伊藤詩織「悪夢がフラッシュバックしてしまうんじゃないかと、最初は観る勇気がなかった」松坂桃李『新聞記者』

望月衣塑子(東京新聞記者)のベストセラー「新聞記者」を原案に、政権がひた隠そうとする権力中枢の闇に迫ろうとする女性記者と、理想に燃え公務員の道を選んだある若手エリート官僚との対峙・葛藤を描いた、松坂桃李とシム・ウンギョンのダブル主演で贈る映画『新聞記者』が6月28日より公開中。このほど、8月8日に丸の内ピカデリーにて終戦記念日直前トークイベントが行われ、石田純一、元文部科学省事務次官 現代教育研究所所長・前川喜平、プロデューサー・河村光庸、朝日新聞論説委員・高橋純子、そして特別ゲストとして、ジャーナリスト・伊藤詩織が登壇した。

ステージに立った石田は「ちょうど今でも表現の自由とか、それに対する圧力とかが話題になっている中ですが、よくぞこの映画を作ってくださいました。本当によく出来ている映画だなと思いました」と挨拶し、「日本は政治のことをあまり語らない風土があります。特に芸能人は政治のことを語らなくていい、芸能人は芸能のことだけやっていればいい、という同調圧力があります。だから僕は東京では干されがちなんですよ」と自虐的に語った。そして、映画宣伝の過程で、テレビでの紹介がされなかったり広告出稿を断られたりと苦戦を強いられたが、逆にツイッターやSNSなどで映画の応援団が形成されたという経緯があった、ということを踏まえ、「僕が大阪でレギュラー出演している映画番組の中で、この作品の紹介をしようと思ったことがありました。その時は、参議院選挙の直前という時期でしたが、自分のクビをかけても、番組の存続をかけてもこの映画を紹介したいと思いました。幸いスタッフもやりましょうと言っていただいて、紹介することができたんですが、おかげさまでいい反響をいただきました」と笑顔をみせた。

続いて前川は、「2年半前に官僚を辞めてから、100%の表現の自由をいただきまして、どこに行っても言いたいことを言わせてもらっています。それまでは38年間、国家公務員だったので、言いたいことはなかなか言えなかった。この映画はフィクションを通じてリアルに迫る。今、われわれが置かれている状況がどういうところにあるのか分からせてくれる映画となっています」と話した。

さらに、サプライズゲストとして伊藤詩織が登壇。劇中、伊藤が被害を受けた事件を彷彿とさせるようなエピソードが登場するということもあり、本作の原作者・望月衣塑子から映画のチケットを渡されたという伊藤は、「最初は観る勇気がなかったんです。わたしのことがどこまで描かれているのか、わたしの悪夢がフラッシュバックしてしまうんじゃないか。どういう気持ちで観にいけばいいのか悩んでしまって。でも、わたしも報道、ジャーナリズムをやっている人間として、こういったことを伝える人間として観たいと思ったので、渋谷に観に行きました」と話し、「画面に映る後藤さゆりさんはわたしだなと思って。そういえばこんなことも言われたなとか、いろいろなことを思い返しました。この日の劇場は満席だったんですが、いったいここにいる何人の人が(劇中の)後藤さゆりさんが体験したについて知っていて。どこまでフィクション、もしくはノンフィクションだと思って観てくれているのかなと。すごく不思議な気持ちになって。見終わった後も動けずにボーッとしていたんです。そうしたら出口で女性の方から『(伊藤)詩織さんですか。わたしたちのために声をあげてくれてありがとう』と声をかけていただいて。そこで緊張していた、不思議な気持ちでいたいろいろなものがほぐれて、涙が出てきました。ここにいる人は知っていたんだと。やはり日本のメディアでは、わたしが体験したことについてなかなか話すことが出来なかったんですが、それがこの映画で、フィクションという形で描かれているのを観て、いろいろな気持ちになりました。やはり観ている人には伝わっていたんだなというのがすごく嬉しくて。こういったものごとの伝え方、可能性が日本でもあるんだと思いました」と語った。

また、本イベントの司会を務めた朝日新聞 論説委員の高橋が「安倍一強体制の中で、望月記者が孤軍奮闘していて、彼女を孤立させないことは大事。ただ、望月さん以外の記者は何をやっているんだ、という状況も分断状況を生んでいて。やはりジャーナリズムというものは、個々の記者の頑張りだけではなく、世論の支えも必要なんです。どれだけ正論を吐こうが、政府に都合の悪いことをいうと『お前らは反日だろう』という抗議が押し寄せる中、それでも奮起して、頑張るためには皆さんに支えてもらわなければなりません。現場では望月さんのほかにも戦っている記者はたくさんいます。個々の記者の戦い方は、望月さんの戦い方とは違うかもしれないけど、そういうことも知っていただき、支えていただけたら」と呼びかける一幕もあった。

最後に、河村プロデューサーが「実はいいニュースがあります」、「大手芸能プロダクションのトップの方からわたし宛に電話があり、『よくぞこの映画を作ってくれた』と仰ってくれました。そしてもう一社、こちらも大手プロダクションの代表者からも電話があり、『よくぞこの映画を作ってくれた』と仰っていただいた。そしてもうひとつ。韓国での公開を行います。日本人と韓国人の文化交流のためということもあります。詳しくはまた別のところで発表しますが、いいニュースだと思うので、ここでお伝えします」と発表した。

『新聞記者』
6月28日(金)より、新宿ピカデリー、イオンシネマほか全国ロードショー中
監督:藤井道人
企画・製作:河村光庸
主題歌:OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND「Where have you gone」
出演:シム・ウンギョン 松坂桃李 本田翼 岡山天音 郭智博 長田成哉 宮野陽名 高橋努 西田尚美 高橋和也 北村有起哉 田中哲司
配給:スターサンズ イオンエンターテイメント

【ストーリー】 東都新聞記者・吉岡(シム・ウンギョン)のもとに、大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届いた。日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、ある強い思いを秘めて日本の新聞社で働いている彼女は、真相を究明すべく調査をはじめる。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原(松坂桃李)は葛藤していた。「国民に尽くす」という信念とは裏腹に、与えられた任務は現政権に不都合なニュースのコントロール。愛する妻の出産が迫ったある日彼は、久々に尊敬する昔の上司・神崎(高橋和也)と再会するのだが、その数日後、神崎はビルの屋上から身を投げてしまう。真実に迫ろうともがく若き新聞記者。「闇」の存在に気付き、選択を迫られるエリート官僚。二人の人生が交差するとき、衝撃の事実が明らかになる。

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