水川あさみ「『タグをだしてんねん!』20代前半の時にオーディションで人を傷つけちゃって後悔してます…」

32歳で命を絶った“非正規歌人”萩原慎一郎による歌集を、水川あさみ主演、浅香航大、寄川歌太共演で映画化する『滑走路』が、11月20日に公開初日を迎え、同日、テアトル新宿にて行われた初日舞台挨拶に、水川あさみ、浅香航大、寄川歌太、大庭功睦監督が登壇した。

MCの呼び込みとともに客席からの大きな歓声を浴びながら水川、浅香、寄川、大庭監督が登壇。先日発表された第45回報知映画賞で本作が作品賞にノミネートされたことについてMCから発表があると、客席からは大きな拍手が沸き起こった。さらに水川は主演女優賞、そして出演作である『ミッドナイトスワン』と『アンダードッグ』でも助演女優賞にダブルノミネートされた。壇上で祝福を受けた水川は、「ありがとうございます!本作で主演女優賞にノミネートされたことはすごく嬉しいですね。今年は深く映画に関われた年でもあったので、まだノミネートではありますが『がんばったね』と言ってもらった気分です」と喜びを伝えた。

本日は新型コロナウイルス感染対策のために、飛沫防止パネルを客席との間に設置していたが、水川は「パネルに自分自身が写っちゃうのであまり皆さんの顔がよく見えない…」と言い、一人一人の顔を覗くようにパネルに近づき話を続けた。「今日は上映後の舞台挨拶なので、すでに映画を観終わった皆さんがどういう顔をしているのか気になりますね。お忙しい中わざわざ公開初日にお越しいただきありがとうございました。短い時間ですが、皆さんと過ごす時間を大切にしたいと思います」と観客へ感謝の気持ちを口にした。浅香も「大変な状況の中、こうやって公開を迎えられたことがとても嬉しいです。直接この場に立てることもとても有難いです」と喜びを語った。前回の東京国際映画祭が人生初めての舞台挨拶となった寄川も、「本日はお越しいただき本当にありがとうございます」としっかり観客に挨拶し、「前回はとても緊張したけど、だいぶ鍛えられました!今は一応体もほぐれているつもり。でも後で動画を見るとやばいのかもしれないけど…」と不安をこぼしたが、観客からは声援ともとれる温かな拍手が送られた。今日はお母さんが来ていることが明らかになると、水川はさらにパネルに近づき客席をガン見。「探さないで下さいよ!」と寄川に突っ込まれていた。

大庭監督は「自分の商業デビュー映画の公開日はもっと緊張するのかと思っていたけど、そうでもない。今日は俳優3人の付添人として来ました」と話し始めると、すかさず水川が「裏でめっちゃ緊張してたじゃないですか!緊張でべらべらべらべら、ずっと一人で喋ってましたよ!」と暴露。それを受けて大庭監督は「いやいや…!今日はパブリックイメージ作っていこうと思ってるから…」と焦り、水川を諭していた。

群像劇である本作では、撮影中にキャストの3人が一度も顔を合わせる機会がなかったといい、今回が東京国際映画祭での舞台挨拶以来2度目の顔合わせとなる水川、浅香、寄川の3人。お互いの撮影状況を知らないまま完成した映画を観た時の感想を問われた水川は「いい意味で、もやがかかったような素敵なバランスの雰囲気が映画全体に漂っていたと思う。大庭監督はこれまで助監督を長く経験されてきた方なので、現場の細かい部分も全て見えていて、繊細な演出が行き届いていました。とても居心地の良い現場だったのが手に取るように分かる作品になっていたと感じました」と絶賛すると、浅香も「水川さんがおっしゃったように全パートを通して大庭監督の緻密な演出が光っていましたね。撮影現場でも、監督のもとに撮影部や照明部などすべての部署が同じ方向を向いて作業することができていたので、とても純度の高い作品が仕上がったと思っています」と続ける。さらに寄川まで「撮影している時から、自分以外の大人パートがどうなっているんだろうと気になっていましたが、完成した映画を観ると雰囲気が統一されていて、監督の力ってすごいなぁと思いました」と褒めたたえ、大庭監督は照れながらも「みなさんありがとうございます…、今こうやって盛り上げていただきましたが、本当にこのお三方がいての『滑走路』だと思っているので、僕は自分の存在感を消すことに徹していました」と恐縮しきり。

全員の緊張がほぐれたところで、映画の内容についてのトークセッションが繰り広げられた。まずは水川扮する切り絵作家・翠(みどり)のパートについて。劇中、水橋研二扮する夫の拓己との間に常に微妙な緊張感が漂っている様子が描かれるのだが、この夫婦仲について意見を求められた浅香は「僕に聞きます…?うーん、僕が言うことあくまで見解ですけど」と前置きしつつ、「この夫婦は、ダメなことはすべて世の中のせいにして、本質的に向き合ってなかったんじゃないかな、と思います」と戸惑いながら答えると、水川がすかさず「正解!」と笑わせ、監督も「うん、とても素敵な答えだと思います!」と浅香を励ました。16歳の寄川にもMCからのムチャぶりがあったが、寄川は「難しいですけど…、大事な選択を迫られた時に拓巳が『翠はどうしたい?』と聞いてしまう気持ちも分かるし、その無責任な言葉にショックを受ける翠の気持ちもよく分かったので、どちらにも共感しちゃいました」と率直な感想を述べると、浅香は「大人だなぁ」とぽつり。

続いて、浅香扮する鷹野というキャラクターについて。厚生労働省で働き多忙な生活を送る中、鷹野には辛い過去と向き合わなくてはならない出来事が起こる。そんな彼に共感するような、過去の後悔はあるかと聞かれた水川は「これ、笑い話になっちゃうんですけど、昔20代前半の時にオーディションで人を傷つけちゃったことがあって」と話し出す。「その日は、タグが外についているおしゃれな洋服を着ていたんですけど、後ろにいた女優さんが『タグでてるよ』と教えてくれたんです。だけど関西から出てきたばかりの私はそれに対して『だしてんねん!』と元気よくツッコんじゃって(笑)。それを見ていた他の女優さんが最近教えてくれたんですけど、その時その教えてくれた方がとても傷ついてたようで…。未だにその出来事を思い出して、なんでそんなことしちゃったんだろうなぁって後悔してます」と話し、真面目な映画トークからの意外な展開に観客も爆笑。続けてエピソードを求められた浅香も「僕にはこんな面白い話ないです(笑)」と困り果てていた。

短歌の歌集が原作となった本作にちなみ、大庭監督がこの日ために自作の短歌を用意。それまでふざけていた監督も急に真面目な表情で歌を発表した。《幾千の視線を集める銀幕に 映る景色を生んだあの人》と詠むと、自然と拍手が沸き起こる。歌が生まれた背景については「最後の“あの人”は原作者の萩原さんを表しています。萩原さんの歌集があって、この映画が生まれたのでなにか歌としてお返しできればと考えました」と説明。「だけど、“あの人”は水川さんにも浅香さんにも寄川さんにも置き換えられる。我ながらうまい歌を作ったなぁと感じます」と自画自賛し、登壇者を笑わせた。

イベントが終わりに近づき、締めの挨拶を任された水川と浅香。「この作品に携わってたくさんのことを感じました。いくつかの社会問題も描かれていますが、そういったことに一人の人間として向き合った時に、自分の小ささを痛感しました。だけど自分は俳優と言う仕事を通して人々へ伝えていくことができるのかなと気付き、俳優の仕事に丁寧に向き合っていきたいと改めて思いました。いまの時代だからこそ多くの方に観て頂きたい作品です。映画を観て様々な感想をもってくれると嬉しいです。多くの方々に広めていただければと思います」(浅香)、「私もこの作品に関われたことを本当に嬉しく思っています。もしかするとこの映画を観たことによって昔の嫌なことを思い出したり、傷ついてしまったりネガティブな感情を抱くことがあるかもしれないなとも考えてしまいました。だけど生きていくということは、人を傷つけたり、自分も傷ついたりしていくこと。私たちは役者という仕事をしていて、誰かを傷つけるかもしれない、自分たちが傷つくかもしれないという覚悟の上でこういった作品を作っています。ちょっとでも心に寄り添えるような、勇気を与えることができるような作品になっているといいなと思います」と語り、それぞれ思い思いの言葉でイベントを締めくくった。

『滑走路』
11月20日(金)より全国ロードショー中
監督:大庭功睦
原作:萩原慎一郎「歌集 滑走路」
脚本:桑村さや香
主題歌:Sano ibuki「紙飛行機」
出演:水川あさみ 浅香航大 寄川歌太 木下渓 池田優斗 吉村界人 染谷将太 水橋研二 坂井真紀
配給:KADOKAWA

【ストーリー】 厚生労働省で働く若手官僚の鷹野(浅香航大)は、激務の中で仕事への理想も失い無力な自分に思い悩んでいた。ある日、陳情に来たNPO団体から非正規雇用が原因で自死したとされる人々のリストを持ち込まれ追及を受けた鷹野は、そのリストの中から自分と同じ25歳で自死した青年に関心を抱き、その死の理由を調べ始めるが…。

©2020「滑走路」製作委員会