9分間ものスタンディングオベーション!『万引き家族』第71回カンヌ国際映画祭レポート

『三度目の殺人』が数々の賞で称えられた是枝裕和監督の長編14作目となる最新作『万引き家族』が6月8日より公開となる。このほど、5月8日より開催中の第71回カンヌ国際映画祭 「コンペティション」部門に正式出品されたことを受け、是枝監督、リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、樹木希林、城桧吏、佐々木みゆの7名がカンヌ入りし、5月13日(現地時間)、レッドカーペットイベントと、世界の観客を前に公式上映が行われた。上映後は、約9分間もの長さのスタンディングオベーションで観客から賞賛を受けた。

カンヌの澄み渡る夜空の下、大勢のマスコミや観客があふれる中、仲良く手をつないでレッドカーペットに登場したのは、イタリアのファッションブランド、アルマーニのタキシードでビシっとキメた是枝監督、アメリカのファッションブランド、ジョン・ローレンス・サリバンのタキシードにハットを合わせクラシカルに着こなしたリリー・フランキー、フランスのファッションブランド、ルイ・ヴィトンのローズピンクのロングドレスに同じくルイ・ヴィトンのハイヒール、フランスのジュエリーブランド、ヴァン・クリーフ&アーペルのイヤリングとリングでエレガントにその存在感を示した安藤サクラ、イタリアのファッションブランド、エトロの白いレースドレスにフランスのジュエリーブランド、ブシュロンのイヤリングとリングにイギリスのブランド、ジミーチュウのハイヒールで若々しく着こなした松岡茉優、和テイストのブラックコーディネートで独自のスタイルを披露し、さすがの貫禄をみせた樹木希林、アルマーニのタキシードに身を包んだ城桧吏、白のドレスをキュートに着こなした佐々木みゆの7名。劇中曲である細野晴臣の心地良い音楽に合わせ、緊張するみゆちゃんに安藤が優しく声をかける様子も見られるなど、まるで本当の家族のような雰囲気をまとい、世界から集まった観客やメディアの歓声に笑顔で応え手を振るなどしてゆっくりと会場へと進んだ。

レッドカーペットを歩く前にインタビューを受けた是枝監督は、カンヌについて問われると「何度来ても幸せな気分になれる。帰ってこれて嬉しい」とコメント、今作のテーマについては「社会と家族の接点を描こうと思う中で、社会性を強く出したつもりです。それもあって「万引き」という言葉がタイトルにも入っているのが、すごく印象的だなと思います」、是枝監督の家族の像というのは進化してみえるという意見については「進化しているというのはよく分からないけど、血縁だけではない繋がりを求めた人たちの話というのをどうしてもやりたかったので、『そして父になる』以降に自分が向かうべきテーマだと思ってましたから、そういう意味では自分の中では一歩先へ進めたつもりではいます」と回答した。

上映後の舞台挨拶では、2200席の会場は満席、万雷の拍手で迎えられた、是枝監督とキャストたち。日本の都会の片隅に埋まった家を舞台にした家族の物語は、しっかりと世界の観客の心に届いたようで、エンドクレジットから拍手が始まり、会場が明るくなると全観客総立ちで、ブラボーや口笛や声援も混じり拍手喝采。観客の中には感動で涙を浮かべる人も見られるなど、温かい空気がダイレクトに伝わったようで、是枝監督とキャストの目にも思わず光るものが浮かび、リリーにおいては眼鏡をとり、涙を拭う姿もみられた。是枝監督は、リリー、安藤、松岡、樹木と握手やハグ、会場を360度見渡し、キャストと共に観客全員に手を振るなど歓声に応えた。全く鳴り止みそうもない拍手を切り上げようと是枝監督が移動するも、拍手は続きあまりの盛り上がりについには通路で立ち止まるほど。約9分間にもわたるスタンディングオベーションに、毎回監督に帯同するスタッフからは、こんなに盛り上がって温かいスタンディングオベーションは初めてといった声もあがるなど、まさに会場が一体となってこの傑作の誕生を喜びあった。場内を出たところでも、海外のファンに囲まれ拍手や賞賛コメントを浴び、大好評のうちに公式イベントを終えた。

以下は日本メディア向け囲み取材でのやり取り。

Q:作品への反応に対する手ごたえは?

是枝監督:出来上がって間もないので、なおしたいところはないかというのを確認しながら観てるような状況ではあるんですが(笑)ただ、2時間緊張感失わずに作れたなと思っていたのでちょっとホッとした部分と、終わった後の拍手が夜中にも関わらずあんな風に温かくそして長く頂けたので本当によかったと思います。

樹木:わたしも監督と同じ気持ちです。

リリー:改めて大きなスクリーンで観てまた今までと違う感想が浮かびましたし、監督が仰っているようにまだ撮影から間もないので、今回はやっと観る側の立場として観れた気がするのですが、改めて素晴らしいと思いました。最後頂いた拍手とか、お付き合いでしているのではなく、みなさんの表情から本当に想いの入った拍手だと感じたので、すごい良い経験をさせていただきました。

安藤:わたしも今日(観るのが)二度目なんですけど、自分が出ていることも考えずにいち観客として映画に集中して観てました。カンヌの大きなスクリーンで、隣で監督と一緒に観ることにちょっと緊張しつつ、上映後は大きな拍手を頂いて、あの盛り上がり方を受けて、なんという作品に参加させてもらえたんだろうとまだその興奮が冷めていない状態です。

松岡:私は初めてカンヌ映画祭に連れてきてもらいましたが、観客のみなさん正装で劇場もとても大きく、大人数の中で一緒に映画を観るという体験がすごく新鮮でした。そういう空間だからか一体感もあり、この大人数の方々が同じ時間でこの作品について色々なこと考えているんだろうなと思うと、素敵な時間でした。

Q:賞への手ごたえは?

是枝監督:意気込みとか手ごたえという質問が一番答えにくいので、いつもなるべくはぐらかしていたんですけど…。それ以上言えないんですけど(笑)でも、客席との一体感もある良い上映だったと思います。

Q:伝えたかったメッセージはカンヌで伝わったと思うか?

是枝監督:意気込みと手ごたえというのと同じくらいメッセージというのが答えにくい質問でして(笑)でもまぁ、“血を越えて繋がる家族というのがありうるのか”というのを自分なりに考えながらつくった映画です。今日一日取材を受けていた13人くらいの記者の内3人くらいは実は自分が養子でという方がいて、すごく切実なんですよ。血縁がなくても家族をつくることはできるのかということが。この映画はある種特殊な家族を描いてはいますけど、メッセージかはわかりませんが、根底に流れている問いかけみたいなものは普遍的なものがあるかもしれません。

Q:カンヌに到着してから今日までどんな気持ちで過ごしたか?

是枝監督:いつもは公式上映とフォトコール、記者会見が同じ日で、公式上映でほぼ疲れきっているんですが(笑)今回は順番が逆になって明日がフォトコールと記者会見だということもあり、比較的今日は余裕があります。取材は何個か受けましたけど、ブラブラキャストの皆と公式グッズを買ったり、会場に設置されている遊具で子供たちと遊んだりして、良い一日でした。

Q:公式グッズは何を買った?

是枝監督:デニムでできてるトートバックは買いました。今年は例年に比べて公式グッズのセンスがいいなと。

リリー:監督と一緒にグッズ観てたら、2人ともポーチをみてて、年取るとカバンにポーチが増えますよねって話していたんですよ。ポーチの中には胃薬とか常備薬を入れてます。(一同笑)

松岡:公式グッズめっちゃ買いました!ノート、ボールペン、トートバック、マグカップ、ミラー、缶、Tシャツ…おそらく全種類ひとつずつは買わせていただいたと思うんですけど、日本円に換算してびっくりしました、ユーロって恐いですね…でも大事に使います(笑)

Q:カンヌ来てやろうと思っていることは?

樹木:特にないです。雨が降ってとてもよかったなとは思います。いつもお天気でカンヌってそういうところだって思ってたから。土砂降りになって雷がなってたんですけど、日本から飛行機に乗っているとき、わたしの席に雷が落ちて、天井が壊れたんです。客室乗務員にすごい剣幕で酸素マスクをつけろって言われたりしましたけど、事なきを得てツイているなと思って、嬉しかったです。

リリー:以前来た際は、着いてから帰るまで一回も雨が止まなかったので、こんな天気の良いカンヌは初めてで、散歩もしましたし、時間にも余裕があってカンヌ自体を楽しめました。

安藤:うちの母の兼ねてからの夢がいつか誰かにカンヌに連れていってもらうことだと小さいときから聞いていて、今日は母の日ですし、ここはいっちょ親孝行したろって思いまして(笑)母を連れてくることができました。まさか末っ子の私が、やっと母の夢を叶えてあげることができてよかったなと思います。

松岡:カンヌは、はじからはじまで歩いて3、40分でいけると聞いていたんですけど、道が東京とは違ってデコボコしていて半分くらいしか歩けなかったので、明日は遠くに歩いてみたいと思います!

Q:カンヌ映画祭はどんな意味を持つか?

是枝監督:自分が関わっている「映画」という仕事を、もう一度背筋を伸ばして見つめなおす場所です。

樹木:私は、後期高齢者なんでだいたいなにも感じなくなってきてしまっているので。

リリー:僕は華やかなところがそんな得意ではないんですけど、華やかなんだけど映画好きが集まっているということもあるのか、僕にとって心地良いものに感じています。

安藤:とっても難しい質問で…というのも、母の夢だったりとか、小さいときから自分の家族も映画でいつかカンヌにというのを夢みてきているので、わたしの夢とか憧れというよりももっと違う場所にある高い山で、そこにひょいと監督に連れてきてもらっちゃったという感じなんです。またカンヌ国際映画祭というものが私にとってきっと形が変わるんだろうなって思っていて、なので今は一言では言い表せないです。でも今回来ることができて、今この話をしていて胸がグッとくるようななんとも言えない気持ちです。

松岡:カンヌのきれいな街並みを歩きながら思い出したのが、オーディションのときにちょっと年齢が今回の設定より若めだったんです。だから幼くみせたくて、ウェーブのかかった髪をストレートにして子供っぽくしていったんですけど、ストレートにしてよかったなって(笑)というのもあったし、わたしみたいに、飛びぬけて華やかなルックスじゃなかったりとか秀でたものがないひとも、チャンスとかラッキーとか奇跡ってあるんだなって思って。でもそれがチャンスとかラッキーじゃなくて、わたしが頑張りましたって胸を張って、ここにまた戻ってきたいなと思ったので、これからも頑張ります。

樹木:今日こうやって良い状態で立っていますけど、いいだろうな~って思っていた映画でも評判が星ひとつふたつだったりする後の反応もまたこれも味わい深いもの。(一同爆笑)でもね、今日のこの反応は監督のお陰だとつくづく思いますので、監督にお礼をいってこの場を締めさせていただきたいと思います。(一同笑)

『万引き家族』
6月8日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:リリー・フランキー 安藤サクラ 
松岡茉優 池松壮亮 城桧吏 佐々木みゆ
緒形直人 森口瑤子 山田裕貴 片山萌美 / 柄本明
高良健吾 池脇千鶴 / 樹木希林
配給:ギャガ

【ストーリー】 高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の4人が転がり込んで暮らしている。彼らの目当ては、この家の持ち主である初枝の年金だ。足りない生活費は、万引きで稼いでいた。社会という海の底を這うような家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、互いに口は悪いが仲よく暮らしていた。冬のある日、近隣の団地の廊下で震えていた幼い女の子を、見かねた治が家に連れ帰る。体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにする。だが、ある事件をきっかけに家族はバラバラに引き裂かれ、それぞれが抱える秘密と切なる願いが次々と明らかになっていく─。

(C)2018『万引き家族』 製作委員会