世界的音楽家・坂本龍一の最後の3年半の軌跡を追ったドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』(全国上映中)の公開を記念し、TOHOシネマズ シャンテにてトークイベントが開催された。登壇したのは、ミュージシャンの小山田圭吾とサウンドプロデューサーの砂原良徳。進行は本作のプロデューサー・佐渡岳利が務め、坂本龍一という存在、そして本作に込められた“音と記録”への思いが、穏やかで深い言葉で語られた。

本作は、NHKスペシャル「Last Days 坂本龍一 最期の日々」をベースに、映画ならではの新たな映像や未発表音源を加えて完成した作品。放送当時、番組を録画しながらも「なかなか勇気が出ず、しばらく寝かせていた」という小山田は、「色々とお世話になっていた方なので、最後の姿が生々しく残っていて辛い気持ちもあった」と正直な胸中を明かしつつも、「それでも最後に思ったのは『坂本さんは本当に素敵だな』ということでした」と、静かな敬意を込めて語った。 
一方、砂原も「亡くなったことは知りながらも、あえてメディアの情報を入れないようにしていた」と振り返り、「最後まで“坂本さんらしさ”があったように感じた」とコメント。二人それぞれの距離感だからこそ浮かび上がる、坂本龍一の人間像が印象的に語られていく。 
トークは、坂本龍一との思い出へと広がる。小山田は、2000年代初頭にSKETCH SHOWの活動を通じて初めて坂本と共演したエピソードを回想。「テレビ番組やアルバム『CHASM』、ツアーなど、さまざまなプロジェクトをご一緒させてもらいました」と語り、「坂本さんは、皆さんが見ている通りの方でした(笑)」と会場を和ませた。砂原も10代の頃、札幌で偶然出会った思い出や、坂本から届いた何気ないメールのやりとりを明かし、二人の言葉からは坂本の懐の深さと人間味がにじみ出る。 
坂本龍一の音楽について問われると、小山田は「和声の美しさ、エレガントさ」を挙げ、砂原は「予想を裏切る展開があるからこそ、聴き続けてしまう」と分析。言葉を尽くした音楽談義よりも、即興演奏や“音そのもの”での対話が多かったという二人の証言は、坂本の創作姿勢を象徴している。 
映画には、氷の音や皿を割る音など、坂本が晩年まで追い求めた“音”への執念が刻まれている。小山田は「2000年以降、本当にやりたいことをやると決めたんだなと感じた」と語り、砂原も「いい音色を求めるために、贅沢と思えることも厭わない姿勢」に深い共感を示した。 
日記を軸に構成された本作について、小山田は「見られることを意識して残したものだったのでは」と推察し、「自分だったら、ここまで全てを見せることはできない」と吐露。砂原は「死と向き合いながら記録を残すことは、精神的な強さがなければできない」と語り、坂本龍一の生き方そのものに改めて敬意を表した。 
終始、坂本龍一へのリスペクトに満ちた言葉が交わされたトークイベント。『Ryuichi Sakamoto: Diaries』は、音楽家として、そして一人の人間として“何を残そうとしたのか”を静かに、しかし力強く問いかける一本となっている。 


■作品情報
タイトル:『Ryuichi Sakamoto: Diaries』
朗読:田中泯
監督:大森健生
プロデューサー:佐渡岳利、飯田雅裕
制作プロダクション:NHKエンタープライズ
配給:ハピネットファントム・スタジオ/コムデシネマ・ジャポン
公開表記:全国上映中
© “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners

