『散歩する侵略者』公開記念! 松田龍平の魅力に心を侵略されるドラマ&映画5選!

『LOFT ロフト』(’05)『岸辺の旅』(’15)の黒沢清監督が、長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己ら豪華キャストを迎え、劇団イキウメの人気舞台を映画化。数日間行方不明だった末にまるで別人になって戻って来た夫と、その妻。一家惨殺事件をはじめ、頻発する不可解な現象を追うジャーナリストと、彼が出会う謎めいた少年、少女。「地球を侵略しに来た」と語る者たちとその周囲の人々の関係を軸に、世界崩壊の危機が描かれていく。
今回は、人類の“概念”を奪うことで地球をじわじわと侵略していく者たちの出現を描いた『散歩する侵略者』にちなみ、「侵略者」に体を乗っ取られてしまった夫を演じる松田龍平の魅力に、じわじわと心を奪われ(侵略され)るドラマ&映画5選を紹介する。

【メイン】

『御法度』

大島渚監督が13年ぶりにメガホンを取った、松田龍平の役者デビュー作。司馬遼太郎の短編小説集「新撰組血風録」に収録された物語を元に、新撰組を男衆の視点から描いた時代劇。
大島監督に直接出演を依頼された当時中学3年生だった松田が、はじめは受験を理由にオファーを断ったものの「受験が終わるのを待つ」という監督の言葉に出演を引き受けた、というのは有名な話だが、蓋を開けてみれば、松田は数ある隊士の中で一際異彩を放つ美男剣士・加納惣三郎役を、唯一無二の存在感で怪演。その容姿と堂々たる演技が注目を集め、日本アカデミー賞をはじめとするその年度の新人賞を総なめにした。そもそも役者という仕事自体に興味がなかったという彼を口説き落とし、奇しくも自身の遺作となった作品に出演させたことで役者の道へと導いた大島監督。松田のその後の活躍を見れば、その眼力はさすがとしか言いようがない。まだあどけない表情の松田から漂う、十代のその時にしか出せなかったであろう色気にハッとさせられる。

『青い春』

漫画家・松本大洋の「青い春」に収められた数編の短編マンガを元に、学校の屋上で、柵の外に立ち手を叩く回数を競うゲームを行なう男子高校生たちの、閉塞感に満ちた青春を描く。本作は、松田自身が役者として初めて自分で選択し出演した作品であり、その後さまざまな作品で共演することになる新井浩文や瑛太とも初共演を果たしているという点でも興味深い一作だ。
松田が演じるのは、ゲームに勝ち学校の頂点に立つものの、そこに何の価値も見出せない、無気力な主人公・九条。その役どころには、松田自身が醸し出す、感情が読めるようで読めない、何を考えているのか分からない不思議な空気……、そんな独特の雰囲気がそのまま投影されており、松田の役者としての魅力がくっきりと映し出されている。

『まほろ駅前多田便利軒』

三浦しをん原作の小説を、瑛太と松田龍平主演で映画化した人間ドラマ。東京郊外で便利屋を営む多田(瑛太)と、彼のもとに転がり込んできた同級生の行天(松田)が、さまざまなワケあり客たちと出会い、依頼を解決していく姿を追う。
飄々としてつかみどころのない、自由奔放な変わり者・行天役は、いい意味で肩の力が抜けた演技をするようになってきた松田のはまり役としても名高い。同時期にオファーを受けた映画『探偵はBARにいる』シリーズでも、主人公の運転手兼助手を務める“自由人”の高田を演じており、松田自身、同じバディものであることも含め、行天と似たようなキャラクターを演じることに不安を覚えたというが、結果、それぞれのキャラを見事に演じ分けて見せた。そんな松田の仕事ぶりが伺える2作品を見比べてみるのも面白いだろう。

『舟を編む』

出版社の辞書編集部を舞台に、新しい辞書づくりに取り組む人々の姿を描き、2012年本屋大賞で第1位を獲得した三浦しをんの同名小説を映画化。独特の視点で言葉を捉える能力を買われ、<辞書は、広大な「言葉の海」を渡る「舟」>という観点から編纂する新しい辞書「大渡海(だいとかい)」に取り組む辞書編集部に迎えられた馬締光也(松田)は、個性的な編集部の面々に囲まれ、辞書づくりに没頭していく。
松田は本作で第37回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞などを獲得。どちらかというとクールな役どころを演じる印象の強かった松田が、地味で物静かだが、実は内に湧き出でるような情熱を秘め、丁寧に堅実に作業を進めていく馬締役を好演した。また、堅物の馬締が恋をするシーンでは、必死に言葉を紡ぎ、思い人に気持ちを伝えようともがく不器用な姿がどこか可愛くもあり、女性のハートをくすぐる。役者として、男性として、新たな魅力を観客の胸に刻んだ作品でもある。

「連続テレビ小説 あまちゃん」

脚本家・宮藤官九郎が、故郷の東北を舞台にオリジナルで描いた人情喜劇。東北地方の架空の町、北三陸市と東京を舞台に、一人の女子高生が海女になり、それをきっかけにアイドルとして成長していく姿を描く。
本作で松田が演じた、上京してアイドルを目指すヒロインのマネージャー・水口琢磨(通称ミズタク)こそ、松田が改めて世間の注目&人気を集めた役どころ。ぼんやりしたキャラにメガネ、スーツ姿で、普段は感情を表に出さないが、投げやりになりかけた主人公を田舎まで追いかけてきて「なぜ、なぜ出ない……電話に!君は!」と感情をあらわにするシーンでギュッ!っと世の女性陣の心をつかみ、その後もヒロインに振り回される姿が一気にミズタク人気に火をつけた。「“世の中をなめた風情の役”をやっている時が素晴らしいからこそ、虐げられたり大きな声で叫ばなくてはならなかったりする役を演じる松田を見てみたい」と考えていたという宮藤により引き出されたこの新たな魅力は、男性としてはどこか近寄りがたいイメージを持っていた松田の印象を柔らかいものに変え、その“ギャップ萌え”効果で多くの女性を悶絶させた。
「あまちゃん」以降、松田に恋愛要素が絡む作品が大好物!となったファンも多く、今年放送されたドラマ「カルテット」でもその魅力を爆発させていたのが記憶に新しい。そして、今回の映画『散歩する侵略者』でも、松田と長澤演じる夫婦がラブストーリーのパートを担う。SF、サスペンス、ファンタジー、ラブストーリーと、多彩な要素が絶妙なバランスで詰め込まれたこの快作の中に描かれる、愛の物語に注目だ。

無表情&無感情そうでクールで近寄りがたい……言葉だけ並べるとマイナスっぽいイメージだが、出演作ごとにそれを見事に裏切り、観客の心を鷲掴みにしていってくれる、松田龍平の役者としての力量には、まだまだ底が見えない。宮藤官九郎をはじめ、彼の意外な一面をもっと引き出したいと感じている演出家や脚本家も多いはずなので、そこから生み出されるであろう新たな化学反応を、楽しみに待ちたいと思う。(深田尚子)

『散歩する侵略者』

2017年9月9日公開
監督:黒沢清 出演:長澤まさみ 松田龍平 高杉真宙 恒松祐里 長谷川博己

©2017『散歩する侵略者』製作委員会