東北の復興に思いを寄せる中山忍が登壇『一陽来復 Life Goes On』新宿公開初日舞台挨拶レポート

東日本大震災から6年後、東北の各地で生まれる小さな希望と幸せを美しい映像で描くドキュメンタリー映画『一陽来復 Life Goes On』(3月3日より公開中)の新宿での公開初日を記念し、K’s cinemaにて舞台挨拶が行われ、東北の復興に思いを寄せる中山忍と尹美亜(ユンミア)監督が登壇した。

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監督:今日なぜ中山忍さんに舞台挨拶にご登壇いただいたかと言いますと、昨年BSジャパンで映画のナビゲート番組を制作して放送したのですが、その番組のナビゲーターとしてご出演いただいたからなんです。なぜご出演いただいたかというと、中山さんは震災直後に釜石に炊き出しに行かれていたんですよね?

中山:はい、釜石にお友達がいたので、まずは食料を届けようということで行って、その後何度か炊き出しに行きました。

監督:震災直後に行かれたと思うのですが、当時の状況をつぶさに見てどう感じましたか?

中山:この日本で、何万人という人がお亡くなりになるなんていう、信じられない、ちょっと理解できないような出来事が起こったんですが、あの光景を見たとき、町が根こそぎなくなるっていうのはこういうことを言うんだと、実際に目で見て感じました。

監督:私は震災後初めて東北に行ったのは2011年11月だったので、ガレキ等がなくなった景色でしたが、それでも何もなくなった石巻の広い、本当に広い土地を観た時にそれでもショックを受けたので、ガレキなど爪痕が生々しい時にご覧になったのは結構ショックを受けたんじゃないですか?

中山:そうですね、はい。こんなこと言ったらいけないのかもしれないですけど、当時よりも今の方が震災に対して怖いと思う気持ちが強くなりました。今回のミアさんの映画も初めて観るときは、やはり怖い、恐怖の方が大きかったです。でもどうしてこういう映画をミアさんが作ったのかなと思ったときに、寄り添うことがやはり大事なのかなと思いました。当時ボランティアに行かせていただいた時も思いましたが、本当に人一人ができることって少ないな、無力だな、って。映画を皆さんご覧になったと思いますが、(被災された方は)どれだけ怖かっただろう、どれだけ辛かっただろう、どれだけ悔しい想いをしたのだろう、と思います。それ対して私たち一人一人に何ができるだろう、と思ったときに、辛くても笑おうとする方々を、見守るって言ったらおかしいですけど、寄り添うことしかできないのではないかなと思いました。ミアさんはコツコツとそれぞれ土地に行かれて、地元の人と信頼関係を結んでインタビューをされてきて作ったと思いますが、本当に寄り添うこと、この映画を見て想いを寄せること、それは何もならないかもしれないけど、決して無駄じゃないんだな、と思いました。

監督:そうですね。映画の時は東日本大震災から6年後でしたが、今丸7年経って東北の方に想いを聞くと、映画の中でも言っていましたが、「なかったことにしたくない、忘れてほしくない、忘れられたくない」という気持ちがすごくあって、「知らなければ何も見えなければ無かったことにされてしまうのではないか」と現地の方々はそのことを一番不安がっています。私たちは被災しなかったものですから、できるだけ東北に行って現地の人と話して忘れない、ということが唯一できることかな、と思っています。実は、「一陽来復」という言葉は、冬の後には春が来る、悪いことのあとには必ず物事はいい方向にいく、という意味なんですけど、この「一陽来復」というお札を出している神社が都内で4か所くらいあって、その中の一か所、築地・波除神社に中山さんに行ってもらいました。そこでとても興味深い話を聞いたんですよね。

中山:そうですね。亡くなられた方は、神道の考えでは、一年たったら神様になって、生きている人を守ってくれる、だから寂しくないんですよ、というお話を聞いて、なんて温かいんだろうと思いました。

監督:家族を亡くされたり、大事な方を亡くされたり、そういう方は本当にどれだけ悲しかっただろう、どれだけ悔しかっただろう、私たちには想像もできませんが、でもある考え方では亡くなった方は神様になってあなたの守り神となり近くで見ていてくれています、と聞いたときは、私もすごく感動しました。そういう風に思うだけでも少しは気持ちが楽になるのではないかなと思いました。

中山:そうですね、側にいなくても一緒に観た桜の景色とか、桜を見たらあの時一緒に見たな、とかきっと思い出すとより近くに感じるのではないかな、と思います。

監督:そして、今日は中山さんのお知り合いの釜石の方が会場にいらっしゃっているそうですね。

中山:はい、当時はまだ中学生だったのかな。まだ子供で、今7年経って成人して立派になったなと、しみじみ感じているんですけど、本当にどれだけ心細かったかな、と思うと大人として今後も見守っていけたらなと思います。

監督:そうですね。この映画は津波のシーンもガレキの写真も一切でてきません。それは意図的にそうしました。というのが出演してくださった方々に、この映画を見てほしいと思いました。その方たちが観て辛いと思うような映画にしたくないと思いました。あともう一つは私たちも今東北に行ってもガレキをみることはないですけど、ないからと言って震災が無かったことではなく、ないけれども今ある風景を見ながらも、かつての風景を想像してみていただけないかなと思いがあったので、この映画の中には「今」の姿しか入れていないです。でも今だけれども、その乗り越えてきたものを心の目でみていただければいいなという想いで作りました。

中山:本当にミアさんが地元の方に寄り添って、辛いけど頑張ろうって本当によくとってくださったなと思います。

監督:東北の方々があたたかくて、私みたいな部外者を受け入れてくれたからこの映画は本当に出演していただいた皆様の映画だなと思っています。

中山:自分は無力だな、と当時思ったのですが、こうして映画を観たり、東北の人に思いを寄せることが、決して無駄ではありません。映画を見て考える機会になるというのは素敵なことだな、と思うので、皆さんもぜひお知り合いのかたに、映画をオススメしていただけますと嬉しいです。今日は本当に土曜日のお天気がいい日に足を運んでいただきありがとうございました。

監督:この映画は震災の映画ではありますが、何か困難があったときにどうやって私たちは生きていけるだろう、というお手本を東北の方々が見せてくれてるような気がしています。3.11が過ぎましたけど、いつになっても私たちはこのことを思い出せる限り思い出して、この映画も多くの方観ていただきたいと思っていますので、ぜひ皆さんこれからも応援をよろしくお願いします。

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『一陽来復 Life Goes On』
3月3日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町他、公開中
監督:尹美亜
ナレーション:藤原紀香 山寺宏一
配給:平成プロジェクト

【ストーリー】 季節は移り、景色も変わる。人々の暮らしも変わった。3人の子どもを失った場所に、地域の人々のための集会スペースを作った夫婦。津波によって海の豊かさを再認識し、以前とは異なる養殖方法を始めた漁師。震災を風化させないために、語り部となるホテルマン。写真の中で生き続けるパパと、そろばんが大好きな5歳の少女。全村避難の指示が出された後も留まり、田んぼを耕し続けた農家。電力会社との対話をあきらめない商工会会長。被曝した牛の世話を続ける牛飼い—。6年間の日常の積み重ねから発せられる言葉と、明日に向けられたそれぞれの笑顔。カメラは「復興」という一言では括ることのできない、一人ひとりの確かな歩みに寄り添う。

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