【全文掲載】加賀まりこ「分厚かったねえ。驚きました!」塚地武雅の“奥行き”は計算外だった!?

MC:監督は、加賀さんの包容力も感じられていたんですよね。

和島:『純情ババァになりました。』という加賀さんのエッセイを読みまして、とても愛情深い人だなというのが分かるんですよね。困っている人がいると、なにかせずにはいられないようなところがあって、この役に通じるような気がしました。

MC:塚地さんは、今回特別な役だったですよね。

塚地:難しいテーマですし、難しい役どころではあると思いますので、たくさんのドキュメンタリーとか、資料を頂いて、グループホームにも訪問させていただいて、自閉症の方々とテーブルを囲んで、僕の質問に答えてもらった時間とか、職員の方とか自閉症の親御さんからお話を聞いて、忠さんはこうだろうなというのを集めて演じさせてもらった感じですかね。

MC:忠さんの動作は、塚地さんのオリジナルだったんですか?

塚地:たくさんの資料を見る中で、皆さんに特徴と癖があるので、それを取り入れたかったし、加賀さんから「うちの子はこういう感じのことをするよ」というお話を聞かせていただいて、だったらこのシーンではこうしようかなとか。

MC:加賀さんともご相談されたのですね?

加賀:でも、基本的にオリジナルですよね。100人いたら100人違いますから。塚地さんが作ったオリジナルの忠さんですね。

MC:先日も加賀さんは、「塚地さんは撮影中も忠さんだった」と言っておりましたが。

加賀:そうですね。「さっきお昼、何食べた?」みたいな話はしたくないと思っていたので。自閉症の人は自分から投げかけてこないので、撮影に入ってから、あんまり話しかけちゃいけないと思ってました。

塚地:自分に戻ると、難しいというか。撮影の日は1日ずっと忠さんでいるほうが入りやすいというか。切り替えなきゃっていうスイッチは朝の一発目に入れて、ずっとやってたほうが忠さんになれるというか。撮影中も忠さんとして暮らしてたような感じですかね。

MC:監督としてはありがたかったですよね?

和島:そうですね。自分が細かく演出したというより、塚地さんが深めてくださったのが大きいのと、共演者の方たちとの関わりの中で、少しずつ忠さん像が固まっていったので、すべてのキャストに感謝しています。

MC:ありがとうございました。では、お三方にとって印象的なシーンはどこでしょうか? 加賀さんからお願いします。

加賀:なるべく普通に日常的に芝居をしようと、芝居じゃなくて、ただそこにいることが一番大事って思ってたんですけど、意図しているわけではないんですけど、こみ上げてきちゃうことがいっぱいあって、そうすると監督がすごく嫌がるんですよ。『すいません、今のもう1回やってください。涙はいりません』みたいな。結構冷たくね。ちょっとムカってくるぐらい(笑)。だから、私の中で一番大事だった「生まれてくれてありがとう。母ちゃんは幸せだよ」って伝える、伝えても彼は分かんないんだけど、でも言いたかったんですよ。そのシーンを撮ってる時は、どうしてもこみ上げちゃって。また撮り直し、もう一回、もう一回って。で、ものすごく自分の気持ちを落ち着かせて普通にやろうと思うんだけど、やれなくて。今でも撮り直せるなら撮り直したいぐらい気になります(笑)。

MC:ギュッと抱きしめた忠さんの身体は大きかったですか?

加賀:分厚かったねえ(笑)。手が回らなかったから、ちょっと驚きました! それは計算外でした(笑)。

塚地:思ったよりも奥行きが(笑)。

MC:塚地さんは、どのシーンですか?

塚地:加賀さんと同じですね。僕も(台詞を)聞いちゃうと、こみ上げちゃうし、忠さんは聞いてるのか聞いてないのか、僕の中では聞いてるようだけど、どこまで表現していいかみたいな。リハーサルの時点では、加賀さんの台詞を聞くと、こみ上げちゃって表情に出そうだったので、本番はなるべく遠くから聞こえるように、心を大きく動かさないようにしなくちゃいけないシーンでした。日常のシーンとはまた違う、珠子の言葉だったので。

加賀:すごく難しかったと思う。私が忠さんだったら泣いちゃうもん。

MC:監督、難しいシーンだったんですね。

和島:撮影が終わってから、ひと月後ぐらいに加賀さんから「あのシーンだけ夢に出てきて、どう演じれば良かったんだろう」と言われて、考えてくださっていることが分かって。加賀さんは「あんまり執着がない」とおっしゃっていたので、少しでも覚えていてくださっているのかなと思って、嬉しかったですね。

MC:セリフも加賀さんから「ぜひ、ここは脚本に入れてほしい」という言葉があったというお話なんですけども。

和島:「ありがとう」というストレートな言葉が、自分にはなかなか書けなくて、どうすれば良いのか考えていたんですけど、忠さんはいろんな人から疎まれたりする存在でもあって、胸が締め付けられるような場面も多い中で、「ありがとう」という言葉がどれだけ救いになるのかを考えた時に、とても大切な言葉だなと思うのと同時に、その言葉さえ忠さんには届いているか分からないという珠子の切なさもあるだろうから、それを含めて映画で表現するのは重要なことだと思いました。