「女性や子供は常に戦争の人質」平和への祈りを歌に込めて『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩』7月公開

ウクライナの民謡をもとに生まれた有名な楽曲「キャロル・オブ・ザベル」の歌に支えられ、ひたむきに生き続ける戦時下の家族の姿を描き出した『Carol of the Bells(原題)』が、邦題を『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』として、7月7日より公開されることが決定。併せて、ポスタービジュアルがお披露目となった。

舞台は1939年1月、ウクライナのイバノフランコフスク(当時はポーランド領スタニスワヴフ)。偶然、同じ屋根の下で暮らすことになった、ウクライナ、ユダヤ、ポーランドの3家族だったが、まもなく第2次大戦が開戦。さまざまな運命が重なり、家族から引き離されてしまったポーランド、ユダヤ人の娘たち、そして、ナチス・ドイツの子どもさえも「この子に罪はない」と、一人残されたウクライナ人の母は、自分の子どもたちと同じよう懸命に戦火から守り抜く。

ポスタービジュアルは、「なにがあっても、生きる」というコピーが添えられた、ウクライナ、ポーランド、ユダヤの3家族がともに食卓を囲み一つの風景に収まるもの。人種、国、文化それぞれ違いは関係なく、人として助け合いながら清廉に強く生きようとする、その想いを象徴するものとなっている。

2022年2月24日、ロシアによるウクライナへの侵攻が始まった。ウクライナは抵抗を続け、この戦争は現在も世界中に多大な影響を与え続けているが、本作をこの侵攻が始まることを予感していたかのように2021年に作り上げたのは、これまではドキュメンタリーを主戦場としてきたオレシア・モルグレッツ=イサイェンコ監督。現在もキーウに住み、子を持つ母親でもある監督だが、「この映画は、ロシアによるウクライナの本格的な侵攻の前に制作されましたが、その時点でさえ私たちが住む国は戦争中の状況でした。老いも若きも、ウクライナに生きる人々の中に戦争や悲劇的な出来事を経験せずに生き延びている人は一人もいませんので、この映画に取り組むことは私にとって非常に重要でした」と言う。

そして「今、この映画はさらに現代との関連性が高まっています。映画で描かれたように、実際の戦争において、女性や子供は常に戦争の人質です。妊娠中だった私の姉と姪は、占領地の地下室に28日間過ごすことを余儀なくされました。なので、私は私たちの映画が記憶から消し去られてはいけない過去を反映したものであり、そして未来はウクライナ人と世界にとってより良きものになるはずだと考えています」とその想いを語り、加えて「この映画はあらゆる国家における文化と伝統が人間性においてもっとも偉大な宝物であることを提示します。登場人物たちは、作中殆どの時間を外界から隔絶されていますが、音楽が彼女らをその悲しみから守っているのです」と述べる。

本作のプロデューサー、アーテム・コリウバイエフと、駐日ウクライナ特命全権大使であるセルギー・コルスンスキーからそれぞれコメントも。「この映画は戦争こそ人類が発明した最悪のものであると人々に訴えかける重層的な物語です」「物語は女性たちと子供たちに焦点を当て、そして脚本のクセニア・ザスタフスカそしてオレシア・モルグレッツ=イサイェンコという女性映画人によって制作されました。彼らは20世紀にこの国が直面した最も暴力的で、残酷な人災であった戦火の真っただ中を生きたポーランド人、ユダヤ人、そしてウクライナ人の女性の声を代弁しています。古来より女性は家族的な伝統と国家の文化的価値観を子供たちに託す役目を担わされてきました。より良い未来を築くために、新しい世代は過去を記憶しなければなりません」「この物語において過去と現在を結び付けているのは、今や世界で最もポピュラーなクリスマスソングの一つとなった“キャロル・オブ・ザ・ベル”の基になったウクライナの新年の歌<シェドリック>です」(アーテム・コリウバイエフ)、「ウクライナは古くから侵略され続け、特にロシア革命以降ソ連とドイツから脅かされ続けてきました。その後の第2次世界大戦下では最も激しい戦闘地域のひとつでした。置かれた立場も非常に厳しく、やはりソ連やナチスに侵略され、大戦が終わってもソ連に侵略されたのです」「この歌の基になったのは、ウクライナ人がここに存在しているよと、希望の声を届けてくれるウクライナに伝わる民謡です。この映画は激動する時代の流れの中で懸命に生きる家族を描いています。ウクライナ人としての尊厳を守り続けた両親の愛に育まれた子どもたちの無垢で美しい歌声は、我々の心の奥底に染み渡ります。未来を生きる子どもたちの平穏な日々を奪う権利は誰にもないのです」(駐日ウクライナ特命全権大使・セルギー・コルスンスキー)と寄せている。

■「キャロル・オブ・ザ・ベル」とは?
クリスマスキャロルとして有名な「キャロル・オブ・ザ・ベル」は、ウクライナで古くから歌い継がれている民謡「シェドリック」に1916年“ウクライナのバッハ”との異名を持つ作曲家マイコラ・レオントーヴィッチュが編曲し、英語の歌詞をつけたものである。映画『ホーム・アローン』(90)内で歌われ、世界中に知られるようになった。この歌は「ウクライナ語、ウクライナ文化が存在している」という明確な証として今も歌い継がれている。

『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩』
2023年7月7日(金)より、新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
監督:オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ 
脚本:クセニア・ザスタフスカ
出演:ヤナ・コロリョーヴァ アンドリー・モストレーンコ ヨアンナ・オポズダ ポリナ・グロモヴァ フルィスティーナ・オレヒヴナ・ウシーツカ
配給:彩プロ

【ストーリー】 1939年1月、ポーランドのスタニスワヴフ(現ウクライナ、イバノフランコフスク)にあるユダヤ人が住む母屋に、店子としてウクライナ人とポーランド人の家族が引越ししてくる。ウクライナ人の娘ヤロスラワは音楽家の両親の影響を受け歌が得意で、特にウクライナの民謡「シェドリック」=「キャロル・オブ・ザ・ベル」は、歌うと幸せが訪れると信じ、大事な場面で都度その歌を披露する愛らしい女の子だった。しかし、間も無く第2次大戦が開戦、スタニスワヴフは、ナチス・ドイツによる侵攻とソ連によって占領、ポーランド人とユダヤ人の両親たちも迫害によって連行され、娘たちだけがスタニスワヴフの家に残されることになってしまう。残されたユダヤ人の娘ディナ、ポーランド人の娘テレサの3人の娘たちを分け隔てなく、必至に守り通して生きていく、ウクライナ人の母であり歌の先生でもあるソフィア。だがその後、さらに戦況は悪化、ナチスによる粛清によってウクライナ人である自身の夫も処刑されてしまい、自分の娘、ポーランド人の娘、ユダヤ人の娘に加えて「この子には罪はない」と言って、さらにナチス・ドイツの息子もさらに匿うことになるが。

©MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020