藤原紀香&山寺宏一が東北への想いを語る ドキュメンタリー映画『一陽来復 Life Goes On』完成披露試写会 レポート

東日本大震災から6年後、東北の各地で生まれる小さな希望と幸せを美しい映像で描くドキュメンタリー映画『一陽来復 Life Goes On』が3月3日より公開となる。それに先立ち、2月20日にニッショーホールにて完成披露試写会が行われ、出演した宮城県石巻市出身の遠藤伸一、尹美亜監督、そしてスペシャルゲストとして本作でナレーションを務めた藤原紀香と山寺宏一が登壇した。

lifegoeson220_2

本作は、岩手・宮城・福島で暮らす大勢の市井の人々の希望を綴り、彼らの6年間の日常の積み重ねから発せられる言葉と確かな歩みを自然豊かな風景とともに映し出す。イベントでは、出演者の遠藤と尹監督が東北での撮影について、そしてナレーションとして参加した藤原と山寺が作品への想いを熱く語った。

舞台挨拶レポート

尹(ゆん)監督:御来場ありがとうございます。今日が一般の方にご覧いただく最初の機会です。皆さまが今日どう感じ、どう伝えていただけるかが、この映画の成功のカギになるかなと思っております。最後までよろしくお願い致します。

遠藤:皆さんこんにちは。被災地・石巻から今日呼んでいただきまして、皆さんとお会いさせていただくことができました。今日はどうぞよろしくお願い致します。

MC:まずはこの映画が作られた経緯、そしてまた遠藤ご夫妻のご出演が決まった理由をお話いただけますでしょうか?

尹監督:2年前に『サンマとカタール 女川つながる人々』という震災ドキュメンタリー映画を制作して公開しました。これは宮城県女川町の「町の復興」を2年半に渡って追った映画で、私はプロデューサーとして参加しておりました。撮影を通じて女川そして東北の大ファンになりまして、東北にもっともっと通いたいなと思う気持ちがあったのと、やはり一本の作品では伝えきれないことがたくさんあり、被災された地は刻々と状況が変わり、人の気持ちも変わり、毎年毎年やはり記録映像は残しておくべきだ、と強く感じていた時に、復興庁の「心の復興」事業というプロジェクトに採択していただき後押しをいただいたため、本作を今度は3県に範囲を広げて撮ることになりました。

遠藤伸一さん夫妻との出会いは、映画の中に出てくるテイラー基金の方でした。『サンマとカタール』を観たいと問い合わせがあり、アメリカのランドルフ・メーコン大学の学生たちに石巻で上映会をして観てもらった時に、遠藤夫妻にお会いしました。「次回作にとりかかりました。被災した方で、今前を向いて頑張っている方々を取材したい」とお伝えしたら、伸一さんが「僕たちは伝えたいことがあります。だから協力します」とおっしゃってくださいました。それが2016年7月で、遠藤夫妻が一番最初に決まった出演者でした。ですのでかなり初期の段階から、この映画は遠藤夫妻を軸にして撮り進めることになりました。

MC:つらい経験を話すということは大変なことだったと思いますが、出演するのに抵抗はなかったでしょうか?

遠藤:葛藤というのはなかったです。被災して、私にとってはこれ以上しんどいことはなくて、その被災地の想いや、今まで生かされてきた我々のことを、監督は日々寄り添いながら撮ってくださったので、本当に疲れることなく、違和感ない日常を撮ってもらいました。そこは本当にありがたかったです。

MC:撮影はどのような形で進めていかれたのでしょうか?また、遠藤さんとの印象的なエピソードがあれば教えていただけますでしょうか?

尹監督:伸一さんはお子さんを亡くされていますが、家族を亡くされた方々に取材をさせていただくにあたって、私たちは出演者が嫌がる撮影をするのをやめようということを心に決めていました。撮影OKをしたものの、やっぱり実際に話すのはきついな、嫌だなと思うかもしれません。だからその部分は聞かないと決めていました。ドキュメンタリーのクオリティの意味では、聞きにくい部分を切り込んでいくことが求められるのかもしれませんが、私はそこは割り切って、出演していただいた方がこの映画に関わることでつらいと思うことがないように肝に銘じました。だから撮影という感じではなくて、友人に会いに行くような感じでお邪魔させていただきました。伸一さんたちは津波で流された自宅跡を拠点にボランティア活動をしていて、餅つきやバーベキューなどいろんな行事があるので、そこに遊びに行く、ボランティアスタッフとして参加させていただく、という感覚で通わせていただきました。

MC:本当に皆さん映画の中で生き生きされていましたね。

尹監督:本当にいつも笑っているんですね、被災地というと、暗いイメージで、悲しみの中にいるのかなと思うかもしれませんが、行ったらそうではなくて、表面的には皆さん笑っています。悲しみは内に秘めているんですね。その表にはでてこない、言葉にならないことを何とか伝えられるようにと思って撮影をしていました。

MC:多くの人が葛藤や喪失感を抱え、その人なりにそれらの感情に向き合い、一歩前へ、踏み出している姿が心に響く本作です。遠藤さんが、震災から丸7年を迎えようとしている今、一番伝えたいことを、お聞かせいただけますか?

遠藤:震災で亡くなった命がたくさんある中で、あの場面を生きるか死ぬか、というのは紙一重だったところ、生かされたんですね。その一人として、また私は3人の子を持つ親として、あの後どうやって生きていったらいいか、という望みを失ってしまったんですけど、その中で人が寄り添ってくれました。人が一人では本当にどうしようもない、という場面をたくさんの人の想いに支えてもらいました。この震災で亡くした命が、生かされた我々に伝えてくれたこと、命をもって伝えてくれたこと、それは「人間捨てたものじゃない」ということではないかと思うんですね。映画に自然の共存も出てきますが、うちの子3人の真ん中の男の子(侃太くん/かんた)が、絶滅危惧種レッドデータに興味を持っておりまして、「父さん、なんで日本オオカミいなくなっちゃったの?」と聞いてきたので、私は「人間がちょっと頭いいからって大きい顔して自分のテリトリーを広げすぎてその絶滅危惧種に回ってるんだよ。でも人間だって動物だから本当は大したことないんだよ」と答えたんですね。でも、それを侃太が「父さんそれは間違ってるよ、人間捨てたもんじゃないでしょ」って、教えてくれたように思うんですね。自然を壊すのも人間ですけど、それを修復するのも人間でしかないっていうのを、学ばせていただいたんです。

私がいた避難所は、避難所に指定されていた場所でなくて、津波から逃げ遅れたジジババが何とか助かって集まって自然発生的にできた避難所でした。そこで、ジジババ達が私達夫婦をずっと支えてくださったおかげで、いま壊れない状態でいます。それが、グリーフケアだったんだなと、後から気づきました。寄り添ってもらった者として今度は、心が痛んでいる子どもたち、いま多く増えているんですね。仮設から復興住宅、住宅再建など環境が変わる中で、子どもたちが病んできているのを支える人になりたいと思うようになって、「こころスマイルプロジェクト グリーフケアサポート」という活動の共同代表を今やらせていただいています。今度は寄り添う側の人になりたい、という新しい目標もできました。その中でもいまだに寄り添ってくださった人もいて、そういう想いだけに救われてきたんです。人が人を救ってくれたという、私が学ばせていただいたことを、今度はたくさんの人に伝えていかないと、と思っております。

MC:そしてここでサプライズがございます!会場にスペシャルゲストの方が駆けつけてくださいましたのでご紹介します。ナレーションを担当されました藤原紀香さん、山寺宏一さんです。では、藤原さん、山寺さん一言ご挨拶をお願い致します。

藤原:皆様ご来場いただきまして誠にありがとうございます。『一陽来復 Life Goes On』のナレーションを担当させていただきました、藤原紀香です。この作品を最初に観て、女性監督ならではのとても優しくて美しい映像だと思いました。震災後に何度も東北に通わせていただいた時に私が感じた想いと重なる思いがありました。それは東北に行ったときに現地の方々がこんなに辛いことがあったのにも関わらず、逆に元気づけてくれたり、「紀香ちゃん頑張ってね」「あなたに会えて生きててよかったよ」と言ってくれたり、ご自身が辛い経験があったのにも関わらず、私たちに素敵な笑顔を向けてくれたりしました。なんて人は強いのだろうと。逆に私の方が東北で出会った方たちに感謝をしています。その笑顔の裏に隠された、とてつもなく切なくて悲しい、私たちには計り知れない想いを、この映画は表現していると感じました。

この作品、ロンドン・フィルムメーカー国際映画祭でも上映されたということで、日本のみならず世界の人々にも、この東北の方々の再生していこうとする力や、努力、そして希望や優しさが、ずっと風化させることなく伝わっていけばいいなと思います。東京は3月3日から有楽町の映画館で始まります。全国順次公開していきます。どうか皆さん今日感じた想いを一人でも多くの方に伝えてください。そして同じ日本に生きるものとして自分の社会の中で与えられた役割の中で私も務めを果たしていきたいと思いますし、皆さんもどうぞ一緒に笑顔になっていきましょう。本日はありがとうございます。

山寺:久々に『シュレック』のフィオナ姫とドンキーが揃いましたね(笑)。僕は宮城県で生まれ宮城県で育ち、上京してこの仕事をしているわけですけど、この素晴らしい作品にナレーターとして携わることができて本当に嬉しく思っています。ドキュメンタリーということで撮影も大変だったと思いますけど、ナレーターは本当に状況を説明しているだけです。出演している皆様が本当に胸に残ることをおっしゃっていて、お一人お一人の言葉が僕の胸に響いて、出来上がったのを何度もみて、観るたびに泣いてしまうんですけど、このタイトルに込められた「一陽来復」。悪いことがおきた後に良いことが訪れる。そしてちょうど今の時期ですよね、寒い時期が終わって春がやってくる、というこのタイトルに込められた想いを、非常に強く感じました。

僕の友達も向こう(東北)にいるもんですから、しょっちゅう行きますが、必ずそこで友達に言われるのが「東京の人たちはもう震災のこと何にも思ってないんだべ」。それ2年目くらいから言われたんですね。「もうテレビもあんまりやってないしどうせもう大丈夫だと思ってんだべ」と言われて、そんなことねえよ!って言っていながらも僕はこっち(東京)で生活しているわけで、皆さんの本当のところはわかるわけがない。時間がたつと、自分は地元のためになんとか!と思っても、やっぱりずれてきてしまう自分に腹がたったり、友達にそれを言われて恥ずかしかったということがあります。だからこの映画を見て、東北の皆さんが今どう前を向いて生きているか、ということをたくさんの全国の方に、そして世界の方に観て頂くことで、忘れているわけないよ!ということを伝えたいと思っています。ぜひ皆さん感じたことがあったら、藤原さんもおっしゃっていましたけど、いろんなところに発信していただきたいと思いますし、僕も少しでもお手伝いできればと思っております。今日はありがとうございます。

lifegoeson220_1

尹監督:藤原さんは、遠藤伸一さんのいた避難所に行かれたんですよね?

藤原:はい、一度訪れたことがあります。遠藤さんにいただいたこのネックレス、これはガレキです(と首にしたネックレスを見せる)。震災のときに流れてきたこのガレキで遠藤さんが作ったものです。これを作られた想いとういのは、ずっと伝え続けなければいけない、忘れてはいけない、と強く思います。そして拍子木ストラップも遠藤さんが作られているんですけど…。

山寺:こちらです!(とストラップを見せる)

藤原:拍子木は、2つで1つ。やはり人間は支えあっていかないといけないんだ、という想いで遠藤さんが作られています。

尹監督:先ほど初めて藤原さんと山寺さん、伸一さんにお会いしていただいたんですけど、会った途端言葉が詰まる感じでしたね。

山寺:そうですね。僕はナレーターとして伝えるという立場なんですが、(映画の)最後の、伸一さんが講演に立たれている場面、伸一さんのメッセージを読ませていただいたのですが、なんか…逆に遠藤さんが我々のことをどのように思ってるのか気になりますけどね。

遠藤:辛い場面を読むのは大変だと思います。それをこういう風に大切な役割をしていただけたことに嬉しく思います。そして藤原さんがうちの小さな避難所を、本当に小さな避難所だったんですけどそこに来てくださいました。私はその時、給水車が来ていて出かけていたためお会いできなくて帰ってきたきに「伸ちゃん、藤原紀香さんが行っちゃったぞ」って、今日初めてお会いさせていただきました。避難所に来ていただいたときは本当にありがとうございました。

藤原:とんでもございません。

MC:尹監督、藤原さん、山寺さんにナレーションをしていただいていかがでしたか?

尹監督:皆さんも感じていただけたと思うんですけど、男声と女声が入れ替わり出てくるのですが、その違和感を全く感じさせない素晴らしいナレーションでした。お二人とも本当に気持ちが強かったんですね。私、テレビや映画の仕事をさせていただいているんですけど、ナレーションの録音が終わった後、普通はスッと皆さん帰られるんですが、お二人はずっと残って熱い想いを話されていました。そのくらい気持ちを入れて取り組んでいただけたのは本当に嬉しく思います。このお二人にしてよかったなと思いました。今日もこうして来ていただいて本当にありがとうございました。

MC:それでは最後に一言ご挨拶をお願いします。

遠藤:今日は本当にありがとうございました。映画の中に出てきた「虹の架け橋」という遊具、あれは私の自宅跡に人の想いのもと作らせていただきました。虹っていうのはつかめないですよね。私も、子どもたちと一緒に成長して生きていくということは、もう掴めないものになってしまいました。でも虹というのは見ることはできますよね。関わってくださっている方とその虹を見ることで小さい幸せをいっぱい感じられるということを、いろんな人の想いから気づかせていただきました。それでタイトルを「虹の架け橋」。人の想いでつながるという、思いを込めて名付けました。私たちが震災の後に流した涙の雨の後にでてくれた虹が、人の想いとなって繋いでくれたことに本当に感謝しています。この映画はうちの子どもたちが生きた証にもなるような、本当に人の想いがいっぱい詰まった映画にしていただいたことを感謝しています。ありがとうございます。

尹監督:今日は皆様お越しいただきありがとうございました。伸一さんもありがとうございます。この映画は、なかなか人に説明するのが難しく、宣伝配給も3人だけの小さいチームでやっております。ぜひみなさまの力を借りてこの映画を一人でも多くの方に観て頂けるように、周りの方に伝えていただけたらと思います。今日は本当にありがとうございました。

lifegoeson_s004_72dpi

『一陽来復 Life Goes On』
3月3日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町他、全国順次公開
監督:尹美亜
ナレーション:藤原紀香 山寺宏一
配給:平成プロジェクト

【ストーリー】 季節は移り、景色も変わる。人々の暮らしも変わった。3人の子どもを失った場所に、地域の人々のための集会スペースを作った夫婦。津波によって海の豊かさを再認識し、以前とは異なる養殖方法を始めた漁師。震災を風化させないために、語り部となるホテルマン。写真の中で生き続けるパパと、そろばんが大好きな5歳の少女。全村避難の指示が出された後も留まり、田んぼを耕し続けた農家。電力会社との対話をあきらめない商工会会長。被曝した牛の世話を続ける牛飼い—。6年間の日常の積み重ねから発せられる言葉と、明日に向けられたそれぞれの笑顔。カメラは「復興」という一言では括ることのできない、一人ひとりの確かな歩みに寄り添う。

©Kokoro Film Partners