【全文掲載】山﨑賢人「人たらし、ダメな部分がある」行定勲監督から見透かされ「そう…ですねえ…」

MC:ヘソの匂いも食にカウントされてましたけどね(笑)。行定監督はいかがでしょうか?

行定:食じゃないからな…(笑)。僕はね、忘れられない芝居、演劇。蜷川幸雄さん演出の「タンゴ・冬の終わりに」という、清水邦夫さんという名作家が書いた舞台がありまして。幕が上がると、劇場にいるのに、舞台上に劇場があるんですよ。合わせ鏡みたいになってるんですよ。これを見たときに、ものすごい衝撃を受けて。僕らは舞台を見ていて、役者は映画を観ている設定なんですね。僕は映画監督だから、映画についての言葉で忘れられない言葉がいっぱいあって「やっぱり映画館は人生の学校である」と言うんですよ。映画を観て、いろんなことを学んだ男と女と、そこに出入りする人たちが、ガラガラの壊れそうな劇場で、舞台を繰り広げるんですけど。これがあまりにも衝撃的で、どのセリフも刺さるんですよね。今回の『劇場』の主人公にも通じてる、自分の上手く行かない鬱屈した気持ちをとにかくぶつけて演劇人が舞台上で演じているのを観て、ものすごく熱くなったんですよね。僕は昔あったものの再演を観たんですけど、それから何十年も経って、僕も演劇を演出するときに「『タンゴ・冬の終わりに』をやりたい」と言って、やらせてもらった。やっぱり繋がっていくものがあって、かつての誰もいない客席で熱い気持ちを持った人間たちが演劇を繰り広げている姿を見せられると、今日、僕らは無人の劇場にいるんですけど、気持ちとしては今自分たちが作ったものを、みんなに観てもらいたい一心だし、こういう状況ですよね。コロナウイルスを拡散しないためにという状況は今しかない。これは絶対に忘れがたい経験で。でも僕らはエンターテイメントの人間なので、とにかく人の心を豊かにしたいという気持ちはあるんですよね。たぶん劇場の人もたった一人が映画を観たいと言って来たら、劇場の人たちもその人のために映画館を開けるだろうし、そのときに観た人がどんな気持ちで映画を受け取って、こういう状況の中でも映画を観に来る人たちが一人でもいて、映画が問われているなという気持ちもします。だから映画館行っても良いのか、逡巡した気持ちで映画館に来たときに、がっかりする映画は作っちゃいけないんだなと。今すごい気持ちで公開を待っている状況ですね。

MC:ありがとうございます。実はここで、行定監督と親交の深い、ポン・ジュノ監督から本作をご覧いただいた上で、お手紙をいただいております。熱のこもった長文をいただいておりまして、ここではお時間の関係で私が抜粋して代読させていただきたいと思います。

「成長と克服に関する物語で、果てしなく長く終わりのないある時期を乗り越えていく物語ですが、青春期の男女の感情の繊細な調律師である行定監督ならではの熟練した老練な腕前、力量を再確認させてくれる作品でした。山﨑賢人さんは、不確かな天才から醸し出される不安感、不確かな天才に向けて沸き起こる憐憫、そのすべてを可能にしました。松岡茉優さんは、天使の安らぎと、反対に天使からもたらされる息苦しさの両面を見事に表現していたと思います。二人の俳優の演技が素晴らしく、本当に良かったです。この作品はまさに、行定監督にしか作りえない、長くも繊細な愛の物語である点で、非常に印象深かったです。また、この映画はクリエイター、あるいは芸術家が抱く不安や苦痛、貧窮さや卑怯な一面をリアルに描いており、その否定的な感情を乗り越えて成長に導いていく忍耐までも描かれています。それは同じ作り手という立場にとって、一層胸に迫るものでした。ありがとうございました。ポン・ジュノ」

というお手紙をいただきました。いかがでしたか、山﨑さん、松岡さん。

山﨑&松岡:嬉しいですね…。

MC:その一言に尽きると思いますが、行定監督は以前から親交があったと思うのですが。

行定:先日、ポン・ジュノが来日したときに、食事をしていて。『パラサイト』のお祝いだったので、無粋だなと思ったんですけど、観てもらいたい気持ちもあって、「観てくれない?」って言ったら、彼はすごい律儀な人間なんですよね。ちゃんと戻って、「いつまでにコメントがほしい?」とちゃんと言ってくれるんですよね。それまでに観なきゃいけないと計算したと思うんですけど、日本語が分かるスタッフがいて、英語字幕があるんだけど、隣にその人を置いて、完全に把握すると。そこがポン・ジュノらしいなと思って。すごい、いろんなシーンを好きだって、長文で書いてあるんですけど、手紙みたいに長いので、これどうやって使うんだろうなと思ってたんですけど(笑)。あの人は別格なので、別格の人がこの特殊な二人をね、でも普遍的な部分を汲み取ってくれたというのは、すごいありがたいなと思いますね。

MC:本当に熱のこもった文章ですので、後ほどすべてお読みいただきたいと思います。

全員:ありがとうございます。

MC:ということで、最後に映画を楽しみにされている皆様に、山﨑さんからメッセージをいただきたいと思います。

山﨑:『劇場』という映画は、観終わった後に、大切な人を絶対に思い浮かべるような映画になっていると思います。なかなか生きている中で上手くいかないことがたくさんあると思うんですけど、そういうものも自分が信じてやってきた中で、上手く行かなかったことが最後には良い方向に向かって行くんじゃないかと思えるような作品だと思います。4月17日に公開なので、それまでに、このお客さんがいない劇場は寂しいんだなというか、お客さんに観てもらって、作品は成立するというか、そう思いましたので、魅力を伝えていけるように頑張りたいと思います。今日はありがとうございました。

『劇場』
4月17日(金) 全国ロードショー
監督:行定勲
原作:又吉直樹「劇場」
脚本:蓬莱竜太
出演:山崎賢人 松岡茉優 寛一郎 伊藤沙莉 上川周作 大友律 井口理(King Gnu) 三浦誠己 浅香航大
配給:松竹 アニプレックス

【ストーリー】 中学からの友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家兼演出家を担う永田(山崎賢人)。しかし、その劇団は上演ごとに酷評され、解散状態となっていた。ある日、永田は街で、偶然、女優になる夢を抱き上京し、服飾の学校に通っている学生・沙希(松岡茉優)と出会う。常に演劇のことだけを考え、生きることがひどく不器用な永田を、沙希は「よく生きてこれたね」と笑い、いつしか二人は恋に落ちる。沙希は「一番安全な場所だよ」と自宅に永田を迎え一緒に暮らし始める。沙希は永田を応援し続け、永田もまた自分を理解し支えてくれる彼女に感じた事のない安らぎを覚えるが、理想と現実と間を埋めるようにますます演劇に没頭していき…。

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