AIによる“命の選別”、不老不死、冷凍冬眠! 日本のSF映画が提示する近未来は、今を生きる我々の夢か悪夢か…!?

PCや携帯電話の普及を皮切りに、インターネット、Wi-Fi、SNS、スマホ、VR、リモート・ミーティング等々、最先端のテクノロジーが人間の生活にどんどん浸透し、10年前には身近になかったものが、今では当たり前のように存在している21世紀。そんな時代に呼応してか、これまでハリウッド映画の十八番だった近未来SF映画が、日本でも積極的に作られるようになってきた。(文/相馬学)

たとえば、昨年スマッシュヒットを飛ばした入江悠監督の『AI崩壊』。人工知能の開発が進み、医療をも管理することが可能となった2030年、人々の健康を管理していたAIが暴走し、生産性のない人間を消すという“命の選別”を開始。開発者は、この危機を食い止めることができるのか?

AI搭載のデバイスが人体の異常を素早く発見し、病気の早期発見につなげるシステムは、人間にはありがたいテクノロジー。しかし、それを駆使する人間が、つねに正しいことをするとは限らない。社会的格差の広がりや高齢化といった、日本の現実を踏まえた物語はリアリティが宿り、絵空事とは言い切れない怖さを感じさせる。人工知能が人間の脳を超えるとされる、いわゆる“2045年問題”がAI研究者の間では議論されているが、本作が描く未来は、そこにもつながっているようで興味深い。

『AI崩壊』ブルーレイ&DVD
発売/レンタル中
発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
監督・脚本:入江悠
出演:大沢たかお 賀来賢人 広瀬アリス 岩田剛典 髙嶋政宏 芦名星 玉城ティナ 余貴美子 松嶋菜々子 三浦友和

注目の新作に目を移そう。カリスマ的なSF作家ケン・リュウの原作に基づく『Arc アーク』は、死を超えようとするテクノロジーを描いている。最愛の者を亡くした人のために、その遺体を生きていたままの姿で保存する“ボディワークス”という技術。そこから発展し、不老不死を可能にするテクノロジー。それらの技術に触れ、永遠の命を得た女性の数奇な運命の物語が展開する。

不老不死はSF設定の定番だが、それが実現したとき、自分はどうするだろう? そんな問いかけを投げかける点が本作の妙味。本作では不老不死の世界が必ずしも幸福ではない未来をもシミュレーションしてみせる。自殺願望が高まったり、出生率が低下したりする社会は理想と呼べるのか? 『蜜蜂と遠雷』の俊英、石川慶のリアルな描写や、ヒロイン、芳根京子の体を張った熱演に注目しつつ、考えてみたい。

『Arc アーク』
6月25日(金) 全国公開
監督・脚本・編集:石川慶
出演:芳根京子 寺島しのぶ 岡田将生 清水くるみ 井之脇海 中川翼 中村ゆり 倍賞千恵子 風吹ジュン 小林薫
配給:ワーナー・ブラザース映画

もうひとつ、注目したいのがSF小説の大家ロバート・A・ハインラインの名作を、日本に舞台を置き換えて映像化した『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』。何者かの罠に落ちて1995年に冷凍冬眠させられ、2025年の世界で目が覚めた若き科学者。愛する者の死を知った彼は、彼女を救うために知識とテクノロジーを武器にして奔走する。

こちらはタイムトラベルを題材にしており、ファンタジーに寄った物語。人間そっくりのロボットが社会に溶け込み、テクノロジーの発展も顕著だ。しかし、どんなに技術が進んでも、大切なものは変わらない。『ソラニン』の三木孝浩監督が演出するドラマは、テクノロジーの進化に左右されない、普遍の人間的な感情に肉迫する。山﨑賢人のエモーショナルな演技も見どころだ。

『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』
6月25日(金) 全国公開
監督:三木孝浩
出演:山﨑賢人 清原果耶 夏菜 眞島秀和 浜野謙太 田口トモロヲ 高梨臨 原田泰造 藤木直人
配給:東宝 アニプレックス

今後の話題作では、『CASSHERN』の紀里谷和明監督が山田孝之やGACKTを主演に迎えて、国家システムが崩壊した後の日本を描く『新世界』の公開が2022年に予定されている。映画が提示する近未来は、今を生きる我々の夢なのか? それとも悪夢なのか? ひょっとして、それは先の日本を映し出す預言では!? 起こりうる近い将来を占ううえでも、これらの映画はぜひ体験しておきたい。

©2019 映画「AI 崩壊」製作委員会 ©2021 映画『Arc』製作委員会 ©2021 映画「夏への扉」製作委員会