映画ライター 森直人&新谷里映が登壇!ダニエル・デイ=ルイス主演『ファントム・スレッド』トークイベント レポート

『マグノリア』、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のポール・トーマス・アンダーソン監督が、名優ダニエル・デイ=ルイスと2度目のタッグを組んだ映画『ファントム・スレッド』が5月26日に公開となる。それに先立ち、5月7日に渋谷・ユーロライブにて日本最速試写会が行われ、上映後のトークイベントに、映画ライター・評論家の森直人、映画ライター・コラムニストの新谷里映が登壇した。

1950年代のロンドンを舞台に、英国ファッションの中心的存在として社交界から脚光を浴びるオートクチュールの仕立て屋、レイノルズ・ウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)と、若きウェイトレスのアルマ(ヴィッキー・クリープス)との究極の愛を描いた本作。第90回アカデミー賞では衣装デザイン賞を受賞し、主要6部門にノミネートされるという快挙を果たした。

本作を2度観たという新谷は「1回目はドレスも音楽も美しい。そしてポール・トーマス・アンダーソン(以下、PTA)監督のいつもながらの完璧主義者が見える演出とカメラワーク、そして、ダニエル・デイ=ルイスも本当に素晴らしかったですし、すごい作品を観たなという印象でした。レイノルズとアルマの関係性についても、男と女の愛の形ってこういうのもあるよね、と純粋に素直に受け止めました」とコメント。2度目の鑑賞については、若きウェイトレスのアルマに言及し、「彼女のその行動が愛を手に入れるための唯一の方法だったんだろうか、という考えに行き着きました」と、1度目の鑑賞とはまるで違う印象を受けたと語った。

本作の舞台設定について、森が「イギリスを舞台にするのは、PTA監督作品では初になりますよね。僕の中では“なぜイギリスを舞台にしたのか?”という一貫した問いがあるんですけど、新谷さんが階級ということを仰っていて。彼女(アルマ)はおそらく東欧からの移民で、50年代だから戦争っていう背景があるんですよね」と話すと、「イギリスは階級社会なので、生まれた場所や結婚相手で決まるわけで、だから彼に声をかけてもらったのも彼女にとっては心の中でガッツポーズなわけですよ」と、新谷も本作の時代背景に触れながら続けた。

ファッション業界を舞台に、これまで描いてこなかった男女の愛の軌跡を綴り、ポール・トーマス・アンダーソン監督の新境地となった本作。森が「PTA監督はずっと自分の地元であるカリフォルニアを舞台にしてアメリカの歴史を語り直すってことをやってきた監督だと思うんですけど、今回、歴史性は全く掘ってないんですよね。どちらかというと今回は、自分語りに近いんじゃないかと思うんですよ。この主人公レイノルズがPTA監督に近いような気がするんですよね」と述べると、新谷は「聞いた話だと、最初に主人公が具合が悪くなって倒れてしまって看病してもらうシーンとか、その立場が逆転してしまうというのは、監督の実体験からきているって話なんですよね」と返答。続けて、「監督も完璧主義なので、映画ばかりで家族生活が疎かになっていて、家族にとってみたら“家族と映画どっちが大事なの?”じゃないですけど、そのくらい多忙な人なわけじゃないですか、でもインフルエンザにかかって寝込んじゃったら、奥さんがものすごく優しくしてくれた。ふと監督が思ったのが、“こいつ俺がずっとこうやって寝込んで弱々しくしていたら嬉しいのかな”と。それをちょっと大げさにして映画にしたという話があります」と語り、森も「じゃあ当たってるじゃないですか。そうなると恐妻妄想みたいな気もしてきますよね(笑)」と続けた。

最後に、森は「一部では、この二人のやり取りを“しょうもない”という感想があったとお聞きしたんですけど、それ、僕は賛成なんですよね。要するに、痴話喧嘩というお題をPTA監督に与えたら、凄く大げさで凄い完璧な映画が出来上がった。そういう素直なところがこの映画の好きなところです」と本作の魅力を述べつつ、「監督って同じこと描かないじゃないですか、描かないんだけども、今回の後半って『ゼア・ウィル・ビー・ブラット』の構図に似てくるんですよね。要するに、あれはくるった石油王と牧師の主従関係の反転とかパワーゲームってとこでしたけど、今回は男女であれに似た主従関係ですよね。そういうところに彼の興味が出てる気がしたんですよね」と過去のアンダーソン監督作品と比較して語り、イベントを締めくくった。

『ファントム・スレッド』
5月26日 シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
音楽:ジョニー・グリーンウッド
出演:ダニエル・デイ=ルイス ヴィッキー・クリープス レスリー・マンヴィル
配給:ビターズ・エンド/パルコ

【ストーリー】 1950年代のロンドン。英国ファッションの中心的存在として社交界から脚光を浴びる、天才的なオートクチュールの仕立て屋レイノルズ・ウッドコック。ある日、レイノルズは若きウェイトレス アルマと出会う。互いに惹かれ合い、レイノルズはアルマをミューズとして迎え入れる。レイノルズはアルマの完璧な身体を愛し、昼夜問わず彼女をモデルにドレスを作り続けた。しかしアルマの出現により、完璧で規律的だったレイノルズの日常が次第に狂い始め…。やがてふたりは、後戻りできない禁断の扉を開き、誰もが想像し得ない愛の境地へとたどり着くことになる。

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