのリリースとなった1本。久しぶりに田舎の実家に舞い戻った若い女性ソヨンが、電車に置き忘れた携帯電話の代替として物置にあった古い電話を設置する。すると電話がかかってきて、切羽詰まった若い女性の声が聞こえてくる。その女性、ヨンソクはソヨンがかつてこの家に引っ越してくる前の住人で、母親から虐待を受けていることが判明。かくして20年の時を超え、電話によってつながったソヨンとヨンソクは交流を深め、ヨンソクが“過去を変えた”おかげで死亡したソヨンの父親が現在に甦る。ところがヨンソクが自らの“未来を変える”ために暴走を始めたことで、ソヨンは命を脅かされていく……。

実はこれ、2011年のイギリス映画『恐怖ノ黒電話』のリメイクなのだが、舞台設定やキャラクターを大幅に変更、新たなエピソードも盛りつけて、ほとんど別物と言っていい仕上がり。上に記したストーリーはほんの“さわり”に過ぎず、現在と過去を生きるふたりのヒロインの境遇が相次ぐタイムパラドックスの嵐によって激変し、二転三転どころではない怒濤の運命をたどっていく様が描かれる。Netflixオリジナルのタイムパラドックス映画には、スペインの鬼才オリオル・パウロが放った『嵐の中で』という良作があるが、韓国映画ならではの濃厚な“情”と“猟奇”の要素がほとばしり、なおかつトリッキーで洗練されてもいる本作の完成度の高さは圧巻。30歳の新人監督イ・チュンヒョンの卓越した演出力、『#生きている』のパク・シネと『バーニング 劇場版』のチョン・ジョンソという美しき女優たちの白熱対決からも目が離せない。


『ザ・コール』 Netflixにて独占配信中
監督:イ・チュンヒョン 出演:パク・シネ チョン・ジョンソ キム・ソンリョン イエル パク・ホサン オ・ジョンセ イ・ドンフィ

■『もう終わりにしよう。』
最後に紹介する『もう終わりにしよう。』は、『マルコヴィッチの穴』『エターナル・サンシャイン』の脚本家として名を馳せたチャーリー・カウフマンの最新作。2008年の監督デビュー作『脳内ニューヨーク』、2015年の日本未公開アニメ『アノマリサ』(デューク・ジョンソンとの共同監督)に続く3本目の監督作で、イアン・リードの同名小説に基づく初の原作ものとなる。なぜか劇中、複数の名前で呼ばれる主人公の“若い女性”は、恋人ジェイクとの関係を清算しようと考えているが、そのことを切り出せず、ジェイクの実家を訪ねることになる。ところが吹雪のドライブの果てにたどり着いたジェイクの実家では、彼の両親や飼い犬が奇妙な振る舞いを連発し、ついには屋敷内の時間軸がねじれ出す……。

倦怠期に差しかかったカップルの車内での会話を軸に進行するこの映画の上っ面だけを漠然と眺めていると、その先には唖然とするような展開が待ち受けている。孤独と不安に苛まれる登場人物に自己を投影し、人間という生き物の内面世界を探求するカウフマンの作家性が全開の本作には、奇想天外な叙述トリックが仕組まれており、それを読み解くヒントや謎めいた伏線があちこちにちりばめられている。これは不条理ミステリーか、はたまたダーク・ファンタジーか。一度の鑑賞ですべてを理解するのは容易でないが、『もう終わりにしよう。』という意味深なタイトルの真実を指し示すラストショットを目の当たりにした人は、はかなく物哀しい人生の深淵を覗き込むことになるだろう。


『もう終わりにしよう。』 Netflixにて独占配信中
監督:チャーリー・カウフマン 出演:ジェシー・バックリー ジェシー・プレモンス トニ・コレット デヴィッド・シューリス ガイ・ボイド