アフガニスタン映画機構(Afghan Film)初の女性会長を務める新鋭サハラ・カリミの長編監督デビュー作にして、ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門に正式出品されたアフガニスタン初のインディー映画『明日になれば〜アフガニスタン、女たちの決断〜』が、5月6日より公開される。このほど、本作の90秒予告編がお披露目となり、併せて、監督のサハラ・カリミがインタビューにて製作秘話などを語った。
義父母の面倒を見ながら家事に追われる孤独な妊婦。7年間浮気し続けた夫と離婚を決意するも、妊娠が発覚した高学歴のニュースキャスター。妊娠したと同時に姿を消した恋人がいながら、いとこのプロポーズを受け入れた18歳の少女。本作は、年齢、生活環境、社会的背景が異なる3人のアフガニスタン女性が初めて直面する人生の試練をそれぞれ描いたオムニバス・ドラマ。
▼サハラ・カリミ(監督) インタビュー
Q:監督はアフガニスタン人女性ですが、海外に住んだ時期も長く、アフガニスタンを客観的に見ているかと思います。経歴を簡単にお教えいただけますか?
私はアフガニスタン生まれですが、中学卒業後、教育の機会を求めイランの叔父の元へ移住しました。イランで建築家をめざして学んでいたところ、たまたま出演した映画がスロバキアの国際映画祭で受賞し、初めてヨーロッパに行きました。それが縁で2001年にスロバキアへ移住し、大学と大学院で映画テレビ学科の劇映画監督を専攻。博士課程修了後2012年にアフガニスタンに帰国しました。
Q:アフガニスタンはいつもテロなどと関連付けられて語られてしまうので、違う映画を作りたかったと聞きました。女性たちの映画を作りたいと思った理由をお教え下さい。
アフガニスタンについての映画では、テロや爆発などが取りあえげられる映画が多く、ステレオタイプ化されています。そうではなく、普通のアフガニスタンを見せたかったです。カブールは普通の都市であること、普通の人々の普通の生活があることなどを表現したかったんです。アフガニスタンの女性は、英雄か、被害者、犠牲者として二極化して描かれることが多いですが、普通の女性はその間のどこか、グレーゾーンに位置しています。そういう普通の女性を描きたかったんです。他の国によって製作されたアフガニスタンの映画は、そのようなステレオタイプに陥りがちなので、アフガニスタンのリアルな物語を語りたかったです。国内の各地を旅して見聞きしたことがインスピレーションとなっていて、本作はアフガニスタンで実際によくある女性の物語です。そのため、街の長回しや、服装、食事、家の様子がわかるように撮影しました。
Q:本作で3人の女性を描かれましたが、この3人の状況を選んだ理由を教えてください。
さきほども申し上げましたが、アフガニスタンの各地を回り、色々な女性の話を聞きました。そして、少なくとも社会背景に多様性が出るように、それぞれ違うバックグラウンドを持つ女性たちのことを語りたいと思いました。なので、アフガニスタンの、主婦と、自立した女性と、ティーンエイジャーの状況を見せることにしました。なぜかというと、どうしても見せたかったのは、置かれている状況が違っても、3人とも同じ問題を抱いているということだからです。結局同じところに至るんですね。つまり、家父長制の社会や反女性的な社会に生まれれば、バックグランドは関係ないんです。同じ問題に直面すれば(誰でも/社会的背景に関わらず)同じような決断に至るということです。
Q:本作のキャスティングについて教えてください。
私は素人を起用したんです。ハヴァを演じたのは私の親友でフィンランドに住んでいるので、アフガニスタンに来るようお願いしました。ミリアムはスポーツウーマンで、いくつかの映画に出たことがあります。アイーシャはプロの女優です。でもそれ以外、みな素人で、プロの役者ではないです。色々な場所で見つけた人々に出てもらうことにしました。
Q:本作は2019年に作られましたが、2021年にタリバンがアフガニスタンを制圧しました。女性たちの状況は本作で描かれている状況からどのように変わりましたか?
この映画に出た人はみんな、アフガニスタンを去りました。タリバンの再支配によって、状況は永久に変わってしまったんです。女性達の状況は、再び石器時代に押し戻されてしまいました。学校に行けないし、映画にも出られないし、仕事もできません…女性をめぐる状況は悪化の一途を辿っています。私は、本作のような映画を、アフガニスタンでは、タリバンが存在する限りもう撮ることができません。本当に何もかも変わってしまったんです…この20年間で前進し達成されてきたたくさんのものが失われたんです。
Q:本作のどの部分が日本人の観客に興味を持ってもらえると思いますか?
女性に関する問題は大概、世界中で同じようなものなんですけれども、対するアプローチやハードルのレベルが異なります。アフガニスタンのような家父長制社会の中で育ってきた女性は、女性を守るシステムや法律がないから、自分の権利や他の色々なもののために、戦わなければならないです。日本でもきっと女性に関連する問題がたくさんあると思いますが、少なくとも、女性を守る法律もあるでしょう。でも、きっと、似たような問題を抱えているはずです。ただ、その困難さや、方向性が違うだけです。でもきっと日本の上の世代の女性はハヴァにとても同感できると思います。特に地方に住んでいる女性たちは、ハヴァと同じような生活を送ってきたかもしれません。都会の女性や、自立した女性やパワフルな女性は、どこであっても何らかの困難や問題に直面しがちだと思います。
Q:最後に読者にメッセージをお願いします。
読者の皆様、映画館にお越しいただいて私の映画をご覧いただき、アフガニスタン、アフガニスタンの女性とアフガニスタンのリアルなストーリーを支持していただけたらうれしいです。
『明日になれば〜アフガニスタン、女たちの決断〜』
2022年5月6日(金)より、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
監督・脚本:サハラ・カリミ
脚本:サミ・ハシブ・ナビザダ
出演:アレズー・アリアプーア フェレシュタ・アフシャー ハシバ・エブラヒミ
配給:NEGA
【ストーリー】 アフガニスタンの首都カブール。妊婦のハヴァ(アレズー・アリアプーア)は認知症を患う義母の世話をしながら、家事に追われる日々を送っている。身重の彼女を気遣うことなく、用事を言いつける義父と、連日のごとく友人を自宅に招き入れる夫。そんな彼女の唯一の喜びは、お腹の中にいる子どもと話すことだけだった。一方、ニュースキャスターのミリアム(フェレシュタ・アフシャー)は結婚していた7年もの間、浮気三昧だった夫と離婚しようとしていたが、妊娠していることが発覚する。復縁を懇願する夫ファリードにうんざりしながらも、仕舞い込んでいたウエディングドレスを手にするミリアム。そして、結納の日を迎えたアイーシャ(ハシバ・エブラヒミ)には家族に言えない秘密があった。問題を解決するため、友人のマルジェに協力を仰ぐアイーシャだったが、そのためには多額のお金が必要だった。彼女たちが時同じくして向かった場所とは…。
©2019 Noori Pictures