池松壮亮が二人のピアニスト(一人二役)を演じる、冨永昌敬監督最新作『白鍵と黒鍵の間に』が、10月6日より公開中。公開を記念して、10月6日にTOHOシネマズ 日本橋にて初日舞台挨拶が行われ、池松壮亮、仲里依紗、森田剛、松丸契、冨永昌敬監督が登壇した。
池松は半年にわたってピアノを練習して本作に臨んでおり、「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を演奏するシーンについて聞かれると、「指から血が出るくらい練習しました…嘘です(笑)」とおどけた様子も。松丸との共演シーンとなったゴミ溜めに捨てられたピアノでセッションをするシーンは「お気に入りのシーンです」と明かす。冨永監督はこのシーンについて「松丸くんと音楽監督の魚返(明未)さんが実際に即興で演奏して、それをビデオに撮って、池松くんがそれを見ながら手の動きを合わせたんです。撮影当日にその場で手の動きを覚えてもらいました、とても難しかったと思います」と池松のピアニストっぷりを称賛。松丸も「僕は2日間しか現場にいなかったんですけど、現場に入ってメイクが終わって衣装に着替えて待機している時、ピアノが聞こえてきて、魚返さんが弾いているかと思って見たら、池松さんが弾いていて、本当にすごいなと思いました。(役の設定の)ジャズピアニストみたいというより、画を捉えて息を吹き込んでいるような演奏で、聴いていて感動しました」と池松を称えた。
仲は、10代で出演した『パンドラの匣』以来の冨永作品への出演で「お久しぶりでございますという感じで、楽しい現場をまた体験できました。私はにぎやかな役が多いので、こういうムーディーな作品に出られて嬉しかったです」と笑顔を見せる。役柄は博と南、双方に関わりを持つ先輩ピアニストという役だったが、ピアノ演奏について仲は「難しいですよ。私のウィキペディアに一応、(ピアノが)特技と書いてあるんですけど、指をあてることしかできないですから! (ウィキの記述は)削除してほしいです。弾けると思われてしまうので!」と訴え、会場は再び笑いに包まれていた。
森田は、謎の男“あいつ”を演じたが、現場で忘れられないこととして「“あいつ”が人とすれ違う時、監督の演出で、相手からは見えていないような感じで…と言われ、人から無視されるという悲しみを味わいました(笑)」と笑いを交えながら振り返る。また、劇中で“あいつ”の目に花が咲くというファンタジックなシーンがあり、池松は「意味がわかんないんですけど、超楽しかったです」と述懐。森田は「どうやって目に花をつけるのかと思って楽しみにしてたら、普通に花の裏にセロファンテープが貼られてました」と明かし、そんな自分の姿を「気に入ってます」と笑顔を見せた。
さらに、この日は映画の中の「俺はいったい、何をやってるんだ?」というセリフにちなんで、最近「何をやってるんだ?」と思った瞬間を登壇陣が明かした。池松は「わりと日常的にそう思ってます」と語りつつ「(この映画のために)ピアノの練習を半年くらいやりましたが、その期間になぜか他の作品の準備をしていて、フィギュアスケートとボクシングと3つ同時に習っていました…3つ同時にやっていたこともあってか伸び悩みましたね…そこで、本当に『俺はいったい何をやってるんだ?』と思っていました(笑)。あとは、(『シン・仮面ライダー』で)仮面ライダーをやって、その後、『せかいのおきく』という映画でうんこを運んで、そのあとにピアノを触って『何をやってるんだろう?』とも思っていました」と語り、これには場内も笑いながらも池松の俳優魂を見せるエピソードに感嘆していた。
仲は、筋トレを続けていることを明かし「にこるん(藤田ニコル)が(負荷のウエイト)80キロ挙げるという情報聞いて、私は50キロなので『にこるん超えをしてやろう!」と日々ちょっとずつ(負荷を)上げてるんですけど、『私、何やってるんだろう…?これを挙げたところで、にこるんにはなれないのに…』と思っています」と笑う。森田は「植物が好きなので、水をあげている時が好きなんですけど、ついにやけてしまって『気持ち悪いな、俺…』と思っちゃう(苦笑)。でも、水をあげている瞬間は『生きてるな』という感じがするんです。松丸は、本作への参加のために、撮影現場に入る前のツアー中からセリフをずっと覚えるようにしてきたことを明かしたが「これで覚えたぞ!と思ったんですけど、撮影が始まる5分前に監督が来て『ちょっと貸して』と台本の全部のセリフに赤い線を引き始めて、セリフが全部書き換えられました…。5分後にそれをやらないといけないというプレッシャーの中で『何やってるんだろう?』と思ってました」と監督への恨み節(?)を告白。冨永監督はこのセリフ変更について「正反対の印象で記憶していたのでビックリしてます!長いセリフをまとめて最小限にして、喜んでくれたと思っていました」と驚いた様子で明かし、まさかの撮影エピソードに場内は笑いに包まれていた。
舞台挨拶の最後に主演の池松は「この主人公は、『俺はいったい何をやってるんだ?』というままならない人生の連続の中で、その連続性のすき間を音楽で埋めていたんです。この映画がみなさんに心のすき間をほんの少しでも埋められるものになっていたら嬉しいです。世界でいろんなことが起こっていて、コロナが終わっても戦争は続いていたりしますが、世界の沈黙や静寂、そういったものの間を埋めることが音楽や映画でできるということをこの映画で伝えられれば…、そういう力があるというのを目指していました。またぜひ映画館に足を運んでいただければ」と呼びかけ、劇場は大きな拍手に包まれた。
『白鍵と黒鍵の間に』
2023年10月6日(金)より、テアトル新宿ほか全国公開
監督:冨永昌敬
原作:南博「白鍵と黒鍵の間に」
脚本:冨永昌敬 高橋知由
音楽:魚返明未
出演:池松壮亮 仲里依紗 森田剛 クリスタル・ケイ 松丸契 川瀬陽太 杉山ひこひこ 中山来未 福津健創 日高ボブ美 佐野史郎 洞口依子 松尾貴史 高橋和也
配給:東京テアトル
【ストーリー】 昭和63年の年の瀬。夜の街・銀座では、ジャズピアニスト志望の博(池松壮亮)が場末のキャバレーでピアノを弾いていた。博はふらりと現れた謎の男(森田剛)にリクエストされて、“あの曲”こと「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を演奏するが、その曲が大きな災いを招くとは知る由もなかった。“あの曲”をリクエストしていいのは銀座界隈を牛耳る熊野会長(松尾貴史)だけ、演奏を許されているのも会長お気に入りの敏腕ピアニスト、南(池松壮亮、二役)だけだった。夢を追う博と夢を見失った南。二人の運命はもつれ合い、先輩ピアニストの千香子(仲里依紗)、銀座のクラブバンドを仕切るバンマス・三木(高橋和也)、アメリカ人のジャズ・シンガー、リサ(クリスタル・ケイ)らを巻き込みながら、予測不可能な“一夜”を迎えることに…。
©2023 南博/小学館/「白鍵と黒鍵の間に」製作委員会