父親になったゲイの男性と、実親を知らない息子との生活を通して、血縁でない家族とは?人と人との関係とは?を価値観が多様化する現在に改めて問い直す島田隆一監督によるドキュメンタリー映画『二十歳の息子』が、2023年より公開されることが決定した。併せてメインビジュアル、場面写真がお披露目となり、島田隆一監督よりコメントが寄せられた。
児童養護施設の子どもたちの自立支援団体「ブリッジフォースマイル」で働く網谷勇気(40)。働き始めて2年目に、高校在学中からこの団体のプログラムを利用していた渉(わたる)と知り合う。幼少期より児童養護施設に預けられ、両親の顔も知らずに育った渉は、在籍していた児童養護施設から団体を繋げてもらい網谷と出会ったのだった。高校を卒業しても二人の関係は続いていたが、渉が二十歳になった頃にある事件を起こし、起訴される事態となってしまう。網谷は、団体の職員として関わることに限界を感じ、彼の生活を立て直す手段として、養子縁組を提案する。自身がゲイである網谷は、それまで家族をつくることを特に望んではいなかった。親を知らない経歴に加えて、多感な年頃でもある「二十歳の息子」の父親になった網谷。照れ臭さと緊張をにじませながら、2人の新生活が始まった。
本作の監督は、ゼロ年代に生きる若者の夢と挫折を描いたデビュー作『ドコニモイケナイ』(12)で第53回日本映画監督協会新人賞を受賞し、福島県広野町を舞台に震災の復興とは何かを問いかけた『春を告げる町』(19)の島田隆一。新たに始まった共同生活を1年にわたり記録した島田は、そこに生じるぎこちなさや軋轢、そして静かな心の交流を、丁寧にカメラに映しとった。それぞれに普通の家庭や人生を選択してこなかった/できなかった歳の離れた2人の男性がゼロから新たな関係性を作る。それは2人の「生きなおし」の旅でもある。いわゆる普通の家族や親子の枠を超えて、人が人とどう繋がりをもつことができるのか。そんな困難な問いを、本作はしなやかに捉える。
なお、本作は本公開に先駆けて12月3日(土)よりポレポレ東中野にて開催される島田隆一監督『ドコニモイケナイ』(12)の10周年記念上映の中でも特別先行上映される。上映時には島田隆一監督に加えて本作の主人公である網谷勇気さん、作家の鈴木みのりさんらも登壇。ぜひ一足早く本作を観たい方は駆けつけて欲しい。
■島田隆一(監督)コメント
渉君と初めて会った時、その人懐っこさと、他人を寄せ付けない鋭い視線に魅了されました。同時に、彼が歩んできた人生の複雑さを想うとやるせなさを覚えました。そんな彼を受け入れ、彼の居場所を作り続ける網谷勇気さんもまた、人とは違った人生を生きています。私の映画作りはいつも、到底理解することなどできない他者を、知りたいと思うところから始まるのだと思います。そして彼らは、自らの人生について物語り、言葉を尽くし、行動してくれました。私は彼らの言葉にそっと耳を傾け、その人生の一瞬を捉え、皆さんに手渡すことができればと思っています。一見するとこの映画は、数奇な運命を辿った2人の、少し変わった物語のように感じるかもしれません。しかし彼らの人生は、私たち社会によって様々な困難を強いられています。もし今、彼らのように生きる人たちが生きづらさを感じているならば、それは我々が作り上げてきた社会の側に責任があるのです。多様性が叫ばれるようになり、社会の価値観も変容してきました。それに合わせて、家族観が変化することも必然です。私たちは新たな人間関係の構築の仕方を模索しなければいけない時期にきています。この映画をきっかけに、一緒に考えていけたらと思っています。
『二十歳の息子』
2023年2月より、ポレポレ東中野にて上映!以降全国順次公開
監督:島田隆一
配給:ブライトホース・フィルム
©JyaJya Films