新世代のトランスジェンダーのアイコンとして注目されるサリー楓が、“女性”として踏み出した瞬間を追ったドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』が、6月19日より公開されることが決定した。併せて、メインビジュアルと場面写真がお披露目となった。
慶應義塾大学で建築を学び、大手建設会社に内定し、8歳からの夢だった建築家としての未来を歩み始めた楓。男性として入学し、女性として卒業し、社会に出ていく中で、彼女は世間にある“トランスジェンダー”という既成概念に疑問を抱く。そして自らのビューティーコンテスト出場、LGBT就職支援活動、講演活動などを通し、これまでのステレオタイプとは違う、新しいリアルな“一個人”としてのトランスジェンダー女性像を打ち出そうとする。しかし、そんな中で楓の心には、父親の期待に応えられなかった息子としてのセルフイメージが残っていた。新しい自分、本当の自分として世界に出た時に、家族はそれをどう受け止めるのか。その対話にもカメラは同行する。さらに楓は日本の“トランスジェンダー”を代表する存在である、はるな愛との対話を通し、世間の求めるレッテルに抗うがあまり、いつの間にか自分もがんじがらめになって「闘い過ぎている」ことに気づかされる。何かを志し、何かを変えようとしたことがある人であれば、誰もが経験するだろう挫折、葛藤…。そこには、“自分らしく”生きるためにもがき苦しむ、青春の1ページがあった。
監督は、ニューヨークで映画製作を学び、三宅洋平の選挙活動を撮った『選挙フェス!』が話題になった新進気鋭の杉岡太樹、エグゼクティブプロデューサーは、世界トップ5のビューティーコンテストのディレクターで、今秋に日本で初開催するプラスサイズ女性のビューティーコンテスト「Today’s Woman」を主催するスティーブン・ヘインズが務める。
サリー楓と共にLGBT就職支援活動を行う株式会社JobRainbow代表の星賢人、星真梨子、日本アカデミー賞2冠に輝いた映画『ミッドナイトスワン』の脚本監修を務め、女の子になりたい男性を応援する「乙女塾」を主宰する西原さつき、浄土宗の僧侶でミス・ユニバース世界大会のメイクを担当し、Netflixの人気番組『クィア・アイ』日本シリーズに出演した西村宏堂など、新時代の旗手たちが登場するのも見逃せない。
サウンドトラックには、エレクトロニクスと生楽器を調和させ、力強さと繊細さを自然体で同居させるtickles、あいみょん「愛を伝えたいだとか」のリミックス、BAD HOPへの楽曲提供で知られるLil’Yukichi、さらにはyutaka hirasakaやAlly Mobbsなど国内外の評価が高く多様なバックグラウンドを持つアーティスト陣が参加する。
本作は日本映画史上初、ロサンゼルス・ダイバーシティ・フィルムフェスティバルでドキュメンタリー賞を受賞し、数多くの海外映画祭にて評価・注目されている。
▼スタッフ&キャスト コメント
■サリー楓(出演)
2018年の夏、プロデューサーのスティーブンから「Could we film your documentary?(君のドキュメンタリーを撮らないか?)」と言われた。LGBTドキュメンタリーって嫌いなんだよな…と、心の中でつぶやいた。私にとって、LGBT当事者だということは、数あるアイデンティティの一つにすぎないからだ。私は20年以上の男子生活をコンプレックスに感じているが、誰しもコンプレックスの一つや二つはあるだろう。LGBTを取り巻くステレオタイプな主張は、「嫌い」を通り超えて、虚しいとすら感じる。私のLGBTっぽい部分だけが取り上げられ、あたかもそれが私の全てであるかのように見せられるのは御免だ…。とにかく、私は、矛盾を抱えたままドキュメンタリーの撮影を承諾した。しかし、ここに、すべての人たちに観てほしいドキュメンタリー映画が生まれた。特に、「自分は“すべての人たち”に入らない」と思っている、すべての“あなた”に観てほしい。世の中は私たちをステレオタイプに捉え、知っているカテゴリーに分類する。カテゴリーがあることで得られる理解もあれば、カテゴリーがあることで受ける苦痛もある。だから、やっぱり、私はLGBTドキュメンタリーが嫌いだ。ところで、あなたに質問したいことがある。「この映画は、LGBTドキュメンタリーだっただろうか」You Decide.
■Steven Haynes(エグゼクティブプロデューサー)
私は楓に出会ったその時、彼女に尋ねました。「あなたは自分が美しいと思いますか?」彼女の答えはこうでした。「あなたが決めてください」私は、この映画が私たちの人生に必要な会話のきっかけになることを心から願っています。憎しみは無関心から始まるのですから、一緒に学んでいきましょう。この映画の核心は、LGBTQの人間が、安全に、自由に、幸せに世界を生きたいと願う人生を描いていることです。…それは求めすぎなことですか?だからこそ、若い人と心の若さを保つ人々が立ち上がり、声を上げ、日本がただ黙っている国ではなく、過去を振り返りながらも、私たちが自身を尊重しながら前進していることを世界に示さなければならないのだと思います。太陽が沈む前に、日本の良心と愛をみんなに感じてもらいましょう。
■杉岡太樹(監督)
この映画は、楓とスティーブンと僕、考え方も目的も違う3人が中心になって、様々なバックグラウンドを持つ出演者や制作陣と共に作りました。たくさんの衝突や苦境を乗り越えて、ついに本作の公開を迎えることができるという事実こそが、多様性の結晶にほかならないと自負しています。一方で、近年目にすることが増えてきた「多様性」や「ダイバーシティー」という言葉の使われ方には、どこか排他的な空気を感じます。画一的なポリティカル・コレクトネスに沿った「多様性」を包摂できない人は、まるで存在してはいけないかのように扱われていないでしょうか。男性に生まれた楓が女性として生きようとする意志も、その息子の決断に戸惑う楓の父親の感情も、誰にも蹂躙されるべきではないと思います。より多くの選択肢が認められる自由な社会を目指したい。だからといって、今はまだその選択肢を認められない人を第三者が悪者として非難する必要もないはずです。多様性を含む社会では、理解できないことを理解できないまま受け入れ、共存する必要があるはずで、それは表面的には白黒はっきりせず、一筋縄ではいかないでしょう。そして、忍耐力が必要です。そのような「厄介でめんどくさいコミュニケーション」を尊ぶことが、本当の自分を恐れずに生きていく唯一の保証になる。そう信じてこの映画を作りました。
『息子のままで、女子になる』
6月19日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開
監督・制作・撮影・編集:杉岡太樹
エグゼクティブプロデューサー:Steven Haynes
音楽:tickles yutaka hirasaka Lil’Yukichi Takahiro Kozuka Ally Mobbs ruka ohta
出演:サリー楓 Steven Haynes 西村宏堂 JobRainbow 小林博人 西原さつき はるな愛
配給:mirrorball works
【作品概要】 男性として生きることに違和感を持ち続けてきた楓は、就職を目前に、これから始まる長い社会人生活を女性としてやっていこうと決断する。幼い頃から夢見ていた建築業界への就職も決まり、卒業までに残された数か月のモラトリアム期間に、楓は女性としての実力を試そうとするかのように動き始めた。ビューティーコンテストへの出場や講演活動などを通して、楓は少しずつ注目を集めるようになる。メディアに対しては、自身が活躍することでセクシャルマイノリティの可能性を押し広げたいと語る楓だが、その胸中には、父親の期待を受け止めきれなかった息子というセルフイメージが根強く残っていた。社会的な評価を手にしたい野心的なトランスジェンダー女性と、父親との関係に自信を取り戻したいとひそかに願う息子。この二つの間を揺れながら、楓はどんな未来をつくり上げていくだろう。これは、社会の常識という壁に挑みながら、自分だけの人生のあり方を模索する新しい女性の誕生ストーリーである。
©2021「息子のままで、女子になる」