ファティ・アキン監督 × ダイアン・クルーガー主演『女は二度決断する』松崎健夫トークイベント レポート

第70回カンヌ国際映画祭でダイアン・クルーガーが主演女優賞を受賞した、ファティ・アキン監督最新作『女は二度決断する』が、4月14日より公開となる。本作の公開に先立ち、4月4日に東京ドイツ文化センターにて一般試写会が行われ、上映終了後のトークイベントに映画評論家の松崎健夫が登壇した。

ドイツで実際に起こった連続テロ事件に着想を得て生まれた本作。突然のテロにより最愛の家族を失ったカティヤは、人種差別などの障壁を前に思うように進まない裁判に絶望する中、ある決断をする。30代で世界三大映画祭の主要賞を受賞した名匠ファティ・アキン監督がメガホンを取り、『イングロリアス・バスターズ』や『トロイ』などのハリウッド大作やヨーロッパ作品で活躍するダイアン・クルーガーが、初めて母国語であるドイツ語で演技に挑戦。第75回ゴールデン・グローブ賞では外国語映画賞を受賞した。

イベントに登壇した松崎は、“ビジランテもの(自警もの)”という、古くから脈々とつながる、人気のあるジャンルについて語った上で、それが今また作られる理由について解説した。本作に関連する作品のDVDを片手に、「このジャンルはビジランテもの。古くは1960年代のマカロニウエスタンに遡るのですが、超法規的手段で悪者を懲らしめる、という物語の傾向が流行ったんです。今でこそ、俳優としてだけでなく、監督としての地位も確立しているクリント・イーストウッドは、その当時イタリアに出稼ぎに来ていて『夕陽のガンマン』などに出演し一躍ブレイク。そしてアメリカに戻ってからも『ダーティハリー』などに出演し人気俳優街道に乗っかるわけですね。イーストウッドはビジランテ出身者!」と淀みなく話した。

さらに、「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、1950年代への憧れが描かれているんです。マイカーやマイホームと言った、幸せな家や家族を象徴するアイテムが登場します。実際のアメリカも(少なからず事件はあったものの)、時代としては平和なイメージがあった。ところが、60年代に入るとベトナム戦争の勃発や、それに付随する悲しい事件が頻発し、アメリカ国民は“自分の身は自分で守らねば!”という意識を持ったのだと思います。そこで先ほどのクリント・イーストウッドに戻るわけですが、その当時の映画はハッピーエンドだけでは済まないものも多くなっていきました」と、時代の流れとそれに影響される映画の傾向について語った。

そして、なぜ今本作がドイツで作られたかについて「今のヨーロッパはまさに移民・難民の取り締まりや、右傾化の傾向とそれに反発する動きなど、社会が不安定な状態。『女は二度決断する』はファティ・アキン監督というトルコ系ドイツ人監督の手により作られましたが、アキン監督は常に自分のルーツを顧みて移民の目を持つ作品を手掛けてきました。それは、『消えた声が、その名を呼ぶ』のように悲しいものもあれば、彼の陽気な性格が表れているような『ソウル・キッチン』『50年後のボクたちは』などもまた、よくよく見てみると同じキーワードが見えてくるんです。そんなアキン監督だからこそ、今の時代の真っただ中を描く、この作品を作ったのだと思います」と、世界情勢と映画がどのように関わっているのかを分かりやすく説明した。

主演のダイアン・クルーガーについて、松崎は「これまでに印象に残っている作品は『ミシェル・ヴァイヨン』。綺麗な女優さんが出て来たな、という印象でお人形さんのようでした。ドイツ出身の彼女は、ハリウッド映画界で言うところのニコール・キッドマンやマーゴット・ロビーなどオーストラリア出身女優や、南アフリカ出身のシャーリーズ・セロンと同じく“類まれな美貌の持ち主”。『トロイ』や『ナショナル・トレジャー』などの大ヒット作にヒロインとして出演し、実際そういう役しかしばらくは来なかったんだけど、彼女たちは自分で監督や作品を選んだ結果、そこから脱却してファティ・アキン監督のような作家性の強い監督と組むという道を自分で切り拓いた、自らの力で輝く方法を見つけたんです。アキン監督とダイアンの最初の出会いはカンヌで彼女から同郷のアキン監督に声をかけたのがきっかけだったそうですよ。『女は二度決断する』の主人公カティヤと通じるものがある。そのイメージをも自分で掴み取っていくということですね」とニコールらと美しさと演技力、聡明さを含め、肩を並べるダイアン・クルーガーを大絶賛した。

『女は二度決断する』
4月14日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町 新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
監督:ファティ・アキン
出演:ダイアン・クルーガー デニス・モシット ヨハネス・クリシュ ヌーマン・アチャル ウルリッヒ・トゥクール
配給:ビターズ・エンド

【ストーリー】 ドイツ、ハンブルク。カティヤはトルコからの移民であるヌーリと結婚し、幸せな家庭を築いていた。ある日、白昼に爆弾が爆発し、ヌーリと愛息ロッコが犠牲になる。トルコ人同士の抗争を警察は疑うが、人種差別主義者のドイツ人によるテロであることが判明する。しかし、裁判は思うように進まない。突然愛する家族を奪われたカティヤ。憎悪と絶望の中、カティヤの魂はどこへ向かうのか―。

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