第70回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールに輝いた、スウェーデンの鬼才リューベン・オストルンド監督の映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』が4月28日より公開となる。それに先立ち、4月12日に東京・汐留にてトークイベントが行われ、スウェーデン出身で日本に帰化した、イケメンすぎる庭師として話題の村雨辰剛(むらさめたつまさ)が登壇した。
現代アート美術館のキュレーターが、盗まれた財布とスマートフォンを見つけるために“ある行動”を取ったことで予想外の事態に巻き込まれていく様を描く本作。満席のトークイベントの場内にゲストの村雨が現れると、客席からは大きな拍手が沸き起こった。村雨は、スウェーデンに生まれ、日本に帰化して庭師になるという変わった経歴を持つ。「こんばんは。お招きいただきありがとうございます」と挨拶し、「久しぶりにスウェーデンの映画を観ました。すごくインパクトがありましたね。スウェーデンは、福祉社会といったような視点でメディアに取り上げられることが多いから、そういう印象があると思います。ただ、理想的な社会であっても、それを実現しようとした時に、それに伴って起きる問題や解決しないといけない問題がある。それを面白く取り上げてくれている作品だと思いました」と感想を述べ、最後まで日本語でトークを続けた。
本作では、思いやりの心を持つことがテーマの1つになっている。スウェーデンからやって来た村雨は、どんな時に日本で思いやりを感じるかと聞かれると、「たくさんありますが…」と前置きし、「庭師は絶対に、10時と3時にお客さんからお茶を出していただけるんです。“無理しないで、休んでね”と言ってくれて。毎日、思いやりを感じますね」と、庭師ならではの経験を嬉しそうに語った。さらに、スウェーデン社会の思いやりについては、「スウェーデンでは、仕事に子供を連れてくるということが当たり前のこととして許されている社会。特に誰も何も思わないし、暖かく見守りますね」と、子育てをする親を自然に支える社会の在り方を語った。劇中にも、美術館での会議に男性スタッフが子供を連れて参加している場面があり、本作は良い面も、そうでない面も含め、スウェーデンという国のありのままの等身大の姿を映している。
ここで気になるのは、村雨はどういう経緯で日本に来て、帰化をされたのかということ。「小さい時から、違う文化の中に飛び込んでみたかったんです」と振り返り、「歴史がすごく好きで、長い歴史がある国に行きたかった。それで自然とアジアに興味を持って、中国や韓国や日本に関心が出てきた。日本は歴史の中で孤立された状態にあったからこそ、日本にしかない文化がたくさんある。そこにとりわけ惹かれました」と日本への想いを語った。続いて、「来日した時は、やりたいことというよりも、とにかく自分にできることを、能力を生かして試してみようと思った。生活に慣れてきてから、自分のやりたいことをやろうと思った。22歳くらいで若かったから、日本の徒弟制度―伝統的な親方と弟子の関係が残っているところに飛び込んでみたかった」と、庭師という職業を志したきっかけを明かし、気になる名前についても話は及んだ。
元はビョーク・ジェイコブ・セバスチャンという名前だったという村雨。「日本に長い間住んで、日本の伝統文化に携わって仕事をするなら、日本人としてやる方がいいと思ったんです。それで、力士が親方に名前をつけてもらうみたいにしたいと思って、親方に頼んだら嫌だって断られたんです(笑)。責任が重すぎるって。でも、親方のお父さんが“村雨”にしたらどうだと言ってくれた。“今まで見てきた苗字で、一番印象に残っている苗字だ”と。それで、下の名前は私が辰年生まれなので、辰を取って、親方が“剛”と書いて“ごう”と読むのですが、その漢字を調べると“まさ”という読み方もあると知って、その2つを組み合わせて辰剛にしました」とその由来を披露した。
一般的な日本人以上に日本の伝統文化に精通しているように見える村雨だが、久々に観たスウェーデン映画だという本作には、とにかく“スウェーデンらしさ”を感じたと言う。「スウェーデンにいた頃に観たスウェーデン映画は、物事を包み隠さず、そのままに見せ、そして毒がある作品が多くて、私はそういう部分にスウェーデンらしさを感じていました。『ザ・スクエア 思いやりの聖域』も、スウェーデン独自のセンスや表現方法が描かれていて本当に面白かったです」と、その国をよく知るからこその愛情深く暖かい言葉で作品の魅力を語り、トークは幕を閉じた。
『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
4月28日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ、立川シネマシティ他全国順次公開
監督・脚本:リューベン・オストルンド
出演:クレス・バング エリザベス・モス ドミニク・ウェスト テリー・ノタリー
配給:トランスフォーマー
【ストーリー】 クリスティアンは現代美術館のキュレーター。洗練されたファッションに身を包み、バツイチだが2人の愛すべき娘を持ち、そのキャリアは順風満帆のように見えた。彼は次の展覧会で「ザ・スクエア」という地面に正方形を描いた作品を展示とすると発表する。その中では「すべての人が公平に扱われる」という「思いやりの聖域」をテーマにした参加型アートで、現代社会に蔓延るエゴイズムや貧富の格差に一石を投じる狙いがあった。だが、ある日、携帯と財布を盗まれたことに対して彼がとった行動は、同僚や友人、果ては子供たちをも裏切るものだった―。
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