本木克英監督「日本のジャーナリズムもまだまだ捨てたものじゃない!」映画『はりぼて』を絶賛!

富山県の小さなテレビ局が地方政治の不正に挑み、報道によって人の狡猾さと滑稽さを丸裸にした4年間を描いたドキュメンタリー『はりぼて』が、8月16日に公開初日を迎えた。このほど、同日に渋谷ユーロスペースにて舞台挨拶が行われ、監督を務めた五百旗頭幸男と砂沢智史、そして富山出身で本作を「恐るべきコメディ」と絶賛する『空飛ぶタイヤ』などの映画監督・本木克英が登壇した。

舞台挨拶の冒頭、本作を製作したきっかけを問われた五百旗頭監督。「4年前に富山市議会の不正を追及するドキュメンタリー番組を製作したのですが、その後4年間、市議会は本質的にはなにも変わりませんでした。そんな状況を許してしまっているのは、市民であり、僕たちメディアであると思い至り、矛先を内部に向けなければならないと思い、製作しました」と述べ、砂沢監督も「辞職した議員やその家族は新しい人生を歩み始めているので、正直製作に抵抗もありました。しかし、議会を見つめ直すきっかけになればという思いで映画にしました」と続けた。

本木監督は作品について、「市議たちの不正に真正面から迫っただけではなく、取材の矛先を自分たちに向けて、身を晒して描き切ったというところが素晴らしい。凄みのある、強い映画になったと思います。お二人のような方がいらっしゃれば、日本のジャーナリズムもまだまだ捨てたものじゃないな、と明るい気持ちになりました」と絶賛。また、「実は以前この富山議会の一連の騒動を劇映画にしないかとオファーを受けたんです。しかし、ぼかしも一切なく、赤裸々に映し出したこの作品を観て、つくづくやらなくてよかった」と打ち明けると、場内からは笑いが起こった。

本作を「基本的にコメディとしてつくった」と語る五百旗頭監督。「作品の7割はコメディだと思っています。ただ、瞬間的な笑いではなく、観ているひとの心に突き刺さり、最後には笑えなくなる、そんなコメディになったかと思います」と語った。

最後に、五百旗頭監督は「このコロナ禍で、政治の腐敗を放置していると大変な影響があると体感した方も多いかと思いますが、このような問題は日本全国どこでも起こっていることだと思います。少しでも政治に目を向けるきっかけになれば幸いです」、砂沢監督は「これは富山で、そして恐らく国政でも実際に起きていることです。この映画が身近な政治に目を向けるきっかけになればと願っています」とそれぞれ観客にメッセージを送り、本木監督も「日本の政治全体が抱えている問題を追及した大変な問題作。これからどんな広がり方をしていくか楽しみです」と期待を込めた。

併せて、10月31日より作品の舞台となった地元・富山県の「ほとり座」で公開されることが決定し、ほとり座支配人の田辺和寛よりコメントも寄せられた。

■田辺和寛(ほとり座)
我々の生活のあらゆるところに存在している「はりぼて」。政治やメディアだけのそれではない。それに気づけるのか、気づけないのか、気づかないフリなのか、変われないのか、変わろうとしないのか。自分の中にある「はりぼて」を剥がせるのか?他人事だという感覚から抜け出し、当事者となれるのか?そんな問いにすら思える、ちょっと笑えるドキュメンタリー映画です。自分で選択できる時代だからこそ、自分の目と感覚でこの映画「はりぼて」を確かめてみてください。

『はりぼて』
8月16日(日)より、ユーロスペースほか全国順次公開中
監督:五百旗頭幸男 砂沢智史
音楽:田渕夏海
テーマ音楽:田渕夏海「はりぼてのテーマ〜愛すべき人間の性〜」
語り:山根基世
声の出演:佐久田脩
配給:彩プロ

【作品概要】 “有権者に占める自民党員の割合が10年連続日本一”である保守王国、富山県。2016年8月、平成に開局した若いローカル局「チューリップテレビ」のニュース番組が「自民党会派の富山市議 政務活動費事実と異なる報告」とスクープ報道をした。この市議は“富山市議会のドン”といわれていた自民党の重鎮で、その後、自らの不正を認め議員辞職。これを皮切りに議員たちの不正が次々と発覚し、半年の間に14人の議員が辞職していった。その反省をもとに、富山市議会は政務活動費の使い方について「全国一厳しい」といわれる条例を制定したが、3年半が経過した2020年、不正が発覚しても議員たちは辞職せず居座るようになっていった。記者たちは議員たちを取材するにつれ、政治家の非常識な姿や人間味のある滑稽さ、「はりぼて」を目のあたりにしていく。しかし、「はりぼて」は記者たちのそばにもあった。本作は、テレビ番組放送後の議会のさらなる腐敗と議員たちの開き直りともいえるその後を追った政治ドキュメンタリー。あっけなく辞職する議員たちの滑稽な振る舞いは、観る者の笑いを誘わずにいられない。追及する記者を含めた私たちは、腐敗した議会や議員たちを笑うことしかできなのだろうか。果たして「はりぼて」は誰なのか?

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