「自分の映画を上映してもらえる劇場を探しています」リム・カーワイ監督『あなたの微笑み』11月公開

『COME & GOカム・アンド・ゴー』(20)で注目される、リム・カーワイ監督の映画愛が詰め込まれた、おかしくも切なく愛おしいパラレルワールド『あなたの微笑み』が11月12日より公開されることが決定した。併せてメインビジュアルがお披露目となり、キャスト&スタッフよりコメントが寄せられた。

実力はあるはずなのに、なんだかうまくいかない…。本作は、ちょっとザンネンな映画監督“世界の渡辺”が、インディーズ映画界の底辺で自分と向きあっていく、ちょっと遅れてきた青春ロードムービー。東京国際映画祭での栄光にしがみつきながら、地元・栃木でくすぶり続ける映画監督・渡辺紘文。久々の映画の仕事も、映画を全く理解しないスポンサーの“社長”に振り回され、うまくいかない。数々の映画祭で栄光に輝いた自分の作品を引っ提げて、沖縄から北海道まで、ミニシアター行脚にでるも、誰も“世界の渡辺”を知らない…。コロナ禍でも映画を上映し続け、映画館を守ろうとする館長たちや、父が経営する劇場を手伝いつつダンサーを目指すユキとの出会いを通して、“世界の渡辺”は成長することができるのか?

90歳の名物館長・岡村照さんが切り盛りする別府ブルーバード劇場、高倉健に愛された小倉昭和館、昭和にタイムスリップしたようなレトロな映画館・首里劇場、北海道最古の映画館・大黒座。長年、街に愛され、街に根付いてきたミニシアターのほかに、ジグシアターや豊岡劇場など、若い館長が立ち上げたミニシアターまで、沖縄、大分、福岡、鳥取、兵庫、北海道の実在するミニシアターがロケ地として登場する。しかし本作の完成後、2022年4月に首里劇場の金城政則館長が急逝し閉館が決まり、5月にサツゲキが経営は継続するも民事再生法を申請、8月末をもって豊岡劇場が一時休館されることになった。そして8月10日、丹過市場の火災により昭和館が全焼した。10日後に創業83年を迎える予定だった。コロナ禍で様々なミニシアター救済企画が立ち上げられ、メディアでもミニシアターの苦境は取り上げられてきたが、ミニシアターを取り巻く状況は依然厳しいままである。

映画監督自身が映画館に自分の映画を売り込みにいくことは、日本のインディペンデント映画界では珍しいことではない。コロナ禍でも映画の灯を絶やさず、映画館を存続させるようと切実な状況にあるミニシアターに以上に、監督自ら映画を売り込みにいく“世界の渡辺”も切実だ。なかなか上映が決まらない中、唯一上映できた豊岡劇場では、誰も“世界の渡辺”を知らず、手売りの前売り券も全く売れず、惨憺たる結果を目の当たりにする…。しかし映画を観にくる観客がいて、映画を届けたいと思う映画館がある限り、ミニシアターは今日も続いていく。本作からは映画を愛する人がいる限り、“世界の渡辺”のように映画を愛する映画人がいる限り、暗い未来だけではないことが伝わってくるはずだ。

大阪を拠点に、香港、中国、バルカン半島などで映画を製作し、どこにも属さず彷徨う“シネマドリフター(映画流れ者)”を自称する映画監督リム・カーワイ。常に未知の場所をひとりで訪ね、その場所の人々と出会い、その土地の、その瞬間を切り取っていく前代未聞の制作スタイルは、リム監督作品の大きな魅力となっている。本作では、コロナ禍のミニシアターを舞台に、自身初となる日本国内だけを舞台としたロードムービーに挑んだ。

主演は映画監督、俳優としても精力的な活動を展開する、渡辺紘文。故郷の栃木県大田原市で、映画制作集団「大田原愚豚舎」を旗揚げし、東京国際映画祭5作品連続正式出品され、『叫び声』(19)で同映画祭日本映画スプラッシュ部門監督賞を受賞、2020年にはスミソニアン博物館にて黒澤明、鈴木清順に次ぐ特集上映が開催されるなど、国内外で注目を集めている。不器用で憎めない“世界の渡辺”役を本人が好演し、現実と映画を交差させてゆく。

これまでも台湾の巨匠ツァイ・ミンリャン監督の常連俳優リー・カンションはじめ、キム・コッピ、ヤン・イクチュン、シェリーン・ウォン、小橋賢児、渡辺真起子、千原せいじなど、自らが交渉するスタイルで、斬新なキャスティングを実現してきたリム監督のキャスティングの手腕は、本作でも発揮されている。釜山国際映画祭キム・ジソク賞受賞の主演作『義足のボクサーGENSANPUNCH』(21/ブリランテ・メンドーサ監督)で注目される尚玄が“社長”役で出演する。“世界の渡辺”の前にふと現れる謎の“砂の女”役、豊岡劇場館長の娘・ユキ役に、新鋭・平山ひかる。15歳からダンサーとして、松任谷由実、山崎育三郎のツアーにも出演し、ステージ、CMでも活躍し注目を集め、映画初出演とは思えないのびやかな演技で魅了する。そして“世界の渡辺”を見出した元東京国際映画祭プログラミングディレクターの矢田部吉彦や、ミニシアターの名物館長たちも本人役で出演。ほかにも所々に見逃せない意外なキャストが登場するのも見逃せない。

▼キャスト&スタッフ コメント

■渡辺紘文(“世界の渡辺”本人役)
監督・シネマドリフター・リム・カーワイ!!主演・大田原愚豚舎・渡辺紘文!!沖縄から北海道まで日本を縦断し撮影した映画『あなたの微笑み』が遂に完成しました!!全人類、全映画ファン、全シネフィル、全映画関係者、大人も子供もおねーさんも、総ての映画を愛する皆さまに見て頂きたい映画への愛が溢れた必見の映画です!!映画を見た人に心の底から楽しんで欲しい!!そして、映画の素晴らしさや厄介さやこれからについて語って、悩んで、考えて欲しい!!おれは映画を愛しています!!(憎しみもあるけど笑)だから映画を愛する皆様と映画館でお会いできますことを今からめちゃんこ楽しみにしています!!

■平山ひかる(カフェ店員・ユキ・砂の女役)
こじらせ監督の前に現れる少女たちは、当たり前にそこにいたような気がする。それがなぜなのか!?不可思議に感じられる事でしょう。日本各地のミニシアターも実感できる事も、この映画の魅力です。是非一緒に旅にでましょう!

■尚玄(社長役)
人々の心が疲弊し、ミニシアターも存続の危機に陥ってしまったコロナ禍において、映画作りは益々困難になってきました。今作はリム監督から映画を愛する人たちへ送る、ある意味アンセムではないかと思います。たくさんの方々に届きますように。

■田中泰延(豊岡劇場館長役)
映画監督が、映画監督を主演に映画を作る。どんだけ映画が好きやねん。僕はといえば、その中に出てくる映画館の館長役。これはもう、映画の、映画による、映画のための映画です。

■リム・カーワイ(林家威)(監督)
ずっと沖縄から北海道までのロードムビーを作りたかったが、渡辺紘文という稀代の映画監督兼役者を得て、ついに『あなたの微笑み』でその念願を果たすことができた。自主映画監督が自分の作品を売りに行くかというシンプルな物語だが、映画関係者だけではなく、コロナ禍で不安に思い過ごす人々にも、共感してもらえる普遍な物語になったと思う。ぜひ多くの方にご覧頂きたい。そして、この映画を作ってから、劇中に登場したいくつかの地方の映画館が、相次いで閉館になったことには大変残念だが、在りし日の姿を記録することができたことを誇りに思う。

『あなたの微笑み』
2022年11月12日(土)より、イメージフォーラム、12月3日(土)よりシネ・ヌーヴォ他全国順次公開
監督・プロデューサー・脚本・編集:リム・カーワイ
出演:渡辺紘文 平山ひかる 尚玄 田中泰延
配給:Cinema Drifters

【ストーリー】 何もない栃木の田舎町で、くすぶり続ける映画監督の渡辺紘文。地元・栃木を拠点に映画製作団体「大田原愚豚舎」を旗揚げし、東京国際映画祭で数々の受賞歴を持つ渡辺は、自他ともに認める“世界の渡辺”である。しかし“世界の渡辺”もいまは脚本も書けず、大手映画会社から依頼がくることもなく、地元の仲間たちと悪態をつきながら日々を過ごしている。ある日、旧知のプロデューサーから、世界的映画監督“KOREEDA”の代打で沖縄での映画制作の話が舞い込む。久々の映画制作に浮足立つ渡辺が沖縄に向かうと、「いますぐ俺を主人公にして映画を作れ」と“社長”に高級ホテルに缶詰めにされる。「世界的映画監督ならできるだろう」と無茶苦茶な要求をされ、1週間で書き上げるはずの脚本は1ページも書き進まないまま時が過ぎていく。結局、“社長”にも見限られ、ホテルを追い出された渡辺はひとり映画館へ足を運ぶ。「すみません。映画監督の渡辺紘文という者なんですが、自分の映画を上映してもらえる劇場を探しています」。沖縄・首里劇場、大分・ブルーバード、福岡・小倉昭和館、鳥取・ジグシアター…。コロナ禍にひとりミニシアターを訪ね歩く渡辺は、その道中でいつも正体の異なる不思議な少女に出会い、導かれていく。ようやく兵庫・豊岡劇場で上映が決まるも、誰も“世界の渡辺”を知らず、チケットはまったく売れない。雪が舞い落ちる北海道・サツゲキを経て、遂に日本最北端の映画館・大黒座に行きついた渡辺。再び自分の映画を上映することができるのか、“世界の渡辺”として返り咲くことができるのか!?そして“世界の渡辺”は、映画を愛する人たちと出会い、何を見つけるのか。

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