プロデューサーのジュリー・ガイエが語る、名匠アニエス・ヴァルダの生き方と映画製作『顔たち、ところどころ』インタビュー

名匠アニエス・ヴァルダとアーティストのJR(ジェイアール)が共同で監督を務めたドキュメンタリー映画『顔たち、ところどころ』が9月15日より公開となる。このほど、プロデューサーを務めたジュリー・ガイエが、アニエス・ヴァルダ監督や本作の製作についてインタビューで語った。併せて、新ポスタービジュアルがお披露目となった。

「ヌーヴェルヴァーグの祖母」とも呼ばれる女性映画監督の先駆で、カンヌ、アカデミー両賞で名誉賞を受賞しているアニエス・ヴァルダと、大都市や紛争地帯といった様々な場所で、そこに住む人々の大きなポートレートを貼り出すアートプロジェクトで知られるアーティスト、JR。本作は、年の差54歳のふたりが、フランスの田舎街を旅しながら人々とふれあい作品を一緒に作り残していくロードムービー・スタイルのハートウォーミングなドキュメンタリー。第70回カンヌ国際映画祭ではルイユ・ドール(最優秀ドキュメンタリー賞)を受賞、本年度のアカデミー賞にもノミネートされ、世界中の映画祭を席巻した。

プロデューサーを務めたジュリー・ガイエは、アニエス・ヴァルダ監督の『百一夜』に出演し、『エイト・タイムズ・アップ』では東京国際映画祭の最優秀女優賞を受賞するなど女優として活躍している。昨今では映画のプロデュースも手掛け、本作のほか、『RAW~少女のめざめ~』、『判決、ふたつの希望』(8月31日公開)などをプロデュースし、今年は配給会社ルージュ・インターナショナルを立ち上げた。

▲ジュリー・ガイエ

■ジュリー・ガイエ(プロデューサー) インタビュー
Q:アニエス・ヴァルダとの出会い
私がまだ若き女優だったころ、ヴァルダが監督した、映画発明百年を記念した映画『百一夜』に出演しました。彼女と色々と交流しているうちに、(映画監督の)ブニュエルをはじめ、私の知らなかったいろんな作品を発見させてくれました。その後、私の監督作である『シネアスト』(日本未公開)にも出てもらったり…。私にとって彼女は家族のようなものです。女性としての生き方、フェミニストとしての精神を彼女から学んだし、市場に媚びることのない映画をつくるための闘いがどのようなものかを教えてくれました。彼女との出会いによって、私は映画のプロデューサーになろうと思ったんです。

Q:本作をプロデュースしたきっかけ
当初この映画は、ヴァルダの娘のロザリーが一人でプロデュースする予定でした。でもファイナンスの問題でなかなかそれが難しい状況だったのです。私はとても驚きました。「ヴァルダのような大監督でもお金を集めることがこんなに難しいの?!」と。結局、クラウドファンディングを利用して資金を集めました。シナリオを見た段階ではどんな作品になるかわからないという不安要素はありますが、実際問題、女性映画監督にはやはりガラスの天井があると感じています。小さな予算は付きますが、大規模な予算の作品を作るのは難しいです。私はプロデューサーの仕事は女優の仕事と同じで、監督の頭に入っていくことだと思います。監督がやりたいことを通訳していく。そのために、配給や映画祭を選んだり、お金集めだけでなく、外部からの目線を監督に伝える仕事だと思います。

Q:本作の魅力
70年にヴァルダが撮った『Mur mur』というストリートアートの映画を観ると、やっぱり彼女は当時から日常の中で生きている人たちとの会話・心の交流というものを大切にする人なんだと実感しました。JRも全くその方向にいるアーティストですよね。すごく寛容な心を持っていて、黒のサングラスの裏にとても繊細な「人と触れ合いたい」という気持ちを持っている人。元々、二人とも写真を撮るというところで通じ合うものがあったんですけれども、「継承する」というテーマを持った映画でもあるんです。目が見えなくなってきているヴァルダが、JRと一緒に写真を撮り残していく。「もう二度とここへは来れないかもしれない」と思いながら、これまで背負ってきた色々をJRに受け継いでいく。舞台は「フランスの田舎」ですが、どこの世界にも通じる物語です。「人々とふれあうこと」についての、普遍的で誠実な映画だと思います。

Q:あなたにとってヴァルダとは?
「私は監督であるけれども、1人の女性であり、母である」ということを常に強調してきた人。ヴァルダが昔、撮影現場に子どもを連れてきた事を咎められた時に“映画は私にとって重要なものだけど、同時に私の息子は私の人生の一部。だからここにいてあたりまえ”とキッパリ答えたというエピソードもあります。自分の人生を最優先して、プライベートも映画の中に取り込んでしまう。彼女の人生は彼女のクリエイターとしての仕事に反映されているんですよね。私は仕事は仕事、プライベートはプライベート、と分けて考えてしまいがちですが、ヴァルダのこの姿勢はほんとうにすごいと思います。私は彼女からフェミニストの精神を受け継いだと言いましたが、彼女と一緒に作品を作ってからは、「闘う女」ではなく「諦めない女」になったと思います。

『顔たち、ところどころ』
9月15日(土)より、シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
監督・脚本・ナレーション・出演:アニエス・ヴァルダ JR
音楽:マチュー・シェディッド(-M-)
配給:アップリンク

© Agnès Varda – JR – Ciné-Tamaris – Social Animals 2016.