町山智浩「奥さんに毒をもられたという妄想から生まれた」映画『ファントム・スレッド』トークイベントレポート

『マグノリア』、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のポール・トーマス・アンダーソン監督が、名優ダニエル・デイ=ルイスと2度目のタッグを組んだ映画『ファントム・スレッド』が5月26日に公開となる。それに先立ち、5月10日にYEBISU GARDEN CINEMAにてトークイベントが行なわれ、映画評論家の町山智浩が登壇した。

1950年代のロンドンを舞台に、英国ファッションの中心的存在として社交界から脚光を浴びるオートクチュールの仕立て屋、レイノルズ・ウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)と、若きウェイトレスのアルマ(ヴィッキー・クリープス)との究極の愛を描いた本作。第90回アカデミー賞では衣装デザイン賞を受賞し、主要6部門にノミネートされるという快挙を果たした。

質疑応答から始まった本イベント。本作をネタバレしないようにオススメするには?という質問に、町山は「この映画はどこに行くのかが分からないのが面白い。ラブロマンスでゴージャスで、コメディでホラー。すごく複合的」と映画の面白さを全部詰め込んでいると語った。

ポール・トーマス・アンダーソン監督は、お化けの話を作ろうとしていたという町山。「イギリスを舞台にしたゴーストストーリーがやりたかったそうです。ヒッチコックの『レベッカ』という映画があるんですけど、最初はそれがやりたかった」と説明。「ところが、監督がその時にインフルエンザにかかってしまって。監督は仕事ばかりで家庭的ではなかったので、奥さん(マーヤ・ルドルフ)が嬉しそうに看病してくれたらしんですよ。それを見た監督は、『自分はインフルエンザじゃなくて、奥さんに毒をもられたんじゃないか?』という妄想に陥ったそうです(笑)。そこでこの映画が生まれた」と、本作の誕生秘話を明かした。

インフルエンザをきっかけに「監督は家庭の為に生きるようになった」という町山。「主人公のウッドコックも最初は暴君で酷かったけど、アルマによって徐々に攻略されていく」と前置きし、「すごく面白いのは、映画を撮り終えた後、ダニエル・デイ=ルイスが俳優の引退宣言をしちゃって。彼は役に完全に入る人だから、『俺も仕事ばっかりで、家庭を放ったらかしだ…』という気持ちになっちゃった。入り過ぎだよ(笑)! 監督も『そこまで思いつめるとはねえ…』ってあきれてました(笑)」と裏話を明かし、会場を笑いで包んでいた。

『ファントム・スレッド』
5月26日 シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
音楽:ジョニー・グリーンウッド
出演:ダニエル・デイ=ルイス ヴィッキー・クリープス レスリー・マンヴィル
配給:ビターズ・エンド/パルコ

【ストーリー】 1950年代のロンドン。英国ファッションの中心的存在として社交界から脚光を浴びる、天才的なオートクチュールの仕立て屋レイノルズ・ウッドコック。ある日、レイノルズは若きウェイトレス アルマと出会う。互いに惹かれ合い、レイノルズはアルマをミューズとして迎え入れる。レイノルズはアルマの完璧な身体を愛し、昼夜問わず彼女をモデルにドレスを作り続けた。しかしアルマの出現により、完璧で規律的だったレイノルズの日常が次第に狂い始め…。やがてふたりは、後戻りできない禁断の扉を開き、誰もが想像し得ない愛の境地へとたどり着くことになる。

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