倉本美津留 × 小林賢太郎 トークショー レポート『ザ・スクエア 思いやりの聖域』

第70回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールに輝き、本年度アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』が4月28日より公開中。本作のヒットを記念し、5月9日、Bunkamuraル・シネマにてトークショーが行われ、放送作家の倉本美津留と、劇作家&パフォーマーの小林賢太郎が登壇した。

「ダウンタウンのごっつええ感じ」を始め数々の伝説的なバラエティ番組を手がけてきた放送作家の倉本美津留と、コントや演劇の活動で知られる劇作家・パフォーマーの小林賢太郎。日本のお笑い文化を牽引してきた二人の史上初となる対談が、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』大ヒット記念トークショーとして実現した。貴重なトークを聞くべく集まった観客で満席となった場内は、二人が登場すると大きな拍手で包まれた。第一声に、「小林さんはこういう場に登場するのは初めてだそうです。映画のトークショーが初とは知らなかったので、とても光栄です」と小林とトークができる喜びを伝えた倉本。小林は、「色んな意見が出てくる映画だと思います。僕は昔美術の学校に通っていましたし、ちょっと意地悪なところのある映画でもあったので、これは僕に声がかかるわけだと思いました」と推測しつつ、「ポジティブな意見もあれば、難しいなと感じた方もいらっしゃるでしょう。もしかしたら僕は、この映画の楽しみ方を皆さんに通訳できるかもしれないと思っています。そういう話をしていきたいです」と語った。すると、倉本が「DVDが出る時は僕らでコメンタリーをやればいいね」と提案し、「“ちょっと、あのシーンをリプレイできますか”とか言いたいですね」と小林が返し、トークは幕を開けた。

まず、トークは本作のテーマの1つであるアートを切り口に始まった。倉本が「僕は大阪人だから、ボケとツッコミっていう感覚で物事を見てしまう。アートって何がすごいのかが分かりにくいもので、僕はそれをボケととらえて、どうツッコミを入れたら楽しめるのかなと思って見るクセがあるんです」と話すと、「現代美術はツッコミ不足によって楽しみ損ねている人が多いですね」と小林も同意。続いて倉本が「砂の山がいくつも並んだだけのアートが劇中に出てくるけど、その展示場所に掃除のおじさんが入ってきて、“あー、まずいことやっちゃうんだろうなぁ”と思っていると、本当にやっちゃって」と笑うと、小林も頷きつつ、「しかも、まずいことをしてしまう前でカットを割るところがこの監督の特徴ですね。全然“見せてくれない”わけです。会話の場面でも、1人を映したショットのまま進んで、相手は映さず、返事が声だけで情報として入ってきたり」と監督の撮影方法も分析。「映像作家だねぇ」と倉本を唸らせた。さらに小林は「そうやって情報を制限することで、僕らは否が応にも想像させられるじゃないですか。そこに自らを参加させざるを得なくなる。僕はこういうのを、脳みそを借りると書いて“借脳”って呼んでいるんですが、まさに“借脳”状態になる。頭をバンバン働かされるじゃないですか。可笑しくて仕方ないというポジティブな気持ちと、もう見ていられないという気持ち、両方ともがっつりと掴まれてしまう。気持ちのいい気持ち悪さ、とでも言いましょうか」と本作の映像表現を語った。

そうして、トークのテーマは二人の専門領域でもある“笑い”へ。「この映画の笑いは、ブラックユーモアとは少し違うと思いました。メインの笑いの種類はむしろ、“いるいる”“あるある”的ないたたまれなさかなと。“こういう空気あるわ~”っていう」と小林は考察。「だから、僕がもしもこの映画にコピーをつけるとしたら、 “ある程度社会的地位のあるメンタルの弱い人は見ていられない映画”」と提案し、倉本が「“覚悟して来るのか、そうじゃないなら観るな!”ってね」と付け加えると、会場は爆笑に包まれた。すると小林が倉本に「コピーをつけてください」と振り、倉本は悩みつつ「“頑張って生きな、エラい目にあうで”かな(笑)」と答えた。また、小林は本作のタイトルについても「タイトルを最初に聞いた時は、町に大きな“スクエア”が現れて、その中に入ると瞬間的にテレポーテーションしちゃう……みたいな映画を想像したんですよ。だから、僕だったらタイトルは“ザ・社会人”とか、“ザ・じゃあ、どうすりゃいいんだ”とかにしますね」と次々と斬新な案を出した。

続いて倉本は「印象に残るシーンが皆バラバラだと思うんです。そんなとこあった!?っていうのもあったりね。僕は、救いようのない感じが面白かったです」と延べ、「何かを始めても、いつのまにか目的なんて誰も分からなくなっている、っていうのがリアルで面白い。とにかく面白ければ良いんだっていう。この映画の主人公は、そういうことを良しとしながら生きてきて、何となくここまで来てしまったんでしょうね。自分と重なるところがあると思いました(笑)」と自らにも照らし合わせつつ、本作に感じた“あるある”を明かした。小林は、本作の“あるある”“いるいる”の例として、キュレーターである主人公・クリスティアンを転落へと導く炎上動画を後に生み出すこととなる、美術館の会議の場面について言及した。「あの企画会議のシーンなんて、全員が“いるいる”じゃないですか。目の前にパソコンを置いて色々と意見する女性は、実は前例の話ばかりしていて、そこに自分の考えが全くない。一方で、いかにも広告代理店の人間っぽいお二人がいるじゃないですか。髪が長いのと短い、ラーメンズみたいなお二人が(笑)。彼らが“こうしたら社会に訴えられます”とか言っている。それで、赤ん坊を抱いているおじさんがいるでしょう。彼は、まさに“漠然とした成功のイメージ”。そういう人がドーンっていて、全部、あ~、いるいる、なんですよ」とその絶妙な“あるある”に唸った。

また、本作の舞台がスウェーデンであることについて、倉本が「スウェーデンというか、北欧のノリっていうのはああいう感じなんですかね。静かでありながら、強烈なことを挟んでいくスタイルというか。僕はモンティ・パイソンが大好きで、辛らつなことをどれだけ笑いに変えられるかというのは自分のスピリットでもある。だから、この映画を観て、彼らのスピリットがヨーロッパ圏で引き継がれている気がしました」と語りつつ、「映画の中に笑い声を定期的にかぶせていくと、いっそう笑えそうですね」とサジェスト。小林も「笑い声とか、“あぁ~”(※納得して頷くようなトーン)とかね!」とその案を発展させた。

テンポ良くトークは進み、すぐに終了予定時間に。小林は「やっと慣れてきたのに!」と惜しみつつ、「何だか、文壇バーみたいで良いですね」とトークを大変楽しんだ様子を見せた。最後に二人は、本作を人に薦めるとしたらどう伝えるかという質問に回答。倉本は「めちゃくちゃ細かいところまで面白みが詰まっているから、10回くらい観られますよね。10回目に観て気づくこともあると思う。だから『10回楽しめる映画の1回目を、どうぞ観に来てください』かな」と呼びかけ、小林は「僕も全く同じ事を考えていました……。嘘です(笑)。この映画は、こういう言葉で薦めてください、ということは決めにくいですね。皆さんがこの映画につけたいと思うコピーはバラバラだと思いますし、すごく珍しいタイプの映画なので、誰かに薦める時にはストレートな感想を伝えてみてはいかがでしょうか。何かを受け取らざるを得ない、興味を持たざるを得ない作品になっています。これは、監督の力だと思いますね」と語り、トークを締めくくった。

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
4月28日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ他全国順次公開中
監督・脚本:リューベン・オストルンド
出演:クレス・バング エリザベス・モス ドミニク・ウェスト テリー・ノタリー
配給:トランスフォーマー

【ストーリー】 クリスティアンは現代美術館のキュレーター。洗練されたファッションに身を包み、バツイチだが2人の愛すべき娘を持ち、そのキャリアは順風満帆のように見えた。彼は次の展覧会で「ザ・スクエア」という地面に正方形を描いた作品を展示とすると発表する。その中では「すべての人が公平に扱われる」という「思いやりの聖域」をテーマにした参加型アートで、現代社会に蔓延るエゴイズムや貧富の格差に一石を投じる狙いがあった。だが、ある日、携帯と財布を盗まれたことに対して彼がとった行動は、同僚や友人、果ては子供たちをも裏切るものだった―。

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