フェミニズム ZINE「NEW ERA Ladies」の制作者が語る “オシャレ”と“エンパワーメント”『ガザの美容室』公開初日トークイベント レポート

第68回カンヌ国際映画祭批評家週間に出品された、双子のパレスチナ人監督タルザン&アラブ・ナサールによる初の長編映画『ガザの美容室』が、6月23日より公開中。その公開初日に、アップリンク渋谷にて本作のトークイベントが行われ、フェミニズム ZINE「NEW ERA Ladies」を制作している宮越里子とsuper-KIKI姉妹が登壇した。

本作はパレスチナ自治区ガザの小さな美容室を舞台に、戦争状態という日常をたくましく生きる13人の女性たちを描いた作品。身の回りの社会への違和感、疑問、怒りを“デザイン”“ファッション”“ZINE”という形で可視化し表現する宮越里子とsuper-KIKIは、まず最初に「この映画で描かれている、かねてよりフェミニズムの思想が批判してきた男尊女卑社会のおかしさと、エンパワーされるオシャレについて、自分が共感した部分と、共感するからといって、“全く同じ”では済まされないパレスチナ ガザ地区の状況について話したい」と説明した。

本作の女性たちの描き方について、super-KIKI は「オシャレをすることは、彼女たちにとって平常心を保ったり、エンパワーされるもの。このことは私たちも同じ」と述べた。それに対して宮越は「彼女たちが美容室で繰り広げる、夫やパートナーへの愚痴大会にも共感した。あの場に私たちがいたら絶対盛り上がっている(笑)」と応え、「モラハラだめんず、DV男、妻がいないと何もできない夫など、家父長制に染まる典型的なタイプの男性によって、彼女たちは悩まされている。実際、日本でも同じような状況な人がまだまだいる」と言及した。

印象的だったシーンについて、super-KIKIは「夫の浮気で離婚調停中のエフィティカールが、口紅を塗って自分の顔をじっと見つめた後に、若い花嫁に年齢を訊く。奔放で自信家な彼女が、実はエイジズムの呪いにかかっていて、すごく切ないシーン。“年齢はただの数字です”って言いたいけど、年齢を気にしてしまう彼女の気持ちもわかる」と述べ、宮越も「エフィティカールが、銃撃戦が激しくなったとき、タバコを吸いながら震える手でマニキュアを塗るシーンも本当に切ない。あと、彼女が取っ組み合いの喧嘩をした相手のサフィアが涙目で口紅を塗り正気を保とうとするシーンも、本当に大好き。やっぱり赤リップは元気出る!」と熱く語った。

また、super-KIKIは「花嫁サルマは、美容室の外で突如始まった銃撃戦のせいで、メイクアップも途中で、結婚式に間に合わない。ここにガザの絶望が詰まっている」と述べ、宮越は「私たちと決定的に違うのは、美容室の外では銃撃戦が起こっているということ。共感できることもあるが、“全く同じ”とは言いきれない状況がここにある」と言及した。

トーク終盤、super-KIKIは「日本でも、戦前のオシャレなモダンガールと、戦時中のモンペ姿の女性の写真を見て、そのギャップにショックを受けた。表現を奪われることは、命を奪われることと同じ。生きるために、オシャレを死守するべき」と主張。そして、宮越は「フェミニズムに国境はない。フェミニストにとって、パレスチナのような第三世界(注)の女性たちの状況に目を向け、発信することは、彼女たちを救うと同時に、家父長制の解体を目指すフェミニストにとって普遍的な平等に繋がる」と語り、最後に「私たちにとってZINEはプロテストアイテム。男尊女卑社会に抵抗できる表現だし、女性の活躍の場を広げるものだと思っている。この映画も、彼女たちの日常を通して戦争の悲惨さを伝える、映画自体がパレスチナ ガザ地区の現状を伝えるプロテスト大衆芸術になっている」と締めくくった。

(注)トーク中では、第一世界が資本主義国、第二世界が社会主義国であるとしたうえで、第三世界が新植民地や経済途上国として用いられている。

『ガザの美容室』
6月23日(土)より、アップリンク渋谷、新宿シネマカリテほか全国順次公開中
監督・脚本:タルザン&アラブ・ナサール

出演:ヒアム・アッバス マイサ・アブドゥ・エルハディ マナル・アワド ダイナ・シバー ミルナ・サカラ ヴィクトリア・バリツカ
配給:アップリンク

【ストーリー】 パレスチナ自治区、ガザ。クリスティンが経営する美容院は、女性客でにぎわっている。離婚調停中の主婦、ヒジャブを被った信心深い女性、結婚を控えた若い娘、出産間近の妊婦。皆それぞれ四方山話に興じ、午後の時間を過ごしていた。しかし通りの向こうで銃が発砲され、美容室は戦火の中に取り残される―。極限状態の中、女性たちは平静を装うも、マニキュアを塗る手が震え、小さな美容室の中で諍いが始まる。すると1人の女性が言う。「私たちが争ったら、外の男たちと同じじゃない」。いつでも戦争をするのは男たちで、オシャレをする、メイクをする、たわいないおしゃべりを、たわいない毎日を送る。それこそが、彼女たちの抵抗なのだ。