諏訪敦彦監督が岩手県大槌町にある天国につながるといわれる“風の電話”をモチーフに描いた『風の電話』が、1月24日に公開初日を迎えた。それを記念して、1月25日に新宿ピカデリーにて公開記念舞台挨拶が行われ、モトーラ世理奈、西島秀俊、三浦友和、諏訪敦彦監督が登壇した。
初めに、主人公のハルを演じたモトーラ世理奈は「こんにちは。来てくださってありがとうございます」と感謝の気持ちを述べた。それに続き、「今日は作品についてたくさんお話したいです(西島)」「映画を楽しんでください(三浦)」「今日は、お越しいただいて嬉しいです(諏訪監督)」と会場へ集まった観客たちへの感謝を述べた。
司会から全国公開を迎えた今の心境を問われたモトーラは、「昨日ついに公開して、私もピカデリーに見に来て…」と発言すると、共演者たちから「ここに来たの!?」「絶対ばれてるよ(笑)」と驚きの声が上がったが、「いろんな気持ちになりました。公開をすごく嬉しく思います」と嬉しさを噛みしめつつ「一番後ろの端の席に座ってたんですけど、こうやって覗きながら皆さんがどういう風に見ているのか気にしてました」とはにかんだ。
本作の主演をオーディションでもぎとったモトーラ。即興芝居での「最初は台本があって、『風の電話』のお話をいただいてオーディションの前に台本を読んで、やりたくないって思ったんです。小さいころから親子とか家族が亡くなっちゃう話は本当に一番悲しくなってしまって。今回まさにピンポイントで。でもオーディションの日は来てしまったので…」と明かすと「よかったです、来てくれて」と諏訪監督が安堵の声を上げた。モトーラは「二回目のオーディションの時はもう台本がなくて、オーディションで初めて即興芝居をやった時に、なんだか自然に相手を感じられて、自分も自然にできて、何となく私は即興芝居あってるかも。って思いました。(撮影で)広島に行った時も主役のハルちゃんが住んでる家のにおいとかどんな温度なのかなとか、そういういろんなものを感じられてお芝居する相手を感じられて、気持ちよくて、楽しくて、即興芝居でやれたのがよかったなと思ってます」と語った。
諏訪監督は「モトーラさんだけが全く違う存在感。最初の頃は1つ質問すると数分、答えが返ってこなかったんですよ。答えを待ってるんですけど、それを見ていて飽きないというか、ずっと見ていられるなと。それはもう映画的な存在だと思いました。言葉だけでなく何かが常に出ていて、それを僕たちは感じてしまう」とモトーラを主役に抜擢した理由を語った。
西島は「最初に台本をもらっていたのですが、震災の被害にあった方のお話を聞いて、小さいころどんな風に過ごしたとか、趣味とか好きなものとか、ありとあらゆるものをお聞きしました」と被災地に寄り添う役作りを語り。モトーラについて質問されると「会ってすぐ、今現場でやらなければいけないことを一番わかってる人で、ぼくがむしろ教えてもらいたいぐらいの、諏訪監督の映画でやらなきゃいけないこと、やってはいけないことがはっきりわかってる人だと思いました。この現場がどういう風に進んでいるのか、彼女を通して知りたいなと思うぐらいしっかり出来上がっていた」と絶賛した。
続く三浦は「モデルさんの雰囲気がありますけど、映画では女子高生の役なんですよ。その違和感が全くなく、すっと入っていける」と語る三浦の言葉にじっと耳を傾けるモトーラに「見ないでくれる?(笑)この人が見ていると本当に緊張するんですよ。何していいかわからなくなる、そんな感じが写ってると思うのでそこを見てください」と場を和ませた。
ベテラン俳優達が大絶賛し、感想を求められたモトーラは「嬉しいのと、ありがとうございます」と照れながら感謝した。逆に二人の印象を聞かれるとモトーラは「撮影は順撮りで撮っていって、(物語の)最初に三浦さんに助けてもらうんですけど、三浦さんに会ったというよりも、公平(役名)さんと会ったって思いのほうが強くて。私自身ハル自身も公平さんに救ってもらったという想いが強かったです。西島さんも、撮影を振り返ると、あんまり西島さんと話した記憶がなくて、カメラが回ってないところでも西島さんのことを森尾(役名)と思って話していたんだなって思った」と撮影時を振り返った。
諏訪監督は「どんな作品になるんだろうって思いながら作っていました。モトーラさん・ハルと一緒に旅をしていくような撮影でしたね。その途中でいろんな人と出会ってまた別れていく。ハルと一緒になってなんか温かい気持ちになって、さよならって去っていく。嬉しさと寂しさを感じながら撮影しました。久しぶりに撮影する日本を噛みしめながら、一人の傷ついた女の子と一緒に旅をしていく。いろんな人がいろんな困難や傷を負っていたりとか、一生懸命生きてる中、そこにそっと寄り添うものでありたいなと思っています」と本作に込めた想いを語った。
続いて本作がベルリン国際映画祭ジェネレーション部門に出品することに話題は移り、「映画を作ってるときは目の前の撮影の中で、もがきながら撮影しているんですが、一人の少女の旅というささやかな話が僕たちの想いがベルリンに伝わってよかった。出品する部門は若い子たちが観客として来るんですが、映画が新しい出会いを生んでいくことを楽しみにしています」と監督は喜びを語った。
最後に、モトーラは「来てくださってありがとうございます。ハルと一緒に旅を楽しんでください」と締め、観客たちは続く上映に期待を膨らませていた。
『風の電話』
1月24日(金)より全国公開中
監督・脚本:諏訪敦彦
脚本:狗飼恭子
音楽:世武裕子
出演:モトーラ世理奈 西島秀俊 西田敏行 三浦友和 渡辺真起子 山本未來 占部房子 池津祥子 石橋けい 篠原篤 別府康子
配給:ブロードメディア・スタジオ
【ストーリー】 17歳の高校生ハル(モトーラ世理奈)は、東日本大震災で家族を失い、広島に住む伯母、広子(渡辺真起子)の家に身を寄せている。心に深い傷を抱えながらも、常に寄り添ってくれる広子のおかげで、日常を過ごすことができたハルだったが、ある日、学校から帰ると広子が部屋で倒れていた。自分の周りの人が全ていなくなる不安に駆られたハルは、あの日以来、一度も帰っていない故郷の大槌町へ向かう。広島から岩手までの長い旅の途中、彼女の目にはどんな景色が映っていくのだろうか。憔悴して道端に倒れていたところを助けてくれた公平(三浦友和)、今も福島に暮らし被災した時の話を聞かせてくれた今田(西田敏行)。様々な人と出会い、食事をふるまわれ、抱きしめられ、「生きろ」と励まされるハル。道中で出会った福島の元原発作業員の森尾(西島秀俊)と共に旅は続いていき…。そして、ハルは導かれるように、故郷にある“風の電話”へと歩みを進める。家族と「もう一度、話したい」その想いを胸に…。
©2020 映画「風の電話」製作委員会