2016年のイタリア・ゴールデングローブ賞にて最優秀脚本賞を受賞した、3人の少年少女の恋と友情を描く青春映画『最初で最後のキス』が6月2日より公開となる。それに先立ち、5月25日、なかのZERO小ホールにて学生限定試写会が開催され、評論家の荻上チキとユーチューバーのかずえちゃんが登壇した。
本作は、イタリアの高校を舞台に、大切な絆や未来を無知ゆえに自ら破壊してしまう青春の残酷さを描き、いじめや差別がネットやSNSによって若者をさらに過酷な状況へと陥らせている様を繊細にリアルに映し出す。イベントでは、約3年にわたり滋賀県大津市の「大津市いじめの防止に関する行動計画の評価に係る懇談会」委員を務め、現在も特定非営利活動法人「ストップいじめ!ナビ」の代表理事である評論家の荻上チキと、ゲイであることをカミングアウトし性的少数者について発信し続けるユーチューバーのかずえちゃんが、学生たちとLGBTやいじめについて語り合った。
■トークイベント レポート
荻上:映画『最初で最後のキス』はいかがでしたか?
かずえちゃん:最後のシーンで全てふっとんでしまうぐらいビックリしたのですが、とても切なかったです。
荻上:映画の原題は「ひとつのキス」といいますが、登場人物の彼らにとって、どうゆう意味を持つのか、深い意味合いがこめられています。その「キス」を一つの象徴として、はじかれ者同士が友情を紡いでいく彼らの関係性と、周りの目っていうのを気にせずにはいられなくなったがゆえに追い詰められていく、教室空間での周りからの蔑みとか、そうしたまなざしが攻撃的に彼たちを追い込んでいくという主題でした。ご自身の学生時代を振り返って、描かれ方についてはどう思いましたか?
かずえちゃん:僕のセクシャリティはゲイですが、主演の彼とは違って、学生時代はずっと隠していました。ですので、学生時代にゲイということでいじめや嫌な思いはしたことはないのですが、この映画にも出てきましたけど、女っぽいとかオカマなどとからかわれたりはしました。
荻上:統計でもセクシャルマイノリティ、トランスジェンダーの方は、ヘテロセクシャルに比べると、いじめにより多くあっているとあります。そのような状況の中で、主人公のロレンツォは自分をポジティブに出しながら、あえて争うためにカラフルに彩って、地方にもかかわらずオープンにして生きている。ブルーやアントニといった彼の友人たち、彼らの悩みなどの描かれ方はどうでしたか?
かずえちゃん:これはイタリアの映画ですが、日本の教育現場、学校でもあることだしリアルだなと思いました。16、17歳の悩みはイタリアでも日本でも変わらない。ゲイということだけでなく、恋愛のことや、好きな人のことや、伝えられない気持ちとか似てると思いました。
荻上:アントニオの行動や戸惑いについてはいかがですか?
かずえちゃん:ヘテロセクシャルの男の子が、男友達からいきなり好きだと言われたら戸惑うだろうし、次からどう顔を合わせたらいいんだろうか?どうしたらいいんだろうか?ってところは、とてもリアルに描かれていると思います。
荻上:それぞれ色々な悩みをかかえていて、ブルーは性暴力の被害者だったり、アントニオは兄弟を亡くしているが、自分の方が親に期待されていなかったのではないか?など。ヘテロセクシャルという言葉がでましたが、アントニオ自身のセクシャルもヘテロなのか、それとも揺れ動いているバイセクシャルなのか、そのあたりもはっきりとはわからないですよね。アメリカでもゲイであることを隠しているからこそ、オープンなゲイに対して、ものすごく攻撃的になる共和党の議員がいました。同性婚なんて神が許すわけがないと攻撃的になっていた。それは自分が一生懸命おさえている欲望を、オープンにしている人を見て、ギャップを感じたんだと思います。
かずえちゃん:YouTubeはLGBTについて知ってくださいという意図で始めたんです。家族や友人など私の周りにはゲイの人はいないんですってよくコメントをもらったり、言われるのですが、「いない」のではなくて「言えない」ってことだと思うんですよ。「いない人」になってしまっている。自分のセクシャリティをカミングアウトしてる人は、日本では5パーセントぐらいだそうです。でも、カミングアウトしてない人たちに、カミングアウトしてください、動画に出てくださいって言えないし、声を出せる人が、その人たちの分まで発信してゆくことが大事だと思っています。同じゲイのコミュニティの人たちから、色々と発信することによって、俺たちがバレたらどうするんだって言われることもあるし、自分も隠していたからよくわかるのですが、誰かが発信しないと変わらない。僕自身は小学生の高学年から、何で女の子を好きにならないんだろうって悩んでいて、学生の時はクラスが世界の全てで、そこで人と見比べて、違うことは言ってはいけないと思って抑えていました。大人になってからは仲間もできるし、自分から声を出したり、ゲイが集まるところに行けるのだけど、学生の時はそういうところに自分で行けないですよね。カミングアウトしてなかったので「否定」はされなかったし、いじめにもあわなかったけど、僕は肯定もされなかった。ちょうどTVで保毛尾田保毛男が流行っていて、僕も笑いながら見ていたんですけど、どこかで僕も言ったら笑われるんだなと学びました。TVドラマでも男性と女性が恋愛して子供を持ってという物語しかなかったので。肯定されることは大切です。
荻上:たまにゲイの人が出てきてもキャラとして描かれていて「おかまキャラ」「ゲイキャラ」。個性としてではなく、おかしさとして描かれている。たくさんいるうちの一人、当たり前にいる存在というふうに、ナチュラルに描かれないですよね。同性愛者の「悩み」としてしか描かれない。それはそれで否定しないし、素晴らしいことだと思うけど、さらに次にいくのに急いでほしいと思います。
かずえちゃん:LGBTQの人がいるってことをまず知ってほしい。当たり前に身近にいることを知ってほしい。いまは変革時期なのかなとは思います。LGBTって、5年前、10年前は言葉もなかったかと思います。
荻上:10年前はあったかな?セクシャルマイノリティとかぐらいですかね。
かずえちゃん:今日、明日でいきなり変わるものではないですが、10年、20年かけてゆっくり変わっていく。いまはそうゆう意味での変革期なのかなと思います。
■学生からの質疑応答
学生:自分もゲイなので、かずえさんが言ってることにすごく共感できました。いまはLGBTを広げようということから同性婚を認めようという社会ですが、日本がこうなったらいいなというのはありますか?
かずえちゃん:若い頃に7年間お付き合いした人がいたのですが、若いので老後とか想像はしてなかったけど、漠然と「将来どうなるんだろう?」って思っていました。その方とお別れしてカナダに住んだのですが、彼氏ができたときに、カナダは同性婚が認められているので、同性婚ができるんだと思ったら、精神的に今まで感じたことない安定感を得られました。アメリカで同性婚が認められたときに、10代の子の自殺が減ったと聞きました。結婚自体をするかしないかは個人の自由だけど、できるとできないでは違う。日本でも同性婚できる社会になってほしいと思います。
■最後の挨拶
荻上:人のセクシャリティは基本的に放っておけと思います。無理に味方になったり、優しい仲間みたいなポジションをとらなくていい。関わらずに放っておく。無干渉だけど無関心ではなくて、何かあったら助けるよって感じがいいと思います。
『最初で最後のキス』
6月2日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
監督・原案・脚本:イヴァン・コトロネーオ
出演:リマウ・グリッロ・リッツベルガー ヴァレンティーナ・ロマーニ レオナルド・パッザッリ
配給:ミモザフィルムズ 日本イタリア映画社
【ストーリー】 イタリア北部・ウーディネ。個性的なロレンツォは、愛情深い里親に引き取られ、トリノからこの町にやって来るが、奇抜な服装で瞬く間に学校で浮いた存在に。ロレンツォは同じく学校で浮いている他の2人―ある噂から“尻軽女”とのそしりを受ける少女ブルーと、バスケは上手いが“トロい”とバカにされるアントニオと友情を育んでいく。自分たちを阻害する生徒らに復讐を試みるが、それを機に少しずつ歯車が狂い始める…。
©2016 Indigo Film – Titanus onekiss-movie.jp